第167話 『 50メートル走1本目 』
今日は『今日のアリシアさん』も更新だよ! リンクは後書きにて!
本日も天メソ劇場開演だ――!!
【 side聖羅 】
―― 20 ――
「二人とも、アップはもういいか?」
「はい!」
「はいッ」
アリシアとほぼ同時に返事をすれば、颯太はこくりと頷く。
前を見れば朋絵たちも準備は整っているようで、部活ではないがひりついた緊迫感が心臓の鼓動を上げた。
「……大丈夫。落ち着け、私」
深く息を吐いて、瞼を閉じる。自分に暗示を懸けるように静かに言えば、聖羅はゆっくりと瞼を開けた。
それから隣で走る少女の様子を窺えば、
「――――」
集中、しているのだろう。アリシアは目を閉じたまま空を仰いでいて、その場に佇んでいた。それはまるで、頭の中で何かをイメージしているようだった。
そんなアリシアを見て、颯太が嬉しそうに口角を上げていた。
「よし。これで、本当に準備完了」
そっと開かれた金色の双眸に、聖羅は瞠目する。
明らかに、空気が変わった。一目でそう分かるほど、アリシアの変化に聖羅は驚愕した。
「私、頑張りますね。カンバラさん!」
「は、はい。私も、負けないように頑張ります……」
愛しい顔から凛々しさが浮かび上がって、聖羅を映す金色の瞳には気合が入っていた。
その逞しい笑みに、聖羅は〝敗北〟の二文字が脳裏に過って――
「勝つんだ……」
負の思考を、聖羅は強く頭を振って振り払う。
負ける訳にはいかないのだと、そう自分に言い聞かせた。
「それじゃあ、二人とも位置についてくれ」
颯太の合図とともに、聖羅とアリシアはスタートラインに代用されたマスキングテープを踏む。
周囲の空気が静まり返って、互いの息遣いがよく聞こえた。
相手は運動部でもなければ普通の女の子に、油断すれば負けることだけは分かる。
負けられないと、これほど緊張したのは初めてだった。
――私だって、陸上部の一人なんだ。負ける訳にはいかない。
そう己に言い聞かせて、生唾を飲み込むとほぼ同時。
「よーいどん!」
と颯太が勢いよく腕を振り上げて聖羅とアリシアは同時に地面を強く蹴った。
――やっぱり、アリシアさん速い!
スタートから15メートルはアリシアの姿が横目で捉えた。強く呼気を吐いて、必死に聖羅を抜かそうとしてくる。が、20メートルを過ぎた辺りから二人の差が徐々に開いていく。
当然だ。相手は所詮、普通の女の子だ。聖羅より身長も一回り小さいし、足のスライドと体格の違いが、ここで二人の差を如実にした。
それに、聖羅の長所は後半の伸びだ。颯太にも太鼓判を押されたラストの加速で、40メートルを過ぎた頃にはアリシアを完全に振り切っていた。
結果は、聖羅の圧勝だった。
「ゴール!」
と朋絵が高らかに言って、聖羅はゴールラインを走り抜ける。
「よがったぁぁ!」
全身から力が抜けたように安堵すれば、数秒遅れてアリシアもゴールした。
アリシアは「はぁはぁ」と荒く息遣いを繰り返しながら近づいて来ると、
「やっぱり、カンバラさん凄く速いですね!」
「は、はぁ……」
負けたのに爽やかな笑みを送られて――聖羅は戸惑った。
どうして、負けたのにそんな顔ができるのだろう。
これが練習だからだろうか。それとも負ける可能性の方が大きいと分かっていたからか。いずれにせよ、アリシアの真意が分からず困惑した。
そんな聖羅の心情など知らない少女は、無邪気に笑みを浮かべながら聖羅に言った。
「後半なんてギュイイン! って感じで速くなって、もう追いつけなかったですもん!」
「あ、ありがとうございます」
キラキラと子供のような目で称賛してくるアリシアに、聖羅は普段褒め慣れないせいでどう反応すればいいのか狼狽した。
――最初から、勝つつもりなんてなかったのかな。
アリシアがあまりにも悔しそうな表情をしていなかったから、そう思った時だった。
「いやー。やっぱり悔しいですね」
「あ、やっぱり悔しんですね」
その割にはあまり悔しそうな顔じゃないな、と胸中で呟くと、
「二人ともお疲れー」
「「お疲れさまです」」
朋絵と陸人が寄ってきて、二人を労った。
「アーちゃん惜しかったね。次は勝てるかもよ」
「そうですね。もう1本あれば、今度こそ勝ちたいです!」
にしし、と笑う朋絵に、アリシアもまだまだいけると腕を上げた。
朋絵がアリシアに構っているのを見ていれば、聖羅には陸人が声を掛けてきた。
「神払さんもお疲れ。アリシアちゃんに勝ててホッとしてる?」
「えぇ。これで負けたら……私部活辞めてました」
はは、と暗い笑みを浮かべれば、陸人が困ったように頬を引き攣った。
「ま、まぁ。運動部と普通の子じゃこの結果が普通だわな。アリシアちゃんも相当速いけど、神払さんが勝つのはほぼ確定だった思うよ」
「それならどうして、宮地くんは私とアリシアさんを勝負させたんでしょうか」
颯太の目的が分からず視線を落とせば、陸人がやれやれと肩を竦めた。
「あいつ、全然自分の考えてること言わないしな。神払さんが苦労するのも無理ないよ。でも、颯太が神払さんとアリシアちゃんを走らせた意味は、俺も朋絵もなんとなく分かるよ」
「――え」
陸人の言葉に、聖羅は目を大きく見開いた。
目を瞬かせていれば、陸人が続けた。
「俺は颯太の考えは好きじゃないんだよね。なんとなくで始めたことだし。俺が走ってる理由は超個人的なものだから。でも、これが今、神払さんにとって必要なものだってことは分かる。……ホントに、人って変わるもんなんだなぁ」
そう感慨深そうに語る陸人の視線の先には、不機嫌そうに近づいて来る颯太がいた。
「何かお前からムカつく思想を感じる。蹴っていいか?」
「アリシアちゃんがいる前で果たして俺を蹴れるかな、少年よ」
挑発めいた笑みを浮かべる陸人に颯太は忌々しそうに舌打ちした。それから嘆息すると、黒瞳が聖羅を見つめてきた。
「遠くから見てた。良い走りだったよ」
「あ、ありがとうございます」
穏やかな笑みと称賛に、聖羅は不意打ちをくらってわずかに頬を朱に染めた。
顔を背けているとアリシアが颯太に飼い主を見つけた犬のような勢いで近づいていた。
「ソウタさん! 私は、私は⁉」
「アリシアも凄く速かった。流石は俺の自慢の恋人」
「えへへ」
称賛と頭をなでなでされているアリシアに、聖羅はむっ、と頬を膨らませた。ちなみに、朋絵と陸人は「うえぇ」と苦虫を噛んだような凄い形相をしていた。
恋人の特権ではあるが、やはり称賛にも違いがあるのは羨ましかった。
ちょっぴりアリシアに嫉妬心を抱いていると、颯太が撫でるのを止めて振り向いた。
「神払、もう1本いけるか?」
少しだけ頭を撫でられるかも、とそんな淡い期待は刹那に消えて、代わりに言われたのは案の定おかわりだった。
聖羅は残念そうにため息を吐くと、
「はい。私はいけます」
「ん。アリシアは……」
「あと10本はいけると思います!」
――そんなに走るの⁉
元気いっぱいなアリシアに聖羅はたまらず頬を引き攣らせた。
まあ、これは特訓だし。それくらいは普通かもしれない、そう心に言い聞かせるも、流石に10本は気が引けた。
嫌な気配をひしひしと感じていると、颯太とアリシアの会話に戦慄が走った。
「アリシアがやる気なのは分かったけど、それは神払と相談かな。……でも、今日はそれくらい走るつもりだから、疲れたらちゃんと休憩とろうね」
「本当にそんなに走るんですか⁉」
思わず胸中で思惟していた事が口から飛び出てしまって、口を塞ごうにも遅かった。
やば、と冷や汗を掻く聖羅に、颯太は邪悪な笑みを浮かべると、
「当たり前だ。今日は、この4人が、みっちり神払に付き合うからな。覚悟しとけよ」
「はは……ははっ……」
そんな颯太の言葉に、頬が勝手に引き攣った。
勘弁してと、そう胸の中で嘆くのだった――。
―― Fin ――
いいねなどなど感想募集中でございます。ポイントや評価をしていただけると作者の精神的な励みになります。このままじゃ作者ミイラになるww
天罰のメソッド番外編:『今日のアリシアさん』リンク↓↓↓
【 https://ncode.syosetu.com/n7742ho/ 】
今話『アリシアと苦手』→【 https://ncode.syosetu.com/n7742ho/3/ 】




