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ウェラテヌス隆盛記  作者: 浅羽 信幸
第四十一章
1683/1752

真意 Ⅰ

 プロレステンシア北東にアレッシア軍出現。


 その報は一気にエリポスに広がったことだろう。少なくともプロレステンシアが各地に馬を放ったのは被庇護者達が確認している。


 ただ、駆け付けてきたのはエリポス軍だけであった。近くに来た順に各個撃破して荷物を漁っても、ティツィアーノとのやり取りが見つからない。


 いや、完全にやり取りの歴史が無かった訳では無いのだ。


「アビィティロ・ルーネイトが裏切ると、きいて、いる」


 拷問にかけた兵が息も絶え絶えに言ったことが、まさに。


 曰く、アビィティロもティツィアーノと同じく『二番手に甘んじている男』だ。クイリッタはそれで良かったかもしれない。だが、他の者は違う。アレッシアの男なら一番になりたいと願うはず。自分より強い者と戦いたいのも当然。たった一度の人生で、自分の力を試さずに逃げ出すような腰抜けで良いはずが無い。そのような者をマシディリが重宝するはずも無い。


 パラティゾも、虎視眈々と狙っているからこそアレッシアに残ったのでは無いか。あるいは、残されたのでは無いか、と。



「まるで、バゲータ様の演説を聞いて起こした行動のように思えますが、予め仕込んでいた策であると愚考いたします」


 定例の軍議の場で、ヴィルフェットが今日も見つかった手紙を摘まみながら言った。


「誰がどう見ても、兄上の力を最も削がれるのはアビィティロと仲違いをした時。戦場でならアグ兄の名も挙がるでしょうが、最も兄上の力になっている者はアビィティロです。


 事前に仕込み、ゆっくりと調略を仕掛ける。

 エスピラ様の第一次エリポス遠征の時も同じでした。今でこそ順調そのもののように語られておりますが、実際は少しずつ調略を進めていったに過ぎません。その過程でビュザノンテン、当時エステリアンデロスの権力闘争も利用しています。


 今回も同じこと。

 何より、経験の浅い兵に対してアビィティロへの疑惑を持たせることでこちらの団結力を削ぎ、弱めようとしているのではないかと愚考いたしました」


 自分達に心配は不要だ、と言うようにヴィルフェットが言い切る。


 事実、馬鹿馬鹿しい話題だ、と態度に出し、言外に睥睨しているアグニッシモの次に高位にいるのはヴィルフェット。この場に於いては、の話だが、そうでなくとも従弟は指揮継承権第六位にいる。


「父上の言葉を借りるのなら、アビィティロですら裏切るのなら、私に致命的な欠点があると言うことでしょうね」


 微妙に違う私も違う、と言ったのはソリエンス。ぐい、とフィロラードに肘で押されていた。


「ま、アビィティロに裏切られるような者がアレッシアを引っ張れる訳がありませんから。何も気にしなくて良いですよ」


 軽く言い、本来の話題です、とでも言うように別の手紙を引っ張り出す。

 イーシグニスがらしくない生真面目な動作で受け取り、中央に広げた。


(高官は心配ないでしょうが、兵達の口と奥底の不安は変わらないでしょうね)


 かと言って、不安の払しょくのためだけにプロレステンシアを放置して移動もできない。


「アスプレナスがトーハ族族長選で優位に立ちました。伴って敵対派閥が南下を始めたようです。ティツィアーノとの連携をするつもりであり、兵力を増強してやってくることをアスプレナスは危惧していますが」


 小さく区切り、特別に参加させているラエテルとセアデラを見る。

 ラエテルはうんうんと頷き、セアデラはまっすぐに立ち続けていた。


「ティツィアーノがメガロバシラスに戻った理由の一つだとすれば、次は騎兵を増強させてくるか、連携が密になっているのか。メガロバシラスの民を安心させるためと言う理由はあっても、戦うためと言うのは考えにくいだろうね」


「騎兵戦力で下回ったため、平野での戦闘になりかねない地域を悉く捨てたと言うことも考えられると思います。戦場での優位が欲しい。ボダートとスキエンティで第三軍団を釘付けに出来ている今なら、歩兵戦力では優勢。ティツィアーノは山地などに出てくるのでは、と思弁いたします」


 セアデラが即座に言う。

 感心したような反応を見せたのはエキュスやアルム。悔しさが出てきたのはバゲータ。隣のラエテルは、流石、とも、どうだ、と自慢しているようにも見えた。


「流石だね、セアデラ。私も可能性は高いと思うよ」

 おだやかに褒めて。


「では、アスプレナスに簡易式のスコルピオを始めとした対人兵器の一部を預けたことに関しての狙いを、ラエテル。答えてくれるかい?」


 油断していたね、とでも言うかのようないたずら心満載の表情を作り。

 マシディリは、愛息にも話を振った。


「はい!」


 最初の返事は元気よく。

 一拍空くのは、ご愛嬌。


「遠征によって味方づくりが遅れたアスプレナスに戦力となる味方をつくることと、それによってトーハ族内でも騎兵の地位が相対的に低下することを狙ったと思います。


 一方でアスプレナスもアレッシアの技術をほぼ無償で手に出来る好機であり、騎兵に頼り切らない戦力の拡充は、嘘つきと思われているトーハ族に於いて必須事項でもありました。


 そして、父上の最大の狙いは、アレッシア人官僚あるいは親アレッシア派の人間をトーハ族に送り込むことでもあると考えています」


「どうしてだい?」

「トーハ族の騎兵戦力は戦力として国境の最外郭に配置しておきたいからです。一方で制御下にも置きたい。だからこそ軍事はトーハ族に握らせ、内政をゆっくりと握っていく」


 最後には軍事も。

 それは、ラエテルも思いついているだろう。ただこの場では口にしなかっただけだ。


「方法としても、スコルピオを十全に使えなかったアフロポリネイオの例があります。あれほど大々的に勝利を喧伝し、父上に勝てる存在だと吹聴している国の戦いであれば諸外国も知らないはずがありません。その中で兵器の整備が整っていなかったとは、心ある者ならばすぐに気づくはず。

 気づかない者に用は無く、気づいた者は整備者を受け容れざるを得ない。


 そのような策だと思って聞いていました!」


「流石だね」

「アフロポリネイオを利用したのは、ティツィアーノも同じであると愚考いたします」


 マシディリの褒め言葉の後、尻にかぶりつくような反応速度でヴィルフェットが言った。

 開きかけたセアデラの口が閉じていく。その様子をヴィルフェットも見ていたようだが、何も言及しなかった。


「どういうことだい?」

 目でセアデラに謝しつつ、正中線をヴィルフェットに向ける。


「ティツィアーノとエリポスは協力関係にはないと、少なくとも強固な協力関係では無いと愚考いたしました」


 地図を、とヴィルフェットが言う。

 リベラリスとフィロラードが大きな布を取り出した。簡易的なエリポスの地図だ。だいたいの位置は分かる物である。


「数を用意しても烏合の衆では兄上に勝てません。いえ。エスピラ様と兄上と共通して、下手に数を増やしただけでは負けやすくなっただけとなります。でも、数は正義。多数が勝つのも現実。


 だからこそ、ティツィアーノはエリポスと協力しない道を選んだのではないでしょうか。協力せず、ただ数をぶつけていく。自分は弱体化せずに。

 同時に、兄上に対抗できるのもティツィアーノだけ。エリポスが勝とうと思ったらティツィアーノに頭を下げないといけない。


 兄上を弱らせ、エリポスも弱らせて軍門に降らせる。


 それこそがティツィアーノの基本方針だったからこそ、敗北の可能性がある追撃戦をも嫌って一時避難したのだと、愚考いたしました」

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