第176話 『 天使のお悩み教室 』
【 side アリシア 】
―― 6 ――
『ごめんねぇ、アーちゃん。せっかくクリスマスパーティーに呼んでくれたのに、行けなくて……』
「気にしないでください。それより、お出かけ、楽しんでくださいね」
電話機越しにふふ、と笑みを溢せば、朋絵が「うっ」と呻いた。
午後20時半。こんな時間に朋絵に電話したのは件についてであり、それを早速朋絵に相談に乗ってもらおうと電話をかけた。
ソウタから既に事情は聴いているので、3人が来れない事は既に知っている。それに、アリシアも朋絵と陸人が進展することを期待しているので、口にはしないが応援している。
胸中での歓喜はさておき、アリシアは声を潜めた。
「それでですね、トモエさん。相談したいことがあるんですが」
『ん、なーに……ていうか、なんでこの時間なの?』
部活で疲れているのは重々承知しているが、この時間でなければいけない理由があった。
それは、
「今、ソウタさんがお風呂に入ってるんです。なので、確実に聞かれないタイミングがここしかなくて」
『颯太に聞かれたらダメなの?』
「はい。私がトモエさんに聞きたいことは……ソウタさんの誕生日についてなんです」
すると、受話器から『あー』と理解したような吐息が聞こえてきた。
『アーちゃん、クリスマスが颯太の誕生日だって知ってたんだね』
「はい。今日知りました」
『今日⁉ ……どうやって知ったの?』
「みつ姉さんが今日遊びに来て。それで知ったんです」
なるほど、と朋絵が頷いた。
『まぁ、その誕生日である本人が忘れてたからね。みつ姉さんから聞いたなら良かった。あたしもアーちゃん知らないだろうなと思って教えようとは思ってたんだ』
「お気遣いありがとうございます」
『いいって。でも、クリスマスが自分の誕生日なのに、忘れるって普通に考えたらとは思ってるけどね』
けらけらと笑う朋絵に、アリシアも「ですよね」と苦笑してしまう。
何はともあれ、これならすぐ相談もできそうだ。颯太が入浴時間は大体20分。もう暫くは話せそうだ。
「色んな人の意見が欲しくて、ソウ……男の人って、誕生日に何を送れば喜んでくれるんですかね?」
友人にアドバイスを求めれば、返って来たのは呻き声だった。
『あたしはカレシ居た事がないしなぁ。友達といっても仲が良い男子は颯太と陸人くらいだし……そこに関しは良い考えは思いつかないや』
ごめんね、と謝る朋絵に見えないにも関わらずアリシアはぺこぺこと頭を下げる。
「では、朋絵さんはソウタさんの誕生日に何かプレゼントは送りましたか?」
『まぁね。友達だし、もっと親密になりたかったからずっと送ってはいたよ。でも、恋人でもじゃない人から高額な物とか印象下げるだけだからねー。あげたのは大抵勉強道具とかスポーツタオルとかだったよ。装飾品をあげても困るだけだろうし、その辺の配慮はしてたかなー』
「なるほど」
忘れないようにメモ用紙に書いておいて、アリシアは鉛筆を握りながら次の質問をした。
「やっぱり、送るなら部活とかで使える物がいいですかね」
『どうなんだろ。颯太。物欲少ないし、物持ちもいいからね。家にタオルは有り余ってるんじゃないの?』
「ごもっともです」
言い当てられて苦笑いすれば、朋絵が「大変だね」と労いをくれた。メモ用紙に【タオル×】と書いて、アリシアはめげずに次に行く。
「やはり装飾品が良いんでしょうか」
『アーちゃん。颯太からネックレス貰ったんだったてね』
「はい。それが凄く嬉しかったので、自分も装飾品にするのはアリなのかな、と」
『お出かけするには良いけどね。でも、普段から付けることは難しいかな』
「どうしてですか?」
疑問を声にすれば、朋絵は申し訳なさそうに答えた。
『あたしたちの高校ってさ、進学校なのね。だから、結構校則が厳しくてさ。ネックレスとか付けたら速攻で没収されちゃうんだよね』
「ひえっ」
没収、という単語に思わず背筋が凍る。
自分が思いを込めて贈ったプレゼントが、翌日に没収なんかされたらアリシアは相当落ち込むし、きっとソウタはアリシアの何倍も凹むだろう。
お出かけ用、と言ってもソウタは部活があるので休日に遊びに行く、なんてことは殆どない。学生は多忙だ。
『中々いい案が出せなくてごめんね』
「謝らないでください。私はトモエさんが相談に乗ってくれるだけでも嬉しいですから」
『アーちゃんマジ天使』
受話器から微笑が聞こえて、アリシアも笑みを溢す。
こんな風に、相談に親身に相談に乗ってくれるだけでも感謝しかないのだ。アリシアからすれば朋絵のほうこそ女神だった。
アリシアは再び朋絵から意見をもらおうと口を開いた、瞬間だった。
「アリシアー?」
と廊下から自分を呼ぶ声が聞こえて、アリシアは慌てふためく。
「やばっ。ごめんなさいトモエさん! ソウタが戻ってきてしまったので、また今度相談させていただきますね!」
『あ、うん……アーちゃんも大変だねー』
「えぇ。でも、凄く楽しいですから」
『あはは。アーちゃんらしいね』
考えることは山ほどあるが、そのどれもが心底楽しかった。忙しない日常を楽しむ自分に、アリシアは不思議に思いつつも唇を緩める。
「それでは、お休みなさい。トモエさん」
『うん。お休み~』
受話器を耳から放していく途中、アリシアはぴたりと止めた。
電話はまだ切れていないようで、アリシアは最後に一言、朋絵に言った。
「トモエさん。頑張ってくださいね」
『……うん。頑張るよ』
アリシアの言葉に、朋絵からは苦笑が返って来た。
そして、互いの聖夜の健闘を祈って、アリシアは今度こそ受話器を置いた。
「早く戻らないと」
メモをポケットにしまって、アリシアは小走りでリビングへ戻っていく。
白色の灯りが灯る場所へ通常運転を意識しながら戻れば、ソウタはコタツではなくダイニングテーブルに腰かけていた。
「あ、いたいた。何してたの?」
「ええと……お布団を準備しに行ってたんですよ」
ソウタに嘘はつきたくないが、ここで誤魔化せねばせっかくのサプライズも台無しだ。苦渋の思いで嘘を吐けば、ソウタは特に気にすることなく頷いた。
「そっか。別に寝る前でもよかったんじゃない?」
「いえいえ。先に準備しておいた方が、すんなり寝られますから!」
必死に言い訳すれば、冷や汗がすごい。
どうにかこの話題から逸らせねば、とアリシアは頭を回転させると、
「あ、そういえば、今日は見たかったバラエティ番組があるんでした! ソウタさん、一緒に観ましょう!」
時間的にもその番組が始まる頃で、アリシアは提案すればソウタは「ん」と頷いて椅子を引いた。
「じゃあ、お茶持ってくるからアリシアは先に座ってて」
「はい!」
少しだけ声音が高く返事すれば、ソウタが訝るような視線で見てきた。頬を硬くしながらその場に硬直するアリシアに、ソウタは穏やかな笑みを浮かべると、
「ココアじゃなくていい?」
「も、もう寝る前ですからね。お茶でいいです」
「わかった」
頷いてから台所に向かっていくソウタを見届けて、アリシアはどうにか逃げ切れたことに安堵の息を吐く。
言われた通りにコタツに向かっていく途中、アリシアははぁ、と肩を落とすと、
「本当に、お誕生日プレゼントどうしよう」
と深く溜め息を溢すのだった。
―― Fin ――




