第120話 『 知らぬが仏 』
今回のあらすじ。陸人が頑張ります。
【 side朋絵 】
―― 33 ――
「ありがとうございましたー!」
文化祭開演から一時間ほどが経過し、2年2組のクラスは予想以上の反響を得ていた。
「お姉ちゃんバイバイ!」
「ばいばーい!」
破顔して手を振ってくれる子どもに、朋絵も自然と笑顔になって手を振り返した。
「いやぁ。早計ではあるが、これ大盛況なのでは?」
息抜きがてらに陸人が耳元でそう言って、朋絵はそうだね、と肯定した。
「颯太の予想考え通りだったね」
「だなー。家族連れめっちゃ来てる。さっきちらっと見たけど、列でき始めてたぞ」
「マジで?」
「大マジ。なんなら、ちょっと見てくれば?」
と陸人に促されたので、朋絵は気になって教室の入り口からひょいっと顔を出した。
「うわ、本当だ。学生もわりといるなぁ」
陸人の言う通り、行列というほどではないが、それでも2年2組の縁日には結構な人たちが並んでいた。人というよりはグループで並んでいて、家族連れが多いからか余計に多く並んで見えた。
午前でこの数ならば、午後はもっとお客さんが増えるはずだ。
「これは、午後の人たちが大変そうだなぁ」
朋絵と陸人、颯太、おまけに聖羅は午前のグループなので、午後からは文化祭を回れる。しかし、この様子だと午後は人手が必要そうだ。
「どうだった?」
そんな思案をしながら自分の担当箇所に戻れば、陸人が朋絵の感想を求めてきた。
「うん。結構お客さん来てる。午後のほうが忙しそうかも」
「だろうな。学生からもウケ良かったし、子どもの中にはまだ遊びたがってた子がいるから、もう一度来るかもな」
「それは嬉しいけど……景品すぐ無くならないかな?」
朋絵の不安に、陸人が苦笑した。
「無くなりはしないけど、確かに不安だな。もしかしたら、俺たちの中で追加で景品足す人が出て来るかも」
ちらりと見れば実行員は忙し目を回していて、聖羅も周囲のカバーで手一杯な様子だった。それは重畳だ、と思ったのは、別に隠す必要はないだろう。
「なら、景品の補充はあたしがやろうかな」
そう呟けば、陸人が眉をひそめた。
「いいのかよ。せっかくの文化祭だぞ。楽しまなくて」
「別に明日もあるし。見たい演目もちょこっとしかないから。まぁ、明日奈たちと回るかもしれないけど……くっ」
悔しそうに奥歯を噛めば、陸人は何かを察したように憐れみの目を向けた。
「あー。そういえば、明日香、最近カレシできたんだっけ」
「そうなの⁉ あいつ、私より先に恋人ができたのッ!」
「二回目、だっけか?」
「そうだよ!」
朋絵の知る限りでは、中学2年生の時に一度。そして、その彼と去年破局して、数週間前に気になっていた後輩に自分から告白して、オッケーを貰ったらしい。
友達に二度目の春が来たことは嬉しい反面、度々メッセージで【カレシが可愛すぎるw】と妬ましい文面と写真が送られてくるので妬ましかったりする。
「あー。朋絵はカレシ募集してるのか?」
そんな問いかけに、朋絵はヤケクソ気味に答えた。
「当たり前じゃん! あたしの周り恋人ばっかだよ! 羨ましいに決まってるじゃん!」
一番目のやり場に困るあの二人を見ているから、最近はさらに恋人が恋しくなってしまった。
ただお生憎、いまの朋絵にそんな恋する相手がいるのかと言われれば、残念ながらいなかった。
「はぁ。ようやく吹っ切れたのになぁ」
もう、颯太に恋慕を抱く自分はいなかった。時々カッコよく見えてしまうこともあるけど、それは友達として惹かれているのだとしっかり自覚している。恋、という感情は、もうそこにはなかった。
朋絵は大仰にため息を吐くと、
「だから。文化祭は楽しむけど、でも皆の手伝い中心でもいいかなって思ってるんだ。意外と子どもたちと遊ぶのも楽しいしね」
さっきの子どものように、楽しいと笑顔になってくれる姿は見ていてとても気持ち良かった。友達も覗きに来てくれるから、苦よりも楽しいという感情が勝った。働き甲斐があるとはこの事かと、部活では味わえなかった充実感が新鮮に感じられた。
もしかしたら、こういう、人の為に何かする仕事が自分に向いてるのかもしれないな。
朋絵の胸にふと、将来に関した一つの可能性が芽生えた。
それはまだ小さくて、朋絵もあるかもしれないと思っただけだった。
でも、意外とそれが胸にしっくり来て、朋絵の中で何か、ストン、と落ちた気がした。
「――――」
子どもの笑顔。それを見守る、親たちの笑顔を眺めていると、胸がざわついた。
遠くない未来。いや、もうそろそろ本格的に決めなくてはいけないものがやってくる。
朋絵はまだ漠然としたままだったが、けれど、今日ほんの少しだけ、進みたい道が見えた気がして――。
――あはは。まさか、あたしがね。
生まれた可能性に擽ったさを覚える朋絵。そんな彼女の胸中を、陸人は気付かない。
というより、陸人は緊張していて朋絵の表情を見ている余裕がなかった。
「と、朋絵!」
「うわっ。なに、いきなり大声だして」
唐突に大きな声を上げた陸人に、朋絵は肩をびくりと震わせた。それから陸人を見ると、何やら畏まった様子で、
「あの、さ。今日の文化祭だけど、午後俺たち手が空いてるじゃん」
「う、うん」
「それで、もし良かったら、本当に暇だったらでいいんだけど……一緒に、回らないか?」
「――――」
陸人は、顔を赤くしながらそう言った。まるで、告白めいた素振りに、朋絵は大きく目を見開いて、息を呑んだ。
――まさか。ある訳ないか。
ほんの一瞬。もしかしたら、なんて可能性が頭に過った。でも、それはすぐに振り払われる。陸人が緊張しているのはきっと、異性を誘ったからなのだろう。
自分くらい気軽に誘えばいいのにな、と朋絵は胸中で失笑した。
朋絵は、アリシアや聖羅のような、超絶美少女ではない。クラスでは平均的な、どこにでもいる普通の女の子だ。
だから、
「いいよ。暇だし。一緒に回ろっか」
「ッ! 本当か!」
誘いを受けた瞬間、陸人の瞳がいっそう輝きを増した。
本当に大袈裟なリアクションに、朋絵は苦笑した。
「リアクションデカ過ぎだって。告白じゃないんだから」
それは、朋絵なりの揺さぶりだった。陸人が、自分に、好意を抱いているのかもしれない。それを知るための。
陸人は、朋絵のその言葉にぎこちなくしたものの、すぐに「ハハハ」と笑って、
「そ、そうだよな! ちょっと力入れ過ぎたわ!」
「あはは。本当にね。――あたしたち、友達じゃん」
陸人の言葉を聞いて、朋絵はそう言い切った。
――やっぱり、勘違いだった。
結果なんて分かり切ってはいたから、別にどうということはなかった。陸人と朋絵は友達。というより、親友だ。それを、いま改めて確認しただけ。
なのに、少しだけ。ほんの少しだけ、胸がちくりと痛くなった。
それがどうしてなのかは、朋絵には分からなかった。
「じゃ、午後は一緒に回ろっか」
「あぁ。……颯太は、」
二人だけと決まづいからなのか、あるいは颯太を仲間外れにするみたいで気が引けたのか、陸人は三人で回ろうと提案しようとした。朋絵はそれに、やれやれとため息を吐くと、
「颯太はアーちゃんと一緒に回るんでしょ」
颯太には恋人がいるのだから、恋人と回るのは必然だろう。自分もアリシアと回りたかったけれど、今回は恋人同士で文化祭を楽しんでもらいたい。
そんなことを想っていると、そういえば、と朋絵は思い出した。
「そうだ。聞き忘れたけど、アーちゃん、何時ごろに来るんだろ」
一応、目の前で気持ち悪い笑みを浮かべる陸人にも聞いてみた。
「ねえ、アーちゃんが何時ごろ来るか、陸人知ってる?」
「あ? そんなの、俺が知る訳ないじゃん」
「だよねー」
分かり切っていた答えを返されて朋絵は半目になった。となると、やはり颯太に直接聞くのが妥当だろう。アリシアと颯太の邪魔をする気はないが、でも一回はアリシアの顔を見ておきたかった。
「颯太が戻ってきたら、聞いておこ」
「颯太ならさっき戻ってきてまたすぐ外に出ていったから、暫く戻んないじゃない?」
「そっか……それなら、陸人。一緒に回る前に颯太にアーちゃんがいつ頃来るか聞いてきいてもいい?」
「おう。いつでも待ってるぞ」
「なにその全力待機……でもありがと」
胸を張る陸人に苦笑して、朋絵は小さくお礼を言う。
とりあえずは、午後の休憩まで与えられた役割を全うしないと。そう気合を入れなおして、朋絵は強く呼気を吐いた。
「よしっ。それじゃあ、あとの一時間、気合入れるよ、陸人!」
「おう! 俺たちでめっちゃ大盛況にしてやろうぜ!」
朋絵の気合に、陸人が呼応するように脇を引き締めた。
文化祭はまだまだ始まったばかりだ。
けれど、水面下で緊急事態が起きていることは、朋絵はまだ知らない。
アリシアが来ない事を知ったのは、午後の休憩時間に入ってすぐのことだった。
―― Fin ――
前も後も書く余力がない。読者ァァ!! オラに元気を分けてくれぇぇぇ!!!
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