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【休載中】天罰のメソッド〜処刑天使。ひきこもりの少年に恋をする〜  作者: 結乃拓也
第二部 【 紫惑の懺悔編 】
129/234

第120話 『 知らぬが仏 』

今回のあらすじ。陸人が頑張ります。

【 side朋絵 】


 ―― 33 ――


「ありがとうございましたー!」


 文化祭開演から一時間ほどが経過し、2年2組のクラスは予想以上の反響を得ていた。


「お姉ちゃんバイバイ!」

「ばいばーい!」


 破顔して手を振ってくれる子どもに、朋絵も自然と笑顔になって手を振り返した。


「いやぁ。早計ではあるが、これ大盛況なのでは?」


 息抜きがてらに陸人が耳元でそう言って、朋絵はそうだね、と肯定した。


「颯太の予想考え通りだったね」

「だなー。家族連れめっちゃ来てる。さっきちらっと見たけど、列でき始めてたぞ」

「マジで?」

「大マジ。なんなら、ちょっと見てくれば?」


 と陸人に促されたので、朋絵は気になって教室の入り口からひょいっと顔を出した。


「うわ、本当だ。学生もわりといるなぁ」


 陸人の言う通り、行列というほどではないが、それでも2年2組の縁日には結構な人たちが並んでいた。人というよりはグループで並んでいて、家族連れが多いからか余計に多く並んで見えた。

 午前でこの数ならば、午後はもっとお客さんが増えるはずだ。


「これは、午後の人たちが大変そうだなぁ」


 朋絵と陸人、颯太、おまけに聖羅は午前のグループなので、午後からは文化祭を回れる。しかし、この様子だと午後は人手が必要そうだ。


「どうだった?」


 そんな思案をしながら自分の担当箇所に戻れば、陸人が朋絵の感想を求めてきた。


「うん。結構お客さん来てる。午後のほうが忙しそうかも」

「だろうな。学生からもウケ良かったし、子どもの中にはまだ遊びたがってた子がいるから、もう一度来るかもな」

「それは嬉しいけど……景品すぐ無くならないかな?」


 朋絵の不安に、陸人が苦笑した。


「無くなりはしないけど、確かに不安だな。もしかしたら、俺たちの中で追加で景品足す人が出て来るかも」


 ちらりと見れば実行員は忙し目を回していて、聖羅も周囲のカバーで手一杯な様子だった。それは重畳だ、と思ったのは、別に隠す必要はないだろう。


「なら、景品の補充はあたしがやろうかな」


 そう呟けば、陸人が眉をひそめた。


「いいのかよ。せっかくの文化祭だぞ。楽しまなくて」

「別に明日もあるし。見たい演目もちょこっとしかないから。まぁ、明日奈たちと回るかもしれないけど……くっ」


 悔しそうに奥歯を噛めば、陸人は何かを察したように憐れみの目を向けた。


「あー。そういえば、明日香、最近カレシできたんだっけ」

「そうなの⁉ あいつ、私より先に恋人ができたのッ!」

「二回目、だっけか?」

「そうだよ!」


 朋絵の知る限りでは、中学2年生の時に一度。そして、その彼と去年破局して、数週間前に気になっていた後輩に自分から告白して、オッケーを貰ったらしい。

 友達に二度目の春が来たことは嬉しい反面、度々メッセージで【カレシが可愛すぎるw】と妬ましい文面と写真が送られてくるので妬ましかったりする。


「あー。朋絵はカレシ募集してるのか?」


 そんな問いかけに、朋絵はヤケクソ気味に答えた。


「当たり前じゃん! あたしの周り恋人ばっかだよ! 羨ましいに決まってるじゃん!」


 一番目のやり場に困るあの二人を見ているから、最近はさらに恋人が恋しくなってしまった。

 ただお生憎、いまの朋絵にそんな恋する相手がいるのかと言われれば、残念ながらいなかった。


「はぁ。ようやく吹っ切れたのになぁ」


 もう、颯太に恋慕を抱く自分はいなかった。時々カッコよく見えてしまうこともあるけど、それは友達として惹かれているのだとしっかり自覚している。恋、という感情は、もうそこにはなかった。

 朋絵は大仰にため息を吐くと、


「だから。文化祭は楽しむけど、でも皆の手伝い中心でもいいかなって思ってるんだ。意外と子どもたちと遊ぶのも楽しいしね」


 さっきの子どものように、楽しいと笑顔になってくれる姿は見ていてとても気持ち良かった。友達も覗きに来てくれるから、苦よりも楽しいという感情が勝った。働き甲斐があるとはこの事かと、部活では味わえなかった充実感が新鮮に感じられた。

 もしかしたら、こういう、人の為に何かする仕事が自分に向いてるのかもしれないな。

 朋絵の胸にふと、将来に関した一つの可能性が芽生えた。

 それはまだ小さくて、朋絵もあるかもしれないと思っただけだった。

 でも、意外とそれが胸にしっくり来て、朋絵の中で何か、ストン、と落ちた気がした。


「――――」


 子どもの笑顔。それを見守る、親たちの笑顔を眺めていると、胸がざわついた。

 遠くない未来。いや、もうそろそろ本格的に決めなくてはいけないものがやってくる。

 朋絵はまだ漠然としたままだったが、けれど、今日ほんの少しだけ、進みたい道が見えた気がして――。 


 ――あはは。まさか、あたしがね。


 生まれた可能性に擽ったさを覚える朋絵。そんな彼女の胸中を、陸人は気付かない。

 というより、陸人は緊張していて朋絵の表情を見ている余裕がなかった。


「と、朋絵!」

「うわっ。なに、いきなり大声だして」


 唐突に大きな声を上げた陸人に、朋絵は肩をびくりと震わせた。それから陸人を見ると、何やら畏まった様子で、


「あの、さ。今日の文化祭だけど、午後俺たち手が空いてるじゃん」

「う、うん」

「それで、もし良かったら、本当に暇だったらでいいんだけど……一緒に、回らないか?」

「――――」


 陸人は、顔を赤くしながらそう言った。まるで、告白めいた素振りに、朋絵は大きく目を見開いて、息を呑んだ。


 ――まさか。ある訳ないか。 


 ほんの一瞬。もしかしたら、なんて可能性が頭に過った。でも、それはすぐに振り払われる。陸人が緊張しているのはきっと、異性を誘ったからなのだろう。

 自分くらい気軽に誘えばいいのにな、と朋絵は胸中で失笑した。

 朋絵は、アリシアや聖羅のような、超絶美少女ではない。クラスでは平均的な、どこにでもいる普通の女の子だ。

 だから、


「いいよ。暇だし。一緒に回ろっか」

「ッ! 本当か!」


 誘いを受けた瞬間、陸人の瞳がいっそう輝きを増した。

 本当に大袈裟なリアクションに、朋絵は苦笑した。

「リアクションデカ過ぎだって。告白じゃないんだから」


 それは、朋絵なりの揺さぶりだった。陸人が、自分に、好意を抱いているのかもしれない。それを知るための。

 陸人は、朋絵のその言葉にぎこちなくしたものの、すぐに「ハハハ」と笑って、


「そ、そうだよな! ちょっと力入れ過ぎたわ!」

「あはは。本当にね。――あたしたち、友達じゃん」


 陸人の言葉を聞いて、朋絵はそう言い切った。


 ――やっぱり、勘違いだった。


 結果なんて分かり切ってはいたから、別にどうということはなかった。陸人と朋絵は友達。というより、親友だ。それを、いま改めて確認しただけ。

 なのに、少しだけ。ほんの少しだけ、胸がちくりと痛くなった。

 それがどうしてなのかは、朋絵には分からなかった。


「じゃ、午後は一緒に回ろっか」

「あぁ。……颯太は、」


 二人だけと決まづいからなのか、あるいは颯太を仲間外れにするみたいで気が引けたのか、陸人は三人で回ろうと提案しようとした。朋絵はそれに、やれやれとため息を吐くと、


「颯太はアーちゃんと一緒に回るんでしょ」


 颯太には恋人がいるのだから、恋人と回るのは必然だろう。自分もアリシアと回りたかったけれど、今回は恋人同士で文化祭を楽しんでもらいたい。

 そんなことを想っていると、そういえば、と朋絵は思い出した。


「そうだ。聞き忘れたけど、アーちゃん、何時ごろに来るんだろ」


 一応、目の前で気持ち悪い笑みを浮かべる陸人にも聞いてみた。


「ねえ、アーちゃんが何時ごろ来るか、陸人知ってる?」

「あ? そんなの、俺が知る訳ないじゃん」

「だよねー」


 分かり切っていた答えを返されて朋絵は半目になった。となると、やはり颯太に直接聞くのが妥当だろう。アリシアと颯太の邪魔をする気はないが、でも一回はアリシアの顔を見ておきたかった。


「颯太が戻ってきたら、聞いておこ」

「颯太ならさっき戻ってきてまたすぐ外に出ていったから、暫く戻んないじゃない?」

「そっか……それなら、陸人。一緒に回る前に颯太にアーちゃんがいつ頃来るか聞いてきいてもいい?」

「おう。いつでも待ってるぞ」

「なにその全力待機……でもありがと」


 胸を張る陸人に苦笑して、朋絵は小さくお礼を言う。

 とりあえずは、午後の休憩まで与えられた役割を全うしないと。そう気合を入れなおして、朋絵は強く呼気を吐いた。


「よしっ。それじゃあ、あとの一時間、気合入れるよ、陸人!」

「おう! 俺たちでめっちゃ大盛況にしてやろうぜ!」


 朋絵の気合に、陸人が呼応するように脇を引き締めた。

 文化祭はまだまだ始まったばかりだ。

 けれど、水面下で緊急事態が起きていることは、朋絵はまだ知らない。

 アリシアが来ない事を知ったのは、午後の休憩時間に入ってすぐのことだった。


 ―― Fin ――


前も後も書く余力がない。読者ァァ!! オラに元気を分けてくれぇぇぇ!!!

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