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ウェラテヌス隆盛記  作者: 浅羽 信幸
第四十二章
1730/1733

マタリヤクラドスの戦い Ⅱ

 サッピトルム、ペディタ、ヘグリイス。

 それが、セアデラに真っ先に同調した高官だ。


 兄コクウィウムのおかげで高官になれたと言われても反論は出来ず、功績の乏しいサッピトルム。

 スペランツァと共にビュザノンテンに籠り続けたことで功績はあるのだが、誰からも分かりやすい手柄を欲しているペディタとヘグリイス。


 そして、三人の監視も兼ねてとコクウィウムも志願してきた。


(四千三百)

 集結中のドーリス人部隊に引けを取らない数であり、僅かに上回る兵数である。


 マシディリは、アスプレナスとバゲータを助攻部隊として派遣することも決め、追撃命令を下した。


 我先にと高官達が声をあげ、部隊が走り出す。


 真っ先に飛び出しながらもドーリス人部隊の右側、敵から見て左側に部隊を展開させたのはペディタ。マルテレス門下生として恥じない、威勢と陽動だ。


 彼らの少し後ろで部隊を広げたのはアスプレナス。トクティソスと思われる部隊が救援に向かった時に側面をつける位置。そのアスプレナスの部隊を浸透するような行軍経路を使っているのがバゲータ。


(さて)

 カルド島属州でそれなりに指揮経験のあるヘグリイスと、経験豊富なコクウィウム。その二人が正面。コクウィウムが敵右翼寄りなのは、敵の動きを止めるため。


 密集陣形の最大の弱点。

 味方の盾で守られない右側。


 そこを突くように動いたのは、サッピトルム隊だ。


 悪くない、とマシディリは思う。


 追撃方法はセアデラに任せたが、しっかりと高官の特性も考えた配置をしている。他のやり方としてはペディタとヘグリイスの役割を入れ替えたり、コクウィウム隊を後列にしたりとあるが、どちらが優れていると言う訳でもない代案だ。


 戦況は、互角。


 槍の動きから見て死傷者が多いのはドーリス人部隊だが、上がる槍が変わっても位置はほとんど動いていない。攻撃は継続している。


 最後の一兵まで戦った記録、僅かな兵だけでエリポスを救う戦いに出向いた王、祖国が滅ぼされるとして敗戦が決まった中で敵指揮官だけを狙い続けた死滅の攻撃。


 ドーリスの歴史が誇りとなり、彼らを奮い立たせている。


(中途半端でしたかね)

 目を閉じ、思う。


 最早追撃戦では無い。追撃戦の利である勢いは完全に失われた。今や、正面からの打ち合いだ。少々有利な位置につけたからと言って、セアデラ達の方が後続と距離が出来てしまっているのでは、全体的に不利。


「失敗したかな」

 呟く。


「でも、セアデラの言っていたことも、間違ってはいないと思いまする」

 愛息が変な言葉遣いをした。

 苦笑し、愛息の頭をやや乱雑に撫でる。


「失敗したのは私だよ。追撃を認めたのなら、もっと数で圧倒した方が良かったなってね」


 イパリオン騎兵、フィロラード、リベラリス、パライナに次の準備の指示を飛ばす。

 その横では、兄上に馬鹿なことを言うからだ、とアグニッシモが顎を柵につけ、だらけていた。


 出番が来るまで戦場で寝ていたこともある弟である。誰も注意はしない。戦場で味方として出会えば誰よりも頼りになり、敵にとって絶望であり、マシディリに忠実だと知っているからでもあろう。


「兄上の判断が正しかったようです」


 否。双子の弟がアグニッシモの足を軽く蹴った。

 アグニッシモが文句を言うが、右から左。兄上と話をしているんだけど、と言われ、黙る始末である。


「父上の方が正しい?」

「なんでだと思う、ラエテル」


 叔父上も厳しい、と言いながらも、ラエテルが前方に目を向ける。

 俺はやさしいよ! と言って近づこうとしていたアグニッシモは、スペランツァに止められていた。


「下りてきている部隊がいるから?」


 ラエテルの言う通り、山を下って来た敵部隊が来ている。

 推定トクティソス部隊だけでは無い。彼らは、バゲータ隊・アスプレナス隊と戦っており、支援にはたどり着いていないのだ。


「えと、旗が雑多で、隊列も無いように見えます。もしかしたら鎧も? 統率された部隊には見えません。だから、えと、憤りを持ち続けていたエリポス人部隊が下りてきている、のでしょうか」


「勢いのついた数をぶつけるのは、元々ティツィアーノが思い描いていた戦術。

 兄上。兄上の警戒していた通り、ティツィアーノには策があったようです」


「だね。囲まれる前に撤退を。それから、セアデラは呼び出そうか」

「セアデラに甘いのでは?」

「将来有望な若手だからね」

「弟だからと言って甘いことを繰り返すと、信を失いますよ」


「自己紹介?」

 口元だけでにやにやしながらアグニッシモが言う。

 スペランツァはアグニッシモを見ただけで、双子の兄には何も言わない。


「兄上の想定していた作戦の準備に入ります。秘密兵器も使った良いでしょうか?」

「使わないように。今は効果的な使い方にはならないからね」

「かしこまりました」

「いってらー」


 双子の兄がかるーく言い放った。

 マシディリも信頼の言葉を伝え、スペランツァを送り出す。


 戦場では、追撃に出ていた部隊の撤退が始まっていた。コクウィウムを最後尾に、ペディタとヘグリイスの隊が引いていく。バゲータとアスプレナスは交互に、だ。バゲータが隊列を整えて迎え撃ち、その間にアスプレナスが隊列を整える。次にアスプレナスが突撃し、遠距離攻撃を放ちながら逃げ、その間にバゲータが引く。その繰り返し。


「思ったよりも来てくれなさそうかな」


 流石はティツィアーノの統率力と言うべきか。


 だからこそ、次の手。

 イパリオン騎兵による撤退支援のような攻撃。矢の雨だ。ただし、ただの矢では無い。


『卑怯者』『臆病者』『腰抜け』『墓失い』『逃亡者』


 そのような文字を一つずつに彫った矢だ。


 そして、目の前には隊列を崩したようにも見える、逃げていく敵兵。イパリオン騎兵の攻撃も基本は引きながらの攻撃であり、馬の威圧感は以前ほどは無い。自らが攻撃を仕掛ける立場となっているエリポス諸部族兵からすればなおさらだろう。


 だからこそ、無事に釣れる。


 敵兵が殺到し、平野へ。


 最初は警戒していた平野でもアレッシア騎兵が出てこないと見ると、より勢いをつけて簡易防御陣地群へ。その名を使った挑発もしてきたのだ。この陣を攻撃し、陥落させることはティツィアーノの利にもなると言う言い訳が立つ。


 前に出ようとしているのは、元第十一軍団であり敵に降った者達で編成された部隊だ。


 暗殺者共の処刑もあり、より強く忠誠を示さねばならなくなっているのかも知れない。マシディリの所に帰ることが出来ないと決意を固めてもいるだろう。


 何より、敵から見ればマシディリが鍛え上げたアレッシア人部隊と見えている。



「大丈夫。君達の死は無駄にしないよ」


 冷え切った両手を口元に合わせ、マシディリは空を見上げた。青い空である。雲も少しだけあるが、白い。綺麗な青空だ。


 そして、対人兵器の音が鳴り響く。


 スペランツァ・ウェラテヌス・セルクエリ。

 マシディリの四弟。セルクラウスの現当主であり、アグリコーラの長い午後では事前に連絡を取り合えた兵などほとんどいない状況でイフェメラ・イロリウスの攻撃から時間稼ぎを完遂した指揮官。


 準備を整えた状態で勢いはあるが統率は無いエリポス人諸部族部隊を防御陣地で相手取るのなど、簡単なことである。


 反転。

 再び攻守が逆転する。


 逃げるエリポス人諸部族部隊と、追撃に移るスペランツァ。今度は、エキュス、ヴィルフェット、フィロラード、リベラリス、パライナの部隊を連れての攻撃だ。


 平野で散々に打ちのめし、追いかけ、再び山際へ。


 たどり着いた部隊を収容し、敵を弾き返すかのように列の整った軍団、第四軍団と思わしき敵集団が現れた。

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