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ウェラテヌス隆盛記  作者: 浅羽 信幸
第四十二章
1727/1744

多段制御

 翌日も。

 翌々日も。


 怨敵への拷問は続く。


 既に何人かは「殺して」としか呟けない存在になっていたが、その度にマシディリは青のオーラ使いによって精神を落ち着かせ、新たな日常を再開させた。


「マシディリ様。そろそろ、本格的に防御陣地群の作成に取り掛からないと間に合いません」


 マシディリは、アビィティロを見た。

 計算上は既に大部分が完成しているはずである。報告でも既に戦闘に耐えうる状況にはなっていた。

 ただ、目の前にいるアビィティロの背筋に緩みは一切ない。


「では、少し放置しましょう」

「それがよろしいかと思います」

 敵は目の前にいますから。


 アビィティロがそう言った二日後、遂に向かい合う山にティツィアーノ本隊が現れた。トクティソス、ケーラン、ミラブルム。第四軍団もいる。前日までは暴走したエリポス諸都市兵の一部が何度か攻め寄せてくることはあったが、この日は無かった。


 遅れて、スペランツァがエキュスらとも合流し、第十軍団第十一軍団、第四軍団を引き連れて到着した。


「やるかい?」

 すぐに、木の束(ファスケス)を手渡す。


 真っ先に受け取ったのはフィロラード。何度もマレウスを打ち付け、最後に蹴りを加えていた。ヴィルフェットは木の束を受け取ると、絨毯に近づかずに縛られている怨敵の後ろに回り、頭を打ち据える。


 スペランツァは、すぐには手を伸ばさなかった。

 ただ、受け取りはする。


 木の束の先を引きずるようにして歩き、絨毯で包まれ、既に声もほとんど出ていないマレウスの下へ。やめて、だの、殺して、だの、良く分からない声を出している塊を見据え、スペランツァが木の束を持ち上げた。


 ただし、片手。

 もう片方は素早く槍の穂先(プルムバータ)を抜き、座っている怨敵に投げつけていた。突き刺さりはするが、致命傷にはならない一撃である。


「油断した?」


 そして、マレウスにも一撃。

 それで終い。


「おい」

 低い声は、アグニッシモのモノ。


「こいつらがナニをしたか分かってんのか?」

「そっちこそ。今何をすべきか分かってる?」


 ぽいっ、とスペランツァが木の束を投げ捨てた。

 双子の兄を一瞥しただけでその場を去っていく。アグニッシモの怒りは、絨毯へ。今日一番のうめき声が絨毯から漏れて来た。


 その様子を眺めつつ、マシディリも立ち上がる。


「軍議を行います」


 伝令もすぐに立ち去っていった。

 アグニッシモの龍哮が後ろから聞こえる。別の男の吐しゃ音も聞こえて来た。


 天幕に集まった軍議の場で聞こえるのは、種々の報告の声。マシディリの作戦説明の声。質問をするアビィティロの声。


 他の音は、無い。


 会議の名を冠しながら、ほぼ一方的な話ばかりで終わる。


 各高官の退出も、静かに、粛々としていた。


 残ったのは、マシディリとアビィティロ。それから、護衛のアルビタとラエテル。帰りかけてとどまったのが、フィロラード。アグニッシモとセアデラは、スペランツァと共に早めに去っていった。


「こちらに隙があれば、ティツィアーノ様は突いてくるかと思います」


 背筋を伸ばしたアビィティロが切り出してくる。


「でしょうね」


 簡易防御陣地群と称し、敵にも伝えると言う挑発。

 その行為を行う以上、マシディリも理解していることだ。


「マシディリ様。武装解除をしているとはいえ、捕虜を抱えすぎるのは敵を内部に入れているのと同じこと。作戦を早めることを提案いたします」


「早める」


「はい。マレウスはまだ生きておりますが、ロエルの処刑は敢行した方がよろしいかと思います」


「あの男は、マレウスを呼び込み、クイリッタを呼び止めた張本人です。そのくせ、親指を切り落としている。恐らくはクイリッタの反撃による傷ではありません」


「だからこそ意味があるのです。処刑を開始してから既に五日。彼らの反応に鮮度はありません。鮮度が無い反応に、ティツィアーノ様は心を動かされるでしょうか」


 視線を切る。

 口元に右手の人差し指側面を当て、大きく息を吸った。腹の前で右ひじを支えている左腕も大きく動く。


「第十軍団の到着により多くの物資がやってきましたが、カナロイアからは離れました。夏までは物資が持ちますが、余裕があるとは言えません。

 マシディリ様。余計なところに食糧を割くべきでは無いかと思います」


 ゆっくりと、マシディリは息を吐きだした。

 アビィティロの顔が、僅かに動く。


「戦闘に前のめりなのは、敵だけではありません。私が見たところ、功に飢えている者は我々の中にもおります」


 アビィティロの声は、最後まで落ち着いていた。

 同時に、道を避けるつもりが無いのも、長年の付き合いで良く分かる。頑固なのだ。柔軟性が無い訳では無い。むしろ、父の影響が強い時でもマシディリのやりたいこと、やったことに対しての行動をとってくれている。


 そのアビィティロの主張だ。

「分かりました」

 受け容れないと言う選択肢は、ほとんど無い。


 天幕から出るなり、マシディリは陣の外に磔台を作るように命令を飛ばした。敵からも良く見える位置である。当然、敵の中にはすぐの攻撃を主張する者もいただろう。


 しかし、マシディリが陣取ったのは平野。騎兵が有利な地。

 一方、ティツィアーノが陣取るのは山地。騎兵が不利な地。


 マシディリの兵数は三万。

 ティツィアーノは三万五千。


 兵力差は、ほとんど埋まった。精兵の数はマシディリが優勢。

 小競り合いすらなく、翌朝を迎えた。


「やあ、ロエル。クイリッタにする挨拶は考えてあるかい? 父上への懺悔は? 理詰めで来るであろうサルトゥーラ様に対して行う自己弁護の準備は十分かい?」


 ひっ、と表現すべきか、ただの空気の音と表現すべきか。


 安堵と怖れの入り混じった表情で老人ロエル・アステモスが固まる。怨敵たちからロエルに向けられるのは、羨望と更なる恐怖、同情に諦観。一貫しているのは、誰も手を伸ばさないこと。


「即答できないか。安心してよ。時間はあげるから」

 ロエルを逆さにつるす。


「夜には戻してあげますね」

 そう言って、こめかみに穴をあけた。

 血が抜けることで、頭部が破裂することはなくなる。


「ま、覚えていれば、になりますが」

 そうして、戦場の中央にも処刑場が出来上がった。


 次に手にしたのは鉄槌。それをアグニッシモに渡す。くじも用意し、引いてもらった。

 書かれた名の怨敵へ、愛弟が歩く。無言で。立ち止まると、即座に頭に鉄の塊を叩き落した。


 ばきり、とはじけ飛ぶ音が鳴る。


 赤い液体に続き、桃色の物体が飛び散った。本来は灰色や白色の物体だ。それが、血によって色が変わっているのである。そして、頭を失ったことに気づいていない肉体は手を動かしていた。


 一瞥してアグニッシモが去っていく。

 残ったのは、怨敵たちの荒い息遣い。


「ご神慮によって、テラトモスは解放されました」


 抑揚なく言い切り、マシディリもその場を後にする。


 残されたのは椅子に縛り付けられたままの怨敵達。その中で、たまに動いてしまう頭の無い肉体。死体が動くことはままあることであるが、今回に限れば苦しんでいるようにも見えただろう。


「捕虜を」

「はっ」

 すぐに、兵が捕虜の内十五人を連れてくる。


「私が攻め込んだのも簡易防御陣地群。攻め込んだ理由も、ビュザノンテンと言う要塞に籠る弟を救援するため。


 そして、今は貴方の義兄が此処にいる。目の前にあるのは簡易防御陣地群。

 更に、私は相手の籠る山を伐採するなどと言った大規模な工事もしておらず、間に広がる平野に工夫も施していません。


 そう皆々様に伝えてきてもらえませんか?」


 手紙も十五枚。


「ああ。それから、そこに座る方々の誰のモノでも構いません。指を一本、持って行ってください。それで解放します。皆さんは、アレッシア人ですから」


 被庇護者を連れたレグラーレが、捕虜に短剣を渡した。小さく厚い板も渡す。


 捕虜の一部には、震えが見えた。

 顔を怨敵達に向けた者の躊躇は、指を切ることか、それとも誰のを切るべきかと迷っていることか。


「われわれも、マシディリさまと、ともに、戦うことは」

「ありませんね」

 即答。


「皆さんを処刑することはありませんが、大多数でクイリッタを嬲り殺した連中に命を預けていたことに変わりはありませんから。今は、まだ、その時ではありませんよ」


 まあ、功績次第です。

 最後にそう付け加え、マシディリは顎を動かし催促した。

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