第121話 『 一縷の望み 』
更新頻度多くてごめんね!
でも天罰メソッドを楽しんで見続けてくれてありがとう!!
【 side颯太 】
―― 34 ――
「あのー。すいませーん」
声を掛けられた気がして振り返ってみれば、颯太はお洒落な洋服を纏った女子二人に囲まれた。
年齢は、颯太より二つほど年が上に見える。おそらくは海外沿いに設立されている大学の学生たちだろう。二人は傍から見ても可愛い、という印象を受けるが、颯太は彼女たち以上の美女を知っているせいか何ら靡くことはなく、平然と対応できた。
「どうしたんですか?」
何か困りごとでもあったのだろうか、と掲げていたプラカードを降ろすと、女子二人は「ええとー」と体をもじもじさせながら聞いてきた。
「私たち、このクラスの所に行きたいんですけど……」
どうやら行き方が分からないようで、女子はパンフレットを指さしながら困った顔をしていた。
「あぁ。それなら、ロビーにある階段を利用すれば行けますよ」
分かりやすく指を指すと、少女たちは「ありがとうございます」と頭を下げた。それから颯太はまた呼び込みを続けようと足を動かそうとしたが、そうはならなかった。
なぜならば、案内した女子二人が、颯太をジッと見つめてきたから。
何か嫌な予感がするなー、と思った矢先、見事に的中した。
「あのー。もしよかったら、一緒にそこまで付いて来てくると嬉しいなぁ」
「うんうん! お兄さん、一緒に付いてくれない?」
つまるところ、逆ナンに遭遇してしまった。
颯太はため息をぐっと堪えて、丁寧に断ろうとした。
「俺はまだ仕事中なので、案内はできないです」
しかし、相手がその程度で引き下がることはなかった。
「本当に少しだけでいいから。ね、呼び込みなんかより、絶対私たちと一緒に回ったほうが楽しいよ」
「そうそう! キミ可愛いし、お姉さんたちと一緒に遊ぼうよ」
「いや……本当に忙しいので」
なかなか引き下がってくれない女子二人に、颯太も困ってしまう。
せっかく文化祭に足を運んでくれたのだから、不快な思いはさせたくなかった。できれば軽くあしらえれば良かったのが、この二人……というより大人しめの人の方が颯太を落とそうとロックオンしていた。この強者な目に既視感を覚えて、颯太はこれは長引きそうだと胸中で落胆した。
向けられるギラギラした瞳に困惑していると、遠くから助け船がやってきた。
「あ、いたいた!」
とそれは颯太を見つけると猛然と向かってきて、そのまま右腕に抱きついてきた。
「颯太くーん! 何やってるの? もうぅ。探したんだからねっ」
「「えっ!」」
いきなりかつ明らかに演技めいた仕草で颯太を助けに来たのは、同じクラスで親友の朋絵だった。
颯太は普段とはかけ離れた言葉遣いに頬を引き攣らせるも、朋絵は構わず続けた。
「もう、呼び込みが終わったら一緒に回るって約束したでしょ。忘れちゃったの? ぷんぷん」
「ぷっ……いっ⁉」
思わず笑いそうになると、思いっ切り足を踏まれて呻き声が漏れそうになった。
それから颯太は顔を引き攣らせつつ、
「あ、悪い。すっかり忘れてたわ。もうすぐ終わるから。よし一旦俺たちの教室に戻ろうか」
「も、もー。颯太の忘れぼうさんっ」
猿芝居も良い所だが、今はこの勢いに乗じて逃げるが吉だった。
「あ、ちょっと待ってよキミぃ!」
「すいません。お姉さんたち、でも、こ、こ……コ」
「こ?」
「こいつと早く一緒に楽しみたいので、それじゃあ!」
「……むぅ」
どうしてもあの単語が言えなくて、知恵を最大限に振り絞った結果どうにかその場を凌ぐための言葉で難所を乗り越えた。が、朋絵は不服そうだった。
そのまま朋絵と彼女たちから離れて行けば、角を曲がってようやく一息付けた。
「ふぅ。なんとかやり過ごせたかな」
「ふんだっ。そんなに私とは恋人になりたくありませんかー」
と露骨に拗ねる朋絵に、颯太は両手を合わせて謝罪した。
「別にそういう訳じゃない。けど、俺は付き合ってない人と、冗談でも恋人って言えないだけだよ」
「それはすごく紳士だけど……でも、言われないほうは少しはショック受けるって分かってよね」
「肝に銘じるよ」
朋絵の言い分に深く頷けば、それから彼女は諦念したように吐息した。
「ま、颯太は筋金入りのアーちゃん好きだもんね。言えないのも無理はないか」
「納得してくれて助かる」
「納得したけどなんかムカつく」
朋絵は頬を膨らませながら颯太の足を蹴ってきた。あまり痛くないけれど反射的に「いてっ」と声が漏れた。
それから、颯太は朋絵に訊ねた。
「で、どうして俺のとこに来たんだ? まだ休憩時間じゃないよな?」
「そうなんだけどね。でも、陸人が聞いてくるなら早めのほうがいいんじゃない、って抜けさせてくれたんだ」
颯太はふぅん、と生返事すると、
「それで、朋絵は俺に何を聞きにきたんだ?」
その問いかけに、朋絵は言った。
「さっき聞き忘れちゃって。それで、アーちゃんは何時頃に来るのか聞きたかったんだよね」
「――――」
朋絵の言葉に、息が詰まった。
「颯太がアーちゃんと文化祭回る前に、あたしも一度アーちゃんに会っておきたくて、それで、いつ頃来るか知りたかったんだけど……」
朋絵が途中で言うのを止めて、怪訝に眉をひそめた。
「颯太? どうしたの?」
「いや、なんでもない」
顔を覗き込む朋絵に、颯太は視線を逸らす。それを、朋絵は追及してくる。
「なんでもない訳ないよね? なんで、そんな顔してるの」
「それは……」
凝然とした目つきで追及する朋絵に、颯太は口を噤んだ。
「アーちゃん、来るんだよね?」
もう、言い逃れることはできないと悟って、颯太は悲壮に顔を歪ませて小さな声で答えた。
「アリシアは、来ないかもしれない」
そう言えば、朋絵の目が驚愕に見開かれた。
「うそ、なんで……」
あり得ないと、首をいやいやと振る朋絵に、颯太は奥歯を噛みしめながら言う。
「どうしてかは、言えない。でも、アリシアと喧嘩みたいになっちゃって……それで、一昨日からずっと、部屋に閉じこもってる」
「そんなッ」
朋絵が、悲痛に息を呑む。
「喧嘩って……なんでこんなタイミングで」
「俺が悪いんだ、全部。俺が、アリシアに負担ばっかかけさせた。アリシアに、悲しい思いをさせてしまった」
これ以上は颯太とアリシアの問題で、朋絵には関わって欲しくはなかった。せっかくの文化祭なのに、自分たちのことを気掛かりにさせて迷惑をかけたくなかった。
「これは俺とアリシアの問題だから、朋絵は気にしないでくれ」
「そんなの……出来る訳無いでしょ」
「頼む」
「だって颯太。アーちゃんを喜ばせたくて、今日までずっと頑張って来たのにッ」
「いいんだ。俺の願いは叶わなかったけど……でも、皆には楽しんでもらえた」
「それじゃあ! 颯太が報われないじゃん!」
報われたか報われないかと言われれば、確かに後者だった。それでも、朋絵に言えたことで多少は気が楽になった気がした。本当に、此処まで来ても卑怯な奴だった。自分は。
思わず乾いた笑みが零れると、朋絵はそんな颯太にギリッ、と奥歯を噛みしめた。
「……して」
「え?」
何を言ったのか聞き取れず、颯太は目を瞬かせた。すると、朋絵は眦を見せて吠えた。
「颯太の家の鍵貸して!」
「鍵って、何の為に……」
「いいから貸して!」
朋絵の高圧的な要求に、颯太は気圧されてしまった。
「り、理由を言ってくれないと、渡せな……」
「うるせぇ! つべこべ言わず渡せや!」
初めて聞いた朋絵の乱暴な口調に、颯太はビクリと震えた。
「あーもう! どうせ、ポケットに閉まってるんでしょ!」
しぶる颯太に朋絵はついに暴挙に出て、背後に回るとお尻のポケットに手を突っ込んできた。
「お、おい⁉ 何してんだ⁉」
「鍵借りるのよ! ――これか!」
「あっ、おい⁉ 返せ!」
人の尻ポケットに許可なく手を突っ込んだ挙句隈なく物色されて、颯太は慌てて抵抗するも一歩遅かった。鍵を鷲掴んだ朋絵は、そのまま脱兎のごとく廊下を走りだした。
「終わったら返すから! だから颯太はここで待ってて!」
「待つって……お前まさか!」
家の鍵を無理矢理拝借したということは、もうそういうことなのだろう。颯太は朋絵がしようとしている事を理解した。
――朋絵は、アリシアを連れてくる気だ。
「陸人にごめん、て伝えておいて! 明日ちゃんと埋め合わせもするからって!」
そう叫びながら、朋絵の背中はどんどん遠くなる。本気で走れば追い付けるだろうが、どうしてか、颯太の足は彼女を追いかけようとはしなかった。
それは、淡い期待を抱いただからだ。
――本当に、アリシアを説得してくれるのだろうか。
友達に甘えすぎているかもしれない。でも朋絵ならば、アリシアを連れ出してくれる気がした。自分ではどうしも出来なかったけれど、友達の言葉なら、アリシアは耳を傾けてくれる気がして。
だから。颯太は男としては本当にみっともないけれど、友達が自分の恋人を連れてきてくれる、そんな希望を信じた。
――頼む。朋絵。アリシアを、どうか連れ出してくれ。
もし、朋絵がアリシアを連れ出してきてくれたなら――次は颯太が、朋絵の想いに報いる番だった。
―― Fin ――
まだまだ投稿は止まりませんww
『いいね、ブクマ、感想』などなど絶賛募集中! みんなで天メソを盛り上げよう!!




