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【休載中】天罰のメソッド〜処刑天使。ひきこもりの少年に恋をする〜  作者: 結乃拓也
第二部 【 紫惑の懺悔編 】
134/234

第125話 『 黒きベールの先 』

今話ついに! 今話ついに! ――です!

さぁ、天メソ劇場をご覧あれ!

【 side颯太 】


―― 38 ――


 颯太が聖羅に呼び出されたのは、人気のない空き教室だった。


「はぁ。また俺は騙されたのか」

「うふふ。その通りよ」


 呼び出された口実は『出し物の景品が足りないから買い物に付いて来て』だったのだが、大人しくついてくればまんまと聖羅の策に嵌ってしまった。


「本当に、ソウタくんはお人よしよねぇ」

「困ってるのがお前だったから手伝おうとしただけだ」

「うっ⁉」


 別に他意はなく、『友達の頼みだから』という意味だったのだが、聖羅は何か勘違いしてしまって顔を赤らめた。

 しまった、と颯太は慌てて咳払いして、


「友達の頼みだから、手伝おうとしただけだ」

「そうよね。でも、やっぱり優しいわよ」

「?」 


 また一言余計なことでも言われるのかと身構えていたが、穏やかな笑みを浮かべる聖羅に颯太は戸惑った。


 ――なんか、いつもと違う?


 朝はそんなことはなかったが、今の聖羅を見ているとそんな風に思ってしまった。

 雰囲気が朗らかになっているというか、いつも凛と目つきが優しく見えた。


「それで、ここに呼び出した理由はなんだよ」


 変化の理由は分からないけれど、颯太はそれを一度飲み込んで聖羅に目的を問うた。


「…………」

「連れ出した理由がないなら、俺教室に戻るけど」


 なぜか答えない聖羅に、颯太は眉根を寄せた。このまま二人きりでいるのも心情的に避けたかったので、颯太は踵を返す。が、


「待って!」


 と聖羅に呼び止められて、また仕方なく振り返った。


「なら早く要件を言ってくれ」

「わ、分かってるけど。でも……その、心の準備というものがね、女の子には必要なのよ」


 先を促せば聖羅は体をもじもじとさせて――その反応がまるで、何かを伝える準備だというのは、もう颯太には即座に理解できた。


「いや、ちょっと待て」

「早く言えって言ったり、待てって言ったり、どっちなのよ」


 聖羅がしようとしてることを悟ってしまって、颯太は慌てて止める。


「待ってくれ。頼む」

「じゃあ待たないわ」


 彼女の意地悪な性格がここでも発揮されてしまって、颯太は頬を硬くする。

 固唾を飲み込むのと、ほぼ同時だった。


「ねぇ、ソウタくん。一昨日は、私を助けてくれてありがとう」


 一度始まってしまった話は、もう止まらない。

 颯太は、腹を括るしかなかった。


「べつに、その時も言ったけど、友達を助けるのは当たり前だ」

「それでも、私にとっては嬉しかったのよ。だって、初めて本気で、誰かが私を助けてくれたから」

「そんなことないだろ。きっと、神払が気付かなかっただけで、本気でお前を助けようとした奴はたくさん……」

「いないわよ」


 言葉を遮られて、断定的に言われた。


「ソウタくん。私はね、ずっと独りぼっちだったの。周りには沢山いたけれど、それも全部、私ではなく、私の外しか見ていない人たちだった。私の内側を見てくれる人は、どこにいなかったわ」

「それは……」


 なんと言えばいいのか、颯太は戸惑う。聖羅の言葉に重みを感じるのは、彼女がずっと周囲に不信感を抱いていたその証拠なのだろう。一時は颯太も周囲の注目を浴びることがあったから、その気持ちは少しだけ理解できた。少しだけなのは、自分は聖羅じゃないから。だから、完全に理解してあげることはできなかった。


「私ね。ずっと誰も信用してこなかったの。前にソウタくん、私が周りに愛想振りまいてるって指摘したわよね。それ、正しいわ」


 一昨日の話。いまさらになって、聖羅は肯定した。


「信用できないからこそ、愛想振りまいてたの。そうすれば、周りは私に味方してくれたから。私は、友達の真似事をしていたの」

「友達って、転校する前か?」

「……そうね。ここへ来る前、私には、私より周りから好かれている子がいたわ」


 聖羅にそんな友達がいたことを、颯太は初めて聞いた。


「その友達は、いつもひたむき努力してて、ひたすらに真っ直ぐで、真面目で優しかったから周りにいつも誰かがいた」

「そうなんだ」


 小さく相槌を打って、述懐する聖羅に耳を傾ける。


「私は、あの子が凄く羨ましかった。私より才能があって。周りの期待に応えようと努力するあの子が、私は、嫉妬するくらい羨ましかった」


 才能を持たない者は、才能を持つものに憧れる。自分が持ってないものを相手が持っていると、それがどうしもなく輝いて見えてしまって仕方がないのだ。

 誰だって、その気持ちは共感できる。


「だからね。私も、皆から認められるようにすごく必死に努力したの。でも、そうやって努力しても、真に周りから認められることはなかったわ」


 聖羅に取り巻く彼らに、聖羅は失望したように目を伏せた。

 けれど、顔を上げた聖羅の真紅の瞳は、失望などしていなかった。


「でもね。私、ようやく、私をちゃんと見てくれる人を見つけたの」


 それが誰であるかは、颯太は向けられる瞳の熱量で分かっていた。


「貴方が、本当の私を、認めてくれたのよ」

「――――」


 伸ばされた両手が、まるで颯太を求めるかのように広がった。


「誰かと一緒にいて、こんなにも心が躍ったのは初めてだったわ。誰かに叱られて、こんなにもありがとうと思ったことは初めてだったわ。――誰かに認められたのは、私、生まれて初めてだったの」


 そんなことはない、と言ってあげたかった。聖羅の努力を、誰も認めてないはずなんてないのだから。

 でも彼女の言葉からは、それが本当に感じてしまった。

 本当に聖羅は、今まで誰からも認められてこなかったのだろうかと。


「だからね、ソウタくん。私は、貴方を諦められない。だって、貴方が私を初めて認めてくれたんだから。友達じゃ、嫌なの。貴方と、ずっと一緒にいたいの」

「聖羅、それは……」


 熱に侵されたような吐露に、颯太は顔を苦しげにしかめる。

 聖羅の努力は認めているし、好意も嬉しく思う。

 でも、颯太は、ずっとアリシアが好きだ。

 そうハッキリと告げればいいのにできないから、聖羅は止まってくれない。


「貴方があの子を想っていることは知ってる。だから、私は、貴方があの子より私を好きになってもらえるように努力するの」

「何度も、言ってるだろ。俺はアリシアが好きだ……」

「それを変えてみせるわ」


 一歩、近づきながら聖羅は颯太の言葉を一蹴した。そして、また一歩と近づいてくる。


「逃がさないわよ、ソウタくん」

「――ッ!」


 一歩下がれば、聖羅はその距離を縮めるべく一歩……否、二歩進んでくる。

 その嫣然とした瞳に吸い寄せられるように、体が言うことを効かなくなってしまった。


「俺は、お前とは友達でいたい」

「私は、あなたの一番になりたい」


 動かない体のかわりに攻めて言葉だけ抵抗を試みるが、聖羅は止まることはなかった。

 それどころか、数センチの距離をさらに縮めてきて、堅い胸板に柔らかい感触が伝った。

 聖羅は体を密着させながら、颯太に甘く囁く。


「私は、貴方が好きなの。貴方が望むなら、どんな私にだってなるわ」

「そんなの、ならなくていいッ」


 舐るような五指が頬をなぞって、体が震えた。


「貴方が私を好きになってくれるなら、私はなんでも受け入れる。この純潔だって、捧げたっていい。ファーストキスもしてあげようか?」

「それは、いつか本気で好きになった人の為に取っておけよッ」

「だから貴方にあげると言ってるの」

「なら俺からお断りだ!」


 必死になって抵抗して、聖羅を諦めさせようとする。

 けれど、聖羅の渇望は飢えを満たさんとして止まることはなかった。


「なら、貴方が好みの女の子になる。ねぇ、ソウタくんはどんな子が好きなの? 大人しい子? それとも元気な子?」

「言わないッ」

「なら、当ててあげるね」


 頬を撫でる五指が離れて、今度は心臓を指した。


「背は、そうね。中学くらい小さいかな。顔は幼くて、目は猫のように丸い」

「…………」

「髪はさらさらしてる。燦然と輝く太陽にもまけない白銀の髪」


 その特徴は、颯太がずっと想っている女の子の特徴とそっくりだった。


「献身的で、頑張ることが好きで、笑顔がとても素敵」

「――――」

「貴方のことを慕って、そして何より、愛してくれている。まるで、天使みたいな子」


 聖羅の真紅の瞳が、一瞬だけ金色になった気がした。

 聖羅の顔が、一瞬だけ、アリシアになった気がしたのは――ただの錯覚だろうか。

 けれど決定的に違ったのは――


「私があの子になれば、『ソウタさん』は私のこと、好きなってくれるよね?」


 聖羅が破顔しながらそう問いかけてきて、颯太の心臓は大きく跳ねた。

 聖羅の想いを否定するように――颯太は冷酷に告げた。


「お前がアリシアになろうとしても、俺はお前を好きにならないよ」

「――――」 


 面と向かって聖羅に告げれば、聖羅は驚いたように目を見開く。


「なん、で……」


 戸惑う聖羅に、颯太は大きく跳ねた心臓を放置して答えた。


「神払がアリシアになろうとしても、アリシアにはなれない」


 颯太は続ける。


「神払。俺は、小さい子くて可愛くて、献身的な女の子だからアリシアが好きなんじゃない。アリシアの心に惹かれたから、俺は、アリシアを好きなったんだ」


 いつも前向きであろうとアリシアだから、颯太も一緒になって前を向けた。

 そんな彼女に、颯太は見惚れてしまったのだ。


「神払が、仮にアリシアの何もかもを真似できたって、結局それはアリシアを真似した神払でしかないんだ。そんなアリシア(神払)には、俺は惹かれない」

「おかしいじゃない。だって、内心なんて、自分じゃないから分かるはずがないじゃない。外見が一緒なら、性格も同じになれば、それはもうその人と同じでしょ⁉」


 やっぱり、聖羅は分かってなかった。いや、こんなこと、分かるはずもなかった。

 だってこれは、互いに想い合ったからこそ理解できる――心の在り方なのだから。


「俺が惹かれたのは、アリシアの心だ。いつも真っ直ぐで一生懸命前を走って、でも時々突っ走り過ぎて転んじゃうアリシアだ」

「そんなの、私でもできる……ッ」

「できないよ。だって、お前はどんなに努力したって――アリシアにはなれないんだから」


 時々おっちょこちょいで転ぶことがある。でも、顔が泥だらけになっても気にしてないように満面の笑顔を咲かせるのは、アリシアだけだ。


「神払きっと、最悪だって思うだろうな」


 自分についた泥さえも笑い飛ばせるのは、アリシアだけだ。

 その心の底から笑ってる笑顔が、颯太は何よりも好きだから――


「俺は、神払の想いに応えることはできない。例え、神払がどんなに俺に好きなってもらおうと努力しても、俺の心はもう、アリシア一人で一杯だ」


 激情を吐露して、颯太はもう一度アリシアへの想いの強さを自覚した。

 喧嘩しても、裏切り者と罵られても、それでも、アリシアが好きだ。

 アリシアを悲しませてしまうこともある。でも、その時はめいっぱい愛でてあげればいい。もうお腹いっぱいだと、そう満足げに笑ってくれるまで。

 アリシアを、また傷つけてしまう時が来るかもしれない。その時は、傷を癒せるように寄り添うだけだ。


「お前が諦めてくれるまで、何度でも、いつまでも、俺はお前を振り続ける」


 それで彼女が傷ついてしまうのは、双方理解しているはずだった。

 それでも颯太は聖羅の想いを否定し続ける。そうじゃないと、またアリシアを悲しませしまうから。

 ときには非常になることも大切だ。この告白を通じて、そう痛感させられる。


「神払――もう、俺を諦めてくれ」


 もう、颯太になんど言い寄っても無駄だというのは、理解できたはずだ。これ以上続けても、不毛でしかない。

 諦めれば、聖羅ならばきっとまた本気で自分のことを想う人に出会えるはずだと、颯太はそう信じてるから――


「……なんでッ。いつもこうなるのよ」

「神払……」


 顔を伏せた聖羅が、ギリッ、と奥歯を噛んだ。

 眉根を寄せる颯太に、顔を伏せた聖羅が、憎悪を孕んだような声音で呟いた。


「なんでッ……いつもいつもッ……私の大事なものを、あいつは奪っていくんだッ」

「おい、神払……何言って」


 聖羅の言葉を理解できず、颯太は怪訝になる。それに構わず、聖羅は呪詛を吐き続けた。


「ホントッに、忌々しい! あいつが、私から全部奪ってく! なんであんなやつが、私より幸せになれるんだッ……愛想振りまいてるだけの偽善天使がッ、調子に乗りやがって……ッ!」


 天使、という単語が聞こえて、颯太は瞠目する。

 そんなまさか、と懐疑的になる颯太に、呪詛を吐くのをやめて一拍した聖羅が静かに呟いた。


「ねぇ、ソウタくん。もう一度お願い。私と付き合って」


 熱のない懇願だった


「それは無理だ」

「ねえ、ソウタくん。私を好きになって」


 即座に答えても、聖羅は颯太の懇願に構わず続ける。


「友達としてなら、俺はもうお前を好きになってる」

「恋人としてよ」

「だから無理だっつってんだろ」

「なら、言い方を変えるわ。私の物になって」

「俺は、誰かの所有物じゃない」


 聖羅の言葉に、颯太は間隙なく答える。


「――――」

「これで終わりだな」


 この不毛なやりとりが、やっと終わったと思った――直後だった。

 ドスの効いた聖羅の声が、背筋を震わせた。


「そう。どうやっても私の物にならないなら、貴方もあいつと同様消すだけね」

 瞬間だった。


「――ッ⁉」


 それまで颯太の心臓を指して指が広がって、颯太の胸をとん、と押した。それだけなのに、颯太の体は吹き飛んだ。


「カハッ⁉」


 宙を舞う体は壁に叩きつけられて、颯太は唾液を溢しながら床に転がった。


「なんだッ、いまの……ッ」


 背中に襲う激痛に視界が明滅を繰り返し、肺に酸素を取り込むに必死だった。ハッ、ハッ、と無理矢理空気を出し入れして、颯太は喘ぎながら聖羅を見た。

 何が起きたのか、それを聖羅に問い質そうとして、視界の端を横切った黒い何かに声が詰まった。

 ゆらゆら、とそれは舞っていた。一つだけでなく、何枚も。

 二度、颯太はその光景に邂逅したことがあった。

 一度目は、アリシアとの別れの時に。

 二度目は、聖大天使との再会の時に。

 いずれも、その光景に絡んでいたのは〝天使〟だった。

 この三度目。いま颯太の前でゆらゆらと舞っているものは、羽だ。

 けれど、色が違う。アリシアやアムネトの純白な羽と違って、この舞っている羽の色は黒だった。いな、黒よりも深く輝きを放つ――漆黒だ。


「あーあ。あとちょっとで、私が全部手に入れたのに」

「せい、ら……」 


 視界を舞う漆黒の羽根の先をみれば、聖羅が黒い何かで覆われていた。颯太は直感的に、あれは翼だと確信した。

 漆黒の翼がベールとなって声主を覆っていて、颯太は答えを求めて喘ぐように彼女の名前を呼んだ。

 そして呼べば、返って来たのは不服げな声だった。


「その名前で呼ばないで頂戴」


 バサッ! と大きな音を立ててそれが翻ると、黒いベールが晴れていく。


「――聖羅、じゃない⁉」


 覆われたベールの先。まだ漆黒の羽根がひらひらと舞う世界で、颯太は三度それと邂逅した。

 それは、酷く退屈げに吐息しながら、颯太を睥睨して告げた。


「私の名前は〝イザベラ〟――天界から来た、純大天使よ」


 その圧倒的な邪悪な天使を前に、颯太は固唾を飲み込んだ。


 ―― Fin ――



ついにベールが剥がれた―――!!?

さて、次話は正体を現したイザベラのお話となります! すぐに書かなきゃ!(その前にご飯食べさて

ということで次話もお楽しみに!!

『いいね、ブクマ、感想』などなど絶賛募集中でござる! いいねとポイントの数だけ作者が全裸になります。

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