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【休載中】天罰のメソッド〜処刑天使。ひきこもりの少年に恋をする〜  作者: 結乃拓也
第二部 【 紫惑の懺悔編 】
135/234

第126話 『 純大天使――イザベラ 』

ついに正体したイザベラ様。天使としての階級はアリシアと同じ『純大天使』です。

さぁ、今日も天メソ劇場をご覧あれ――。

【 side颯太/イザベラ 】

 

 ―― 39 ――


「ふぅ。久しぶりにこの姿に戻るけど、やっぱ本来の姿の方が落ち着くわね」


 何が、どうなっている。

 眼前の光景に、颯太はただただ困惑した。

 いまだ明滅を繰り返す視界が拾った情報は、理解の範疇を優に越えていた。

 目上に、天使。同じ視線に、倒れている少女がいた。


 ――どうなってんだよ、これ。


 無理解の状況に喘げば、その醜態を天使は睥睨していた。


「驚いたでしょ。まさか、天使が人に〝憑依〟してるなんて」

「――ッ⁉」


 あまりに荒唐無稽な天使の言葉に、颯太はありえないと胸中で否定した。

 天使が人に憑依するなんて、そんな話はアリシアからもアムネトからも聞いたことはなかった。

 けれど、その言葉の信憑性を裏付けるのは、何よりも目先の光景で。

 愕然とする颯太の思考を読み取ったかのように、天使は告げた。


「知らないのも無理ないわよ。だってこれ、禁術だから。私以外知らないし、使えないの」


 それはつまり、


「これ使ってるのが気付かれたら、私はお終いね。天界の法に叛いたことになって、処刑されちゃう。でーも、気付かれなければ、何ら問題はないわね」


 自己完結させた天使に、その歪み切った性格に、颯太は心臓が鷲掴まれるような恐怖に襲われた。

 本能が、颯太に訴えてくる。

 今まで在ったどの天使よりも、彼女は凶悪だと。


「さて、体のほうは……うん。異常はないわね。思ったより憑依した先が私にフィットしたおかげかしら。カンバラ・セイラには感謝しないと」


 しゃがみ、天使は意識のない『神払聖羅』にお礼を言った。その笑みが嘲笑だというのは、否応なく分かった。


 ――こいつは、何なんだ。


 眼前。それは天使いうより悪魔だった。

 凛としていた目つきはさらに冷酷を増して、真紅の瞳が下弦の月ほどしか光が見えない。小さな顔は退屈を張っているが、その絶世の美貌があらゆる感情を『美』へと変換させている。

 体躯はその美貌を魅せる為か、かなり生地の薄い黒のランジェリードレスを纏っていた。

 豊満な胸を恥じらうことなく晒し、病的なまでに白い腕をこちらも黒のアームカバーで覆っている。長く、艶めかしい脚はタイツで隠していて、彼女の全てが人の欲望を駆り立てるような姿だった。

 そんな姿はまるで、イザベラの魂を投影しているようにも見えて――。


「イザベラ……っ」


 痛みを堪えながら立ち上がり、そして戸惑いながら眼前の天使の名前を呼べば、彼女は髪を指に巻いてくるくるさせながら「そうよ」と答えた。


「私は純大天使〝イザベラ〟――さぁ、私を崇め、そして跪きなさい」

「ッ⁉」


 その冷然とした双眸に、颯太の全身が畏怖に震えた。

 ――たしかに、この圧倒的な存在感は、天使だ。

 イザベラからは、アムネトと同じ強者な雰囲気を感じた。

 荘厳で豪奢であり、人外たる相貌から放たれる重圧。

 その圧倒的な重圧を浴びて、颯太の足が竦んだ。


「ふふ。なーんてね」


 驚愕する颯太に向かって、イザベラは張りつめていた空気を霧散させた。


「ちょっと貴方を揶揄ってみただけ。だからそんな怖い顔しないでよ」


 その仕草や声音は聖羅であった時の素振りだった。聖羅と話している感覚、なのに、頭はずっと警鐘を鳴らしている。


「なんで、天使が地球にいられるんだ……」

「んー。その質問に答えたら、私と付き合ってくれるのかなー」


 颯太の問いかけにイザベラは挑発的な笑みを浮かべて応じた。


「答えは、さっきも言ったろ」


 そう答えれば、イザベラは「つまらない」と唾棄した。


「本当に、キミは馬鹿なくらい一途ね。聞いていてうんざりするし、吐き気がするわ」

「それが、お前の本性か」


 容赦なく罵声を浴びせるイザベラに、颯太はキツく睨んだ。

 向けられる厳しい双眸に、イザベラはくふふ、おかしそうに笑うと、


「そうよ。これが、本当の私。見事に黙されちゃったわね、ソウタくん」

「天使じゃなくて、悪魔の間違いだろ」


 嘲笑するイザベラに鬼のような形相を向けても、彼女は気にも留めず、


「私は天使よー。それをちゃーんと覚えてくれないと……次は四肢を飛ばすわよ」

「――くっ」


 言下に険が籠り、イザベラを無闇に挑発できないと悟った。

 言葉一つを慎重に選ばなければ、颯太はイザベラに消される。おそらく、彼女の告白を断った時点で、イザベラはもう颯太を興味の対象として捉えてはいなかった。

 言葉を、選ばなければ。言葉通り消される。

 畏まった颯太を、イザベラは重畳だと微笑みながら、


「いいわ。教えてあげる。私が遠路はるばる地球へやって来た理由を」


 イザベラはひょいっ、と机に腰を下ろすと、両手に顔を置いて明かした。


「私が地球に来た理由はね。ずっと目敏くて大嫌いだったあの子を消すためよ」

「あの子って……まさか⁉」


 あの子、と名前は上げずに目的を明かしたイザベラ。けれど颯太は、瞬時に気付いた。

 先述の会話を思い出せば、すぐに理解できる。


 ――『その友達は、いつもひたむき努力してて、ひたすらに真っ直ぐで、真面目で優しかったから周りにいつも誰かがいた』

――『私は、あの子が凄く羨ましかった。私より才能があって。周りの期待に応えようと努力するあの子が、私は、嫉妬するくらい羨ましかった』


イザベラの友達とは――


「お前が消そうとしてるのは、アリシアか!」

「ご名答!」


 ハッ、と顔上げてイザベラが意図的に伏せていた名前を呼べば、彼女は満面の笑みで肯定した。

 その笑みに、颯太は無理解と首を振った。


「なんで、お前がアリシアを消すんだ⁉ 同じ天使だろ⁉」

「そんなの嫌いだからに決まってるじゃない。アイツがいる限り、私はずっとアイツの影に埋もれたままなの。だから消すのよ」

「ふざけんな!」


 冷淡に告げるイザベラに颯太は込み上がる怒りをぶつけるように叫んだ。


「どうしてそんな理由でアリシアを消せる⁉ どうして、あんなに優しい天使を嫌いになれるんだ⁉」


 そう訴えれば、イザベラは腹を抱えて嗤った。


「あはは! 優しいだって! ホントに、ソウタくんは馬鹿ね!」

「なんだと⁉」

「アイツの優しさは全部偽善よ! アイツは、自分が優しくされたいから誰にでも愛想振りまいてるだけの、ただの神の傀儡!」

「アリシアは人形じゃない! アリシアは心がある天使だッ!」

「天使じゃなくて人でしょ!」

「ッ!」

「貴方が! あの子を人間にしてしまったんだものねぇ‼」


 その声音はまるで、颯太を糾弾するかのようだった。


「貴方って本当に馬鹿。天使を人に堕とすって意味、本当に理解してるの? 私たちは神の使いであり、高尚なる存在なの。それを、人間ていう醜くて下等な存在に堕落させようなんて思考、正直言って怖気がするわ。頭狂ってるんじゃないの。ま、それを受け入れるアイツも大概だけれどね」

「くっ」


 ハッ、と心底不快げに鼻を鳴らしたイザベラに、颯太は口を噤む。正論だ。天使からすれば、颯太の考えはやはり狂気そのものなのだろう。

 自責の念に囚われた颯太に、イザベラはその双眸をさらに冷酷にする。


「天使のくせして人間なんかになるから、感情のコントロールもまともにできずに自壊するのよ」

「――ッ! 知ってたのか、アリシアが自分の感情を制御できないこと」

「当たり前でしょ。だって、私はそれを利用したんだから」

「利用? どういう意味だ」


 声を震わせれば、聖羅は「種明かしの時間ね」と、吐息して全てを明かしていく。


「天使っていうのはね、心がないのよ。だって魂を救済する存在だから。使命を全うする以外を神は望んでないの。心なんてものは不要だと、神様が与えてくれなかったから。だから私たちには、魂という空っぽの器しかない」


 以前、アリシアが同じようなことを言っていた気がした。ただ、イザベラの口調はどこまでも刺々しいものだった。


「そんな空っぽの器に、いきなり大量の水を注いだらどうなると思う? 溢れるわよね。それが、今のあの子の状態」

「……暴走のことも、お前知ってたのか」

「うふ。私、そこら辺の天使より頭が良いのよ」


 アムネトの懸念していたのは、まさにそれだった。そして、既にイザベラは天使の暴走の件を知っていた。

 衝撃に震える颯太に、聖羅は足をぱたぱたさせて続けた。


「ゆっくりであれば、器は大きくなり成長していく感情を淀みなく受け入れていける。でも、器が大きくなる前よりも、感情の成長が早かったら? 掛かる負担を処理しきれず思考が暴走する」

「――――」

「貴方はもう知ってるわよね――だって、あの子に『愛』という感情を与えてしまったのだから」


 イザベラは、全てお見通しだった。

 その策略に、颯太は、アリシアは、操り人形のごとく踊らされていた。

 息が、少しずつ荒くなっていく。


「愛は、人間だと最も欲深い感なのよね。愛の為なら人は正義にだってなれるし、どんな残酷な悪人だってなれる――そんな欲まみれの感情を、小さな器に注いでみなさいよ。すぐに溢れるわよ」


 滑稽だと、イザベラは嘲笑した。


 ――ハァ。ハァ。ハァ。ハァ。


 足りなかった。

 どれだけ酸素を肺に入れても、足りなかった。


「もともと許容の多くなかった器は、いつ溢れてもおかしくないギリギリのラインで留まっていた。けれどそこに、許容外の感情を注げば? 怒りや悲しみ、負の感情はその器にはとても収まらない。愛で満たされた器に、私はアイツに悲しみを、怒りにを、憎しみを注いであげたの。するとあら不思議。勝手に自滅しちゃった!」

「お前⁉ まさか全部、仕組んでたのか⁉」

「気づくのが遅過ぎよ! 人間!」


 アハハハ! とイザベラが高らかに笑った。

 神払聖羅の標的は、颯太ではなかった。その隣にいる、天使だ。

 イザベラが神払聖羅として颯太に近づいたのは、全て――


「貴方に近づいたのは、アイツの様子を監視する為! 貴方と仲良くなったのは、アイツに嫉妬してもらう為! 貴方に告白したのは、アイツの感情を暴走させる為! ――全部私の思い通りになったわ! ありがとう人間さんッ!」

「ふざけんな⁉ どれだけ、俺たちを侮辱したら気が済むんだ!」


 滑稽だと愚弄するイザベラに、颯太は怒りに顔を歪ませる。

 イザベラは、自身の欲求を満たすためだけに神払聖羅に憑依し、颯太とアリシアの絆を引き裂こうとした。否、それで飽き足らず、人の心すらも、踏み躙った。


「お前は、天使なんかじゃない、悪魔だッ」

「ほざきなさいな。貴方がどう思うが、もう手遅れなんだから」


 非難しても、それすらもイザベラは鼻息一つで吹き飛ばす。どれほど言葉を重ねようとこの天使に響くことはないのだと、颯太は理解した。


 ――こいつは、俺なんかじゃ、相手にならない。


 もはや、イザベラは暴君だ。己の考えが正論だと、それを捻じ曲げることなく、その独善を振るう暴君。誰の言葉も、彼女の耳に届くことはない。

 眼前の邪悪な存在に打ち震えていると、一息吐いたイザベラは――更なる事実を明かした。


「アイツは、私の手でもう一度葬る。今度こそ、確実にね」

「もう一度、って……」


 イザベラの吐いた言葉に、ドクン、と心臓が跳ねた。そこから先を聞けば、自分の感情が、怒りだけに呑まれる自覚はあった。

 荒い息を繰り返し、どうにか冷静さを失わぬように先を促せば、イザベラは颯太の反応に興味を示したのか、その艶めかしい唇を開いた。


「貴方は、どうしてアリシアが天界で処刑されたか、さすがにもう知ってるわよね」

「……救っちゃいけない魂を、救ったからだ」


 保管所に保管されている魂は、専門の天使らによって管理されていると訊いた。


「保管所にある魂が、自分から外に出ることはない」

「えぇ。もう死んじゃってるからね。意思が少しだけ回復すのは、採決の場で天国か地獄かのどちらかに送られる時だけ。それ以外で、天界で魂が自立することはない」

「アリシアは、そんな魂を導いて、それで天界の法に叛いたことになって、処刑された」

「すごーい。全部知ってるのね。さすっが、天使に愛されてる男だけはあるわ。信用されちゃってまぁ。ホントに可哀そうな子」


 颯太を憐れむ真紅の瞳に、奥歯を噛みしめながら、


「話を逸らすな。お前は、アリシアが処刑されなきゃならなかった理由を、知ってるのか」

「えぇ。もちろん。だって――」


 アムネトは、意思を持たぬ魂が勝手に管理所から出ることは決してないと断言していた。だから、颯太もアムネトも、疑っていたのだ。

 誰かが、保管所の鍵を故意に開けたのではないかと。

 いっそう凶悪に笑った顔から、放たれた言葉は――


「それ、開けたの私だから」

「――ッ!」


 怒りが、怒髪天を貫いた。

 握った拳は爪が肉を抉って、血が滲み出すほどだった。痛い。けれど、その痛みすらも、どうでもよかった。


「お前が! お前がアリシアを嵌めたのか⁉」

「そうよ! 私があの子を嵌めてあげたの! アハハハハ!」

「笑って済む事じゃないだろ! なんでッ、そんな非道なことができるんだッ!」


 魂すらも弄び、その弄んだ魂でアリシアを殺した。悪辣を越え極悪と成った元凶に、颯太は怒りをぶつけた。


「アリシアはずっと後悔してた! 天界の皆を裏切ったってずっと悲しんでた! 大切な人たちを悲しませてしまったって! あの子の天使としての優しさを、お前はどれだけ踏み躙ったんだ⁉」

「私にとってアイツは目障りだったから消したのよ! 優しさなんてものアイツにありはしない! 慈愛なんてものは嘘偽り、神の傀儡風情が調子に乗るから、消されるんだ! 天罰でしょ!」

「ざけんな! 全部お前がッ、アリシアを勝手に憎んでやったことだろ! 天罰なんかじゃない! お前のその悪辣さが、起きなかった悲劇を生んだんだ!」


 イザベラは、アリシアの優しさを利用した。

 その悪辣さに、体が怒りで震える。


「お前はアリシアだけじゃない! 天界の皆を裏切ったんだ!」

「あそこにいる連中は揃って愚かだからあの子が勝手にやったことだって未だに信じてるわよ! 本当に神の傀儡もいいところね!」

「天使を愚弄するなッ! あそこに生きてる天使たちは、皆誇りを持って生きてる!」

「人間ごときが天使を語るなよ!」

「お前こそこそ天使を語るな⁉」


 天使は神様に使命を与えられ、その矜持を果たすために生を全うしている。アリシアが、その誇りを最後まで抱えたまま、天使としての使命を果たしたように。


「お前のやったことは全部! 人間と天使に対する冒涜だ!」

「人間如きが天使を愚弄しないで頂戴! 不快だわ!」


 怒りで、視界が滲み出した。


「なんでお前みたいな奴がッ、天使なんだ!」

「私が天使であることに何が不満なの? こんな美しくて賢い天使は他にいないわ!」


 全ての元凶が、ただただ憎かった。


「アリシアに、全部返せよ! 天使としての誇りを返せ!」

「返すわけないでしょ! 全部奪ってやるの! アイツが私から羨望も期待も愛も奪ったように、今度も私が全部奪って消してあげるの! やられたらやり返すの! そうじゃないと気が済まないでしょ⁉」


 その怨嗟は、肥大化していくばかりだった。

 イザベラはアリシアを消さない限り、その狂気を収める気は微塵もない。


「お前にッ、これ以上アリシアを傷付けさせない! これ以上――アリシアを悲しませはさせない」

「フハッ! たかが人間に、何が出来るって言うのよ」

「全部だ。俺の全部を懸けて――」


 例え、自分の命が無くなろうとも、アリシアは守り抜く。

 決意の瞳が、より強く燃える。

 相対する天使に、颯太は両手を広げて、


「俺はお前を止める!」

「面白いじゃない! それじゃあたっぷりと遊んであげる――ソウタくんッ‼」


 少年の決意に、天使は愉快げに嗤った――。


 ―― Fin ――




これまで度々、side聖羅の時に『――――』と書いていたのはイザベラの伏線でした! ま、ラノベ好きの皆さんならとっくに気付いてるかww

さぁ第2部も残り3話ほどで完結します! 最後の最後まで天メソを見逃すな!!

『いいね、ブクマ、感想』等々、大絶賛募集中!! 皆様の応援で作者がレベルアップします!!

☆評価もよろりんこ!

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