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【休載中】天罰のメソッド〜処刑天使。ひきこもりの少年に恋をする〜  作者: 結乃拓也
第3部 【 群青の軌跡編 】
187/234

第177話 『 相談相手は多い方がいい? 』

えー、キリの良い所まで執筆してら本日の更新遅れました。スマソ。

ではでは、本日も天メソ劇場ご覧あれぇ。

【 sideアリシア 】


 ―― 7 ―― 


【 ケース1 アムネトの場合 】


 それから、アリシアの『ソウタお誕生日プレゼント問題』は混迷を極めていく。


「――男性への誕生日プレゼント、ですか」


 難題を突き付けられたように呟くのは、定期的にアリシアを観察しに来る変態――ではなく、聖大天使・アムネトだ。

 先述のようにアリシアの様子を窺いに天界から地球へ来訪してきたアムネトは、用意されたバームクーヘンを食べるを止めて真剣に悩んでいた。


「いきなりこんな事を相談してしまってごめんなさい」

「お気になさらないでください。アリシア様の力になれるのなら本望です。……あの者のことでなければなお重畳でしたが」

「? 何か言いました?」

「いえ。何も言っておりません」


 微かに動いた口に怪訝と眉を寄せれば、アムネトは爽やかな笑みを浮かべた。その笑みが作りものに思えるも、追及はせずに相談を続けた。


「それで、何かいい案思いつきました?」

「まだ相談されて10秒も経ってませんよ……」

「ならしっかり考えて、いい案をください。期待してますよ」

「うえぇ。そう期待されましても……私は地球で暮らしているわけでもありませんし、誰かへの送り物もしたことがありませんから」

「聖大天使でもあろう者がこんな悩みを解決できないとは……はぁ。アイディアを一つ出すまで、このおやつは没収です」

「あぁ⁉ 私のおやつが⁉」


 アムネトの思考を乱すおやつを没収すれば、目尻に涙を溜めながら思案した。

 一分、二分、時計の針音が聞こえるくらいには静謐となった時間で、アムネトは「あぁ」と妙案を思いついたように手を叩いた。


「何か思いつきましたか?」 


 そわそわしながらアムネトを促せば「はい」と頼もしい返事をしてくれた。


「アリシア様の手作り、なんて物はいかがでしょうか」

「……手作り。なるほど、その考えは思い浮かばなかったですね。さすがは聖大天使です」

「そんな褒められるほどではありませんよ」


 口ではそう言いつつも頬は緩んでいるアムネトにアリシアは苦笑する。まあ、没収したバームクーヘンを戻すくらいには妙案だった。

 それからアリシアは神妙な顔で顎に手を置くと、


「手作り、ですか……何が喜ぶでしょうか」

「もぐもぐ……あの男なら、何でも喜ぶのではないですか。アリシア様からの送り物なら」


 もはや恒例となっている返しに、アリシアは嬉しさよりも溜息が勝った。


「だからこそ困るんです。私にとって、ソウタさんに初めて送る誕生日プレゼント。下手な物なんか送れませんよ」

「アリシア様から頂くこと自体、我々からすれば神の恵みと同等ですがね……」

「私と神様では天と地ほどの差がありますよ」


 大袈裟な評価にアリシアは肩を落とす。何をどう比べれば、自分のプレゼントと神の恵みが同等になるのかさっぱり理解できなかった。


「手作りだとしても、今からだと何が作れるかな?」

「今は21日。すると残す猶予は残り4日ですか」

「時間が足らない気がする」


 眉間の皺をまた一つ重ねて呟けば、聖大天使はさらに意見をくれた。


「では、お守りなんてものはどうでしょうか。あの男は何かと問題の渦中にいますからね。厄除けとして、いくつ持っていても良いと思いますよ」

「お守り、ですか」


 アムネトから提示された案を復唱すれば、アリシアは難しい顔をした。


「いまの私に、力を込めたお守りは作れませんよ。神様の恩恵が残っているとしても、天使としての力なんて無いに等しいですから」

「力など関係ありませんよ。想いこそが力。それを、貴方たちが証明してくれたでしょう?」

「それはそうですが……」


 伏せてから片目だけを開けて言ったアムネト。その言葉に、アリシアは言い返すことができなかった。アムネトの言う通り、事実その力でアリシアとソウタは困難を乗り越えてきた。証明、とは些か大袈裟な気がするが、想いにはそれ程の神秘な力があるのはアリシアも共感できた。

 ただ、誕生日に『お守り』とはお洒落でないというか地味な気がした。

 女子の目線からだとやはり〝嬉しい〟とはならないので、堕天すればおそらく男性になるであろうアムネトに訊いてみることにした。


「アムネトは、私からお守りを貰って嬉しいですか?」


 するとアムネトは刮目して叫んだ。


「当たり前ではないですか⁉ 貴方からの送り物ならこのアムネト、生涯大切にします⁉」

「私情が多分に含まれてるので却下ですね」

「そんなぁ⁉」


 下心丸出しのスケベ天使に、アリシアは落第を言い渡したのだった。

 そして、アリシアは落ち込む天使に向かって手を叩くと、


「はら、他にももっとアイディアを出してください」

「私聖大天使なのに扱い雑では⁉」

「労働の対価は払ってるでしょう。さ、時間はありませんよ!」


 天界の司法、とも呼べる存在をこんな風に適当に扱えるのは、きっと世界中でアリシアだけだろう。


 ――ごめんね、アムネト。


 と彼をぞんざいに扱ってしまっていることを内心で詫びつつ、アリシアは悪女のようにちろりと舌を出すのだった。



【 ケース2 漁港関係者の人たち 】


「……というわけなんです。皆さんは何かいい案ありますか?」


 聖大天使の『手作り』という新しい候補を手に入れたアリシアは、翌日に漁港まで足を運んでいた。

 ここは年齢層は高いがソウタがよくお世話になっているしアリシアよりも遥かに付き合いが長いからきっと何か参考になるものが聞けるだろうと思って来た訳だ。

 するとアリシアの事情を聴いた者たちは、早速素晴らしい案をくれる――と思いきや唐突に涙を流し始めた。


「なんで泣いてるんですか⁉」


 驚愕に目を見開けば、一人の男性が不意にアリシアの両手をガッチリ握った。


「あのソウタに春が来たことは知っていたが、まさかこんな素敵なカノジョに巡り会えたとは思ってなくてよぉ! アリシアちゃん、颯太を頼むな!」

「は、はぁ……任されまし、た?」


 全員から期待の眼差しを送られて、ちょっと怖かった。

 とりあえず両手は解放されるも、


「うおっしゃ野郎どもォ! アリシアちゃんの為にも最高のプレゼント考えんぞー!」

『うおおぉぉ――ッ‼』

「そこまで気合を入れて頂かなくともいいですからね⁉」


 冬にも関わらず外気が夏ばりの熱気が立ち始めた。というか、炎まで見えた。

 目を白黒させるアリシアに、既に周囲は話し合いを始めて止まる気配がなかった。


「颯太の誕生日かぁ。やっぱ釣り竿じゃねえか?」

「バカ野郎! 釣り竿なんていくらでも持ってるだろうが! もっとマシなのにしやがれ!」

「いてぇ⁉ 何すんだこの野郎!」


 白髪の老人が提案者にゲンコツを入れて、そのまま小競り合いに突入してしまう。

 そしてその隣では、


「なら洋服なんてものはどうだ! 革ジャンなんか最高だろ!」

「どこの田舎ヤンキーだ! お前のセンスは壊滅的なんだよアホゥ!」

「んだとこの野郎! おめえだって昔は革ジャンしか着ねぇダサヤンキーだったじゃねえかよ!」

「おめえよりはマシだよ!」

「んだとこのヤロー!」「やんのかこのヤロー!」

「あのあの、喧嘩はやめてくださいね⁉」


 アリシアの弱々しい声では、潮風町の男どもは止まらない。別の意味で熱くなり始める現場に、アリシアは付いて行けずおろおろしてしまう。


「さっき手作りつってたけどよ、マフラーなんてどうだよ! 冬にぴったりじゃねえか!」


「マフラー!」とどこからか聞こえてきた妙案に歓喜の声を上げるも、間髪入れずに怒声が否定した。


「バカかおめぇ! 手作りのマフラーってめちゃくちゃ時間が掛かるんだぞ! 俺はそれで嫁にブチ切れられたんだからな⁉」

「どあはは! それで破局しかけたんだったてな!」

「昔の話を掘り返すんじゃねえよ!」


 発破をかけるように嘲笑する中年太りの男性に、腹が立った男が胸ぐらを掴む。そのまま、流れるように喧嘩に発展してしまう。

 そんな渦中にいる天使はというと、


「……マフラーは時間がかかる、ですか」


 こんな地獄絵図みたいな場所でも、アリシアは貴重な意見を脳内メモに記録しておく。見慣れたわけではないが、みつ姉からのアドバイスで、これは男ならではのじゃれ合い、と言われているので全力で気にしないフリをした。だが、やはり気になってつい見てしまうし、心配もしてしまう。

 アリシアの葛藤など知らず、男たちは自由気ままに意見を出し続けていく。


「僕ぁ断然食いもんだね! これあげて喜ばない男はいないよ!」

「それはお前だけだろ! つーか、お前のじゃなくて颯太のだろうが!」

「そうだった~⁉」

「なるほど。食べ物は相手による、と」


 段々とこの修羅場にも対応してきたのか、アリシアは雑音と罵声まみれの中から意見を拾っていく。


「俺はアリシアちゃんをおくればいいと……どぎゃふ⁉」

「「「バカ言ってんじゃねえぞお前⁉」」」


 誰かが挙手してものの、言い切る前に全員に沈められた。ゲンコツという物理技に。

 呆気に取られていると、一人の男性が泡を吹いている男性を持ち上げて嘆息した。


「こいつが今言おうとしたことはすぐに忘れてくれ。アリシアちゃん」

「は、はい」


 頷いたものの、興味があった。


「ちなみになんですが、先程あの方が言おうとしたものって……」

「「「嬢ちゃんにはまだ早い」」」


 と散々意見がバラバラだった男たちは、この瞬間だけは意見が揃ったのだった。



【 ケース3 ミチカ 】


「……そういう訳で、ミチカちゃんはどうしたら良いと思いますか?」


 ソウタの入浴を狙った僅かな時間、アリシアは友達であるミチカを次の相談相手に選んだ。

 もう何度目かになる相談事の内容を伝えれば、ミチカから返って来たのは苦笑だった。


『それ、私に訊く?』

「色々な人の意見を聞いておきたくて」


 自分に相談されたことを困ったような声音に、アリシアは申し訳なく思いながらも友人に頼る。

 しかし、ミチカはあまり乗り気ではなさそうだった。


『男の人にプレゼントって言われてもな~。私、お兄ちゃん意外にあげたことないし』

「友達にあげたことはないんですか?」

『女子の友達にはね。でも、男子にはないよ。めんどくさいから』


 淡泊に答えたミチカに、アリシアは反応に困ってしまった。ミチカは性格が細かい事を気にしない……もっと正確にいえば大雑把なので、やはりこの手の話題には不向きなようだった。


「では、お兄さんには何を贈られてるんですか?」


 聞いておいて損はないだろう、と思って聞いてみれば、


『お兄ちゃんも運動部だったからね。あげたのは部活で使えるやつだったよ。私のお小遣いじゃ、2、3000円が限度だったし、それにお兄ちゃんに大事な小遣いを使いたくないという気もあったから、気持ちだけは込めてたよ』

「気持ちは大事ですからね」

『あぁうん……アーちゃんは純粋だね』

「あ、ありがとうございます」


 感心したような、呆れたような吐息が受話器から聞こえて、アリシアは小首を傾げた。

 気を取り直して、アリシアは相談を続けた。


「ちなみにですが、ミチカちゃんならソウタさんに何を贈りますか?」

『私がソウタさんに贈るとしたら?』


 アリシアの質問に、耳朶には暫く唸り声が聞こえた。

 10秒ほど待ってから、ミチカが答えた。


『私なら、リストバンド、かな』

「りすとばんど……ってなんですか?」


 初めて聞く単語に小首を傾げれば、ミチカが驚いたように息を呑む気配がした。


『そういえば、アーちゃんて天使なんだっけ。なら知らいのも無理はないか』


 天使であることを明かしたのが功を奏して、ミチカはアリシアの無知を気にすることなく説明してくれた。


『リストバンドはね、手首に巻くブレスレットのこと。あ、ブレスレットは分かる?』

「はい。ミサンガみたいなやつですよね」

『まあ大体合ってるからいいか』


 本当に正しいのか少し不安が過るも、


「なるほど、リストバンドですか」

『うん。高校生が付けてても不思議じゃなし、普段から付けてる人もいるからね。颯太先輩の高校は校則が厳しいらしいけど、それくらいはたぶん付けててもオッケーだったんじゃないかな』

「ほおほお!」


 それは吉報だ、とアリシアは鼻息を荒くした。

 校則にも引っ掛からず、お洒落アイテムとしても部活でも使えるとなるとかなり利便性が広い。これは、誕生日プレゼントが決定したかもしれない。

 友達と通話中にも関わらず鼻歌をうたう程度には上機嫌になった。


『なんかいい案出せたみたいで良かったよ』

「はいっ。ミチカちゃんのおかげで、ソウタさんへの誕生日プレゼントを決められた気がします!」

『そっか。頑張れ~』


 ミチカからの名案をメモに書いていると、受話器からふあぁ、と欠伸が聞こえた。

 アリシアはくす、と笑みを溢すと、


「そろそろ、電話切りますね」

『あ、あくび聞こえてた? ごめんね~。でも、まだ全然眠くはないよ?』

「それでも、です。ミチカちゃんは受験生なんですから、ちゃんと休息を取らないとですよ」

『アーちゃんは本当によくしっかりした子だねー』

「ふふ。ありがとうございます」


 最後にほんの少しだけ雑談をして、そろそろ電話切ろうとした時だった。ふとメモを書く手が止まって、ミチカにこんな質問をした。


「あの、ミチカちゃんはどうしてソウタさんにリストバンドを贈ろうと思ったんですか?」


 本当に、何となく気になったからした問いかけだった。

 するとミチカは『え』と一瞬この質問に戸惑いつつも、やがて気まずそうに答えた。


『いや、全然深い意味はないんだけどね。そのリストバンドを先輩が見た時に、自分のことを思い出してほしいな、って思ったんだ。本当に全然そんな意味じゃないけどねっ⁉』

「そうですか……自分のことを」

『ちゃんとアーちゃんは自分のことだと思ってね⁉』

「分かってますよ」


 受話器越しから慌てふためく声が聞こえて、アリシアはこれっぽちも気にしていない事を伝える。

 ミチカの安堵の吐息が聞こえれば、アリシアは「それじゃあ」と前置きして、


「電話、切りますね」

『うん。お休み、アーちゃん』

「はい。お休みなさい、ミチカちゃん」


 努めて平然を装いつつ、アリシアは名残惜しくも電話を切る。ガチャリ、と受話器をしまうと、アリシアはぷくりと頬を膨らませた。


「むぅ。なんだか、この案にしてしまうと悔しい自分がいますね」


 ミチカがくれた名案。アイディアを出してくれたこと自体非常に嬉しいのだが、何故か胸にもやもやが募る。

 それを表したように、アリシアは候補の蘭に△と記したのだった。


 ―― Fin ――


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