第168話 『 それが答えで 』
そろそろ第3部第2章も終わりが見えてきました。作者の想像の倍は掛かってますww ヤバイデース
そんな今話は聖羅がようやく覚醒します。覚醒??
今日のアリシアさんも更新してるよ!【 https://ncode.syosetu.com/n7742ho/3/ 】
【 side聖羅 】
―― 21 ――
2本目も、聖羅が圧勝した。
「また負けましたぁ! 悔しいです!」
悔しさに顔を顰めるアリシアだが、やはり負けたというのに清々しそうに見えた。
「もう1本! やりましょう!」
「は、はい」
白馬の尻尾の如くしなやかな一束を振りながら再戦を望むアリシアに、聖羅は負けじと強く頷く。
3本目。
よーいどん、を合図に地面を蹴れば、それまでの競争では並んでいたはずの体躯に変化が生まれた。
なんと、アリシアが僅かに聖羅の前に出たのだ。
マズい⁉ と直感した瞬間に、聖羅は持ち味の後半の伸びを捨てて中盤でスパートをかけた。ペース配分を守れ、と颯太にいつも口酸っぱく言われているが、負ければ元も子もない。
結果的には40メートル手前で聖羅が抜き返して、そのままゴールラインを踏み越えた。
「はぁ……はぁ……危なかったー」
額の冷や汗かただの汗か分からないものを拭えば、徐々に差を埋めつつあるアリシアが地団太を踏みながら歯を食いしばっていた。
「また負けました。やっぱりカンバラさん速いですね」
「陸上部ですからね。でも、アリシアさんも凄く速いです。前半、負けるかもしれないと思いましたよ」
「えへへー。体力には自信があります」
褒められれば頬を落とすアリシアに、聖羅はやはり腑に落ちなかった。
――負け続けてるのに、なんで、そんなに楽しそうなの。
それが、聖羅には無理解だった。
自分は、負けてもアリシアのようには笑えない。別に、勝利に固執している訳ではないし、そんな生き方をしている訳でもない。でも、負けたら普通に落ち込むはずだ。自分がかなり卑屈な性格なのは自覚しているが、それでも勝負事で負ければ落ち込むのが当たり前のはず。
分からない、と心にざわつきを覚えれば、アリシアの屈託のない笑みを浮かべて指を立てた。
「もう1本! やりませんか⁉」
「ま、まだ走れるんですか」
「もちろん!」
アリシアもだいぶ息が上がっているが、それでも走りたそうにうずうずしていた。
「――ぁ」
そんなアリシアの顔に、ずっと靄が掛かっていた思考が少しだけ晴れた気がした。
もう一度……あと何度か走れば、その答えを見つけられるような気がして。
「アリシアさん。もう1本、お願いします!」
「はい! こちらこそ、お願いします!」
お願いすれば、アリシアは快く頷いてくれた。
「今度は負けませんよ」
「今度も勝ちますっ」
颯太の所に戻る間際、互いに笑みを交わし合った。
そして、二人は2分ほど息を整えてから、4度目のスタートラインに足を置いた。
いくぞ、と颯太が一拍置いて、
「よーいどん!」
と勢いよく腕を振り上げた。
「――シ!」
「はっ!」
短く、そして強く息を吐く聖羅と、可愛らしくも気合の入った吐息がほぼ同時にスタートした。
――くそ、完璧に前に出られたッ。
4度目で、アリシアが完全に前に出た。僅差だが、普通の女の子に前に出られた、という事実が精神的に聖羅を追い詰めた。
――アリシアさんが速いのはもう分かってる! だから、焦るな私、ちゃんと、自分の走りをしろ!
50メートルを走り抜ける平均のタイムは、およそ9秒前後。10秒にも満たない時間の中で、聖羅は己を鼓舞し、心を落ち着かせ、思考した。
――私の長所は、ラストの伸び。まだ、全然巻き返せる。
さらに僅かにアリシアとの距離が開くも、聖羅の心は不思議と落ち着いていた。
理由は、分からない。それでも、今の自分は――走るのが〝楽しい〟と、そう思った。
――ここ!
体に沁み込んだ感覚というのは不思議なもので、足が無意識に加速したのが分かった。
一歩、また一歩とアリシアとの距離を詰めていく。アリシアも聖羅が迫るって来るのが分かったのだろう。今日初めて、後ろを振り向いた。
「――ぁ」
そして、聖羅は人生で初めて時が停まるような一瞬を体感した。
アリシアを抜き去る直前、アリシアが追い付かれた事に奥歯を噛むのが分かった。景色がゆっくり見えて、前の朋絵と陸人の動きがスローモーションに見えた。
自分の感覚が限りなく研ぎ澄まされていく感覚。これを人は〝ゾーン〟と呼び、聖羅は今まさに、その状態に入った。しかし、本人にその自覚はない。
不思議な感覚。でも、心が躍るような高揚感に、足が自然と速くなる。
そのまま、聖羅は朋絵の横を駆け抜けた。
「ゴール!」
高らかに上がった声が耳朶に届けば、聖羅はいつの間にかゴールラインを通り過ぎていたことに気付く。
「はぁ……はぁ……はぁ――ッ‼」
聖羅は荒く息遣いを繰り返したまま、目を閉じるのを忘れて言い知れぬ高揚感に浸っていた。
「ま、また負けましたー」
「お疲れアーちゃん。でも前半は勝ってたよ。凄い、凄い」
「情けは無用ですよ、トモエさん!」
「どこで覚えたのそんな台詞……」
アリシアと朋絵の笑い声が聞こえて、そちらにゆっくりと踵を返せば、朋絵たちが聖羅を見ていた。
「凄く良い走りだったよ、神払さん」
「うん。これまでで、一番良い走りだったんじゃないか」
「私も、一緒に走ってて感動しました!」
三人から称賛が送られるも、聖羅は反応しなかった。というより、できなかった。
そんな聖羅に怪訝に眉根を寄せる三人の後ろから、颯太がこちらへ向かって来た。
この感覚を、早く彼に伝えたかった。
逸る気持ちが勝手に足を動かして、颯太の元まで走っていく。
近づいて来る聖羅を見て、颯太が何事かと眉尻を上げた。
「み、宮地くん⁉」
「ん、どうした」
大きな声で彼の名前を言えば、じっと聖羅の言葉の続きを待ってくれていた。
聖羅は荒い息を繰り返したまま、その場に跳ねた。
「私! 見えたんです!」
何が、と後ろで三人が揃って小首を傾げているが、颯太は聖羅の言いたい事が分かっているような顔をしていた。
興奮状態のまま、聖羅は両腕を振りながら言った。
「あのですね、走っている時に、アリシアさんの顔がよく見えて、それから景色もすごく鮮明に見えました! それだけじゃないんです! 足が軽くて、思い通りに動いてくれたんです!」
自分の身に起こった現象を語勢荒く伝えれば、颯太は「そっか」と微笑みを浮かべた。
それから、颯太はぽりぽりと頬を掻くと、
「俺も、そこまでなるとは思ってなかったんだけど、まあ、結果としては重畳なのかな」
「重畳?」
眉尻を上げれば、颯太はこほん、と咳払いして言った。
「神払。お前の身に起きたその現象は……ゾーンに入った、ってやつだ」
「……ゾーン」
颯太の言葉を復唱して、聖羅は目を瞬かせる。
まさか、自分がその状態に入るなんて、想像もしていなかったからだ。
それは颯太も同じだったようで、表情に変化こそないが驚いていた。
そして、颯太は聖羅の目をジッと見つめると、
「なんでそうなったのか。自分でももう、なんとなく分かるんじゃないか?」
「――たぶん」
躊躇いがちに頷けば、颯太がたぶんて、と肩を落とした。
颯太が聖羅にアリシアと走らせた意味と、陸人の意味深な言葉。なによりも、アリシアの走る姿勢を間近で見て、答えはもう喉元まで出ていた。それでも躊躇うのは、それが選手として持っていい感情なのか分からなかったからだ。
声にするのを躊躇っていれば、颯太がやれやれと嘆息した。
「はぁ。神払はもっと素直になっていいと思うぞ」
そう肩を落とす颯太が、アリシアに来て、と手招きした。
「なんですか、ソウタさん?」
すぐに駆け寄って来たアリシアに、颯太はこう問いかけた。
「アリシア。神払と走ってどうだった?」
「どうって……」
颯太の問いかけに、アリシアは一切の躊躇もなく、満面の笑みを聖羅に魅せて答えた。
「すっごく楽しいですよ!」
「――っ‼」
アリシアの本心からの答えに、聖羅は息を呑む。それは、ずっと聖羅が言えなかった感情だった。
胸の前でジャージをぎゅと握れば、颯太が腰に手を置きながら嘆息した。
「だそうだ。神払は、アリシアと一緒に走ってどう思ったんだ」
颯太の質問に、アリシアが聖羅の回答を待ち望んでいた。
「正直に言っていい。それが、俺の欲しい答えだから」
「――――」
躊躇う聖羅の背中を押すように、颯太が微笑んだ。
正直に告げていいのなら、声にする言葉は決まっていた。
ふ、と聖羅は笑って、
「私も、すっごく楽しいです!」
それが、本心からの答えだった。
聖羅の答えに、アリシアが嬉しさに目を潤ませていて、颯太は黒瞳の双眸をそっと細めた。
「それが、俺が神払に知ってほしかったものだよ」
ようやく正解に辿り着いた聖羅に、颯太は今までで一番朗らかな声音で言ったのだった。
―― Fin ――
最近は自分の努力が認められて気がしてまだまだ頑張らないといけないなと思い始めました。これからもこのペースを維持しつつ、読者の期待に応えられるような物語を書き続けます。まぁ、そうなると作者は『今日も原稿かぁ』と病むんだけどなww
そんな作者と天メソの応援宜しくお願いします!! 皆様のご感想、心よりお待ちしております!!
今日のアリシアさんも宜しくデース♪♪




