第166話 『 負けられない戦い 』
なんと初めてレビューを頂きました! 圧倒的土下寝!! ほんとうにありがとうございますぅ。
皆様の期待に応えていけるように、これからも日々精進してまいります!!
【 side聖羅 】
―― 19 ――
「よし、神払。アリシアと50メートル走競争してくれ」
休憩も終わり、いよいよ特訓が始まると身構えると、颯太の言葉に眉根を寄せた。
「え、私と、アリシアさんがですか?」
「あぁ。嫌なら朋絵とでもいいけど」
と言われてアリシアを見れば、潤んだ瞳で「嫌ですか?」と訴えられて心が抉られたような痛みが襲った。
そんな捨てられた子犬みたいな顔をされては断る選択肢も潰えてしまって、聖羅は躊躇いがちに頷く。
「わ、分かりました。アリシアさんと走ればいいんですね」
「言っとくけど、手加減するなよ。そしたら神払の特訓の意味がないし、なにより……」
「私、全力で走りますからね!」
「そういうことだ」
颯太から視線を受け取ったアリシアが、彼の期待に応えるように力強く頷く――そんな自信満々な表情が羨ましくて、聖愛は頬を硬くした。
「……私も、全力で走りますッ」
真紅の双眸に気合を込めて、両脇をグッと締めた。
聖羅のやる気に颯太はよし、と顎を引くと、
「陸人、お前は俺の正面に立って、線の役割をしてくれ」
「おっし。俺は走らなくていいのか」
「お望みなら後で俺が一緒に走ってやるよ」
邪悪な笑みに陸人が「遠慮します」と冷や汗を流して、颯太は嘆息すると次は朋絵に視線を移した。
「朋絵はゴールテープの代わりをやってくれ」
「オッケー。タイムは?」
朋絵が手でランニングウォッチを押すジェスチャーをすると、颯太は首を横に振った。
「一応持ってきてるけど、今日は学校と環境が違うから計らなくていい。必要なら取るから、持っておくか?」
「そうだね。持っておいたほうが後々楽そうだし貰っておくよ。というか、コンクリのタイムもあった方がいいんじゃない? 颯太、神払さんのタイム纏めてるんでしょ?」
「そうだな。あった方が俺的には色々参考にできるから助かるけど、任せていいか?」
「余裕~。ふふッ。颯太より上手くやってみせるよ。ノート持ってきてる?」
「一応な。それも渡しておく」
「了解ー」
流石は二人ともマネージャーなだけあって、連携がスムーズだ。隣ではアリシアも「二人ともカッコいいなぁ」と感嘆していた。同感です、と胸中で感動に痺れていると、朋絵との話し合いを終えた颯太に陸人が挙手していた。
「なー、颯太。今の話なら、俺は朋絵といた方がいいだろ。タイム計るならそっちに集中させた方がいいし、合図受け取る掛かりは俺がやるよ。お前一人でもスタートの合図はできる、つーか余裕だろ?」
「……だな。そしたら、陸人も朋絵のとこに行ってくれ。スタートは俺がやるから、お前たちは記録を頼む」
「ウィーッス」
ひらひらと手を振って、陸人が朋絵のほうへ向かっていく。
互いに意見を出し合って、最善の行動をする様に、聖羅とアリシアは感嘆していた。
「……陸上部みたい!」
「いや、神払も陸上部だろうが」
そうツッコむ颯太に、聖羅はいやいやと手を突き出した。
「私なんて、まだ入部したてのひよこ……卵同然ですから‼ 宮地くんたちのようにスムーズに連携はできません!」
「慣れだよ、慣れ。俺たちは5年くらい一緒に部活やってるしな。朋絵はマネージャーとして優秀だし、陸人もああ見えて結果は残してるからな」
颯太が大袈裟だよ、と苦笑しても、聖羅にはそんな事はなかった。
長年一緒にいる、というのも関係しているだろうが、それ以上に3人の連携は見ていて感服する。そんな関係に憧れもするし、悔しくもあった。早く、その輪に入りたいと思った。
「皆が私の為に頑張ってくれてる。私も、ちゃんと頑張らないと」
自分の為に、友達がここまでしてくれている――その期待に応えたいと、聖羅は俄然気合を入れた。
「……はぁ」
「ん?」
颯太が重々しい溜息を吐いたのは、アリシアは気付いたが聖羅は気付かない。
「二人とも、ウォーミングアップで地面の感触は確かめただろうけど、距離を覚える為に2、3回軽く走ってくれるか」
「「わかりました」」
アリシアと一緒にこくりと頷いて、聖羅は息を整えた。
おそらく50メートル地点であろう場所には朋絵と陸人が既に立っていて、颯太が「アップだから取らなくていい」と叫んだ。二人が両手で丸を作ったのを見てから、聖羅は顎を引くと、
「よし」
足に力を入れて、コンクリートを蹴った。
走力は颯太に言われた通り、3/2の程度を意識して走る。
――うん。体の調子はいい。今日の為に、しっかり寝たのが良かったのかな。
跳ねる、まではいかないものの足は自分の思い通りに動く。地面を蹴る感触も、ちゃんと足裏に感じる。
ものの数秒で朋絵たちの元まで走り抜ければ、聖羅は深く息継ぎをした。
「調子良さそうだね」
「はい。体、スムーズに動いてくれます」
「……そっか」
「?」
と朋絵が何か理解したように吐息して、聖羅ははてと小首を傾げる。陸人と視線だけで意思疎通しているようで、二人の思惑がよく分からなかった。
「あの、私の走りに、何かおかしな点でもありましたか?」
あまりに気になったので問いかければ、朋絵はぎこちなく首を振った。
「ううん。なんにもないよ。好調なのは良いことだから、その感じ、忘れないでね」
「は、はぁ」
困惑しながら頷けば、朋絵に「ほら、もう1本」と急かされた。まだ小骨が喉に詰まったような違和感があるが、もう一度走りに戻ろうとした時、白銀のポニーテールを揺らす少女が走り抜けた。
「ふぅー。私も、調子良さそうです」
その華麗な走りに、聖羅は目を瞬かせる。
「あ、あのアリシアさん。全力ではなく、アップですよね?」
「えぇ。ソウタさんの言う通り、ちゃんと軽く走りましたよ」
「あ、あれが軽く……」
アリシアの走りに、聖羅が呆気に取られる。
「まぁ、ほんの少しだけ速く走ってしまった気がしなくもないですかね。次はもう少し調整した方がいいかな」
「あ、あれれぇ?」
ウォーミングアップの時から思っていたが、眼前の少女、実はかなり足が速いのではないか――否、絶対に速い。
先の走りを見て、聖羅はアリシアの走力に並々ならぬ恐怖を覚えた。
――もしかして、私負ける⁉
漠然と、しかし充分にありえた可能性に、聖羅は人知れず戦慄した。
部活でもなければ大会でもないから緊張はあまりしていなかった。しかし、相手は年齢的には中学生で運動部でもない。そんな子に負けたら、たぶん聖羅は当分立ち直れない気がした。
――これでアリシアさんに負けたら、私、皆の笑いものなのでは⁉
だせぇ、と颯太たちに鼻で笑われる妄想が膨らんで、聖羅は生唾を飲み込んだ。
「……負けられない、絶対に⁉」
かくして、聖羅の負けられない50メートル走が始まったのだ。
―― Fin ――
そんな訳で次回、聖羅とアリシアの負けられない戦いが始まります。まぁ、負けられないのは聖羅だけなんですけどねww
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