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ウェラテヌス隆盛記  作者: 浅羽 信幸
第四十一章
1674/1738

未だ手の中で

「見よ!」

 全軍に対し、吼える。


「エキュスの兵は熟練でしたか? 孤児院の者達は歴戦兵でしたか? エキュスやルベルクスは東方遠征からの高官でしたか? いえ。一年前までで高官経験者でしたか? そのような者達の集まりでしたか?


 違うはずです。

 彼らは、誤解を恐れずに言えば新兵だ。まだまだ独り立ちしたばかりの、おぼつかない小鹿だ。


 だと言うのに此処まで粘っている!

 バゲータを加えても四千の兵で、二万を超える大軍を、ティツィアーノの率いる主軸を押さえ、崩れず、此処まで持ちこたえたのだ。


 では、皆さんはどうですか?


 マシディリ・ウェラテヌスの精鋭として数多の戦場を駆け抜けた勇者。

 私に見初められ、父上に認められ、遂にはフロン・ティリド遠征で数多くの経験を積んだ英雄。

 父祖の想いを継ぎ、ハフモニと言う宿敵との緊張感を持ちながら己の意思で道を切り拓いてきた開拓者。


 少なくとも彼らよりは精鋭だと言う意識があったはずです!


 このままで良いのか!


 遅れて良いのか!


 来るかもわからない味方を来ると信じ、五倍の兵に立ち向かった彼らに対し。たった二倍の兵に対して逃げると言う選択をして良いのか。


 父祖の誇りに懸けて決断しろ!

 神々に恥じぬ生き方を見せつけろ!

 そして、私についてこい!


 私は必ず、私を信じた者を見捨てない!」



 かかれ!

 叫び、剣を抜く。

 紅い光をマシディリ自ら打ち上げ、先頭で坂を駆け下った。


 盾を前に。赤いオーラを纏わせ、突き出された槍を破壊しながら盾で敵兵を殴りつける。すぐに蹴り。敵の足を崩せばまた盾で敵の頭を叩きつけ、剣で止めを刺す。すぐに盾を人の気配がする方へ向け、腰を落として攻撃を受け止めつつ体を使って敵を跳ね上げる。隙が大きければ剣。少なければ蹴りで敵の足を狙う。


「よく聞けアレッシア人!」

 叫ぶ。


「マシディリ・ウェラテヌスは此処にいる!」

 大きく吼えれば、味方も大きく吼えた。


「声を挙げろ!」

 盾の裏から槍の穂先(プルムバータ)を抜き、投げつける。致命傷にはならないが、守りに回った敵に対して味方の攻撃が殺到した。


「自信を持て!」

 アルビタがマシディリを抜き去り、一挙に敵に肉薄。すぐに突き殺した。


「皆さんの横にいるのは誰だ!」

 応えるように、再び野太い光が前方で上がった。

 喊声もさらに大きくなっている。


「さあ。勝利の女神は勇猛な男こそお好みだ!」

「おお!」


「戦傷は、最大の口説き文句にだってなる」

「おぉおお!」


「今日の勇気は、父祖の墓への何よりの供物だ!」

「おぉおおぉお!」


「さあ、一歩前へ! まずは私を喜ばせろ!」

「おおおおおお!」


 踏み潰し、押し返す。


 敵が正確に新手の兵数、マシディリが連れてきた兵数を知ることは無い。

 一方でマシディリ達は知っている。一人当たり二人を、あるいは四人を倒せば良いと。


 何人を切り伏せれば良いのかわからない者と分かっている者。

 優勢に進めていたのに押し切れなかった者と劣勢と知って飛び込んだ狂人。


 数の利は敵にあった。長期戦となれば敵が有利。それでも、日が暮れるまでにマシディリ達は敵軍を押し返すことには成功していたのだった。


(ですが)

 疲弊は甚だしい。


 勝利の高揚で忘れている者もいるみたいであるが、落ち着いた翌朝はどうなるか分からない。敵も、まだ防御陣地の外にいる。いわば南へと繋がる街道に近い場所にいるのだ。


 即ち、閉じ込めた側であるはずのマシディリが、海も含めて全方位を封鎖されたような状況になってしまっている。

 マシディリは、どこか一カ所、現実的に考えて南にはみ出ている敵部隊を叩く必要がある状況にさせられてしまっているのだ。


(戦いは継続せざるを得ませんね)

 疲労した兵で。


 ティツィアーノの狙いもこれだろう。

 だからこそ、軽装歩兵も多かった。ただたんに戦闘回数を多くするためと、マシディリ側の兵をより多く動かすために。


「良く耐えてくださいました」

 兵への休息の指示と臨時の防御陣地の作成指示。それらを飛ばしながら、マシディリは前線で戦い続けた兵への労いに向かった。


 他の三地点でも現在は戦闘が収束している。ただし、攻撃はまだあるはずだ。


「メリモアを始めとする前回暴走した者達が名誉回復のために踏ん張ってくれました」

 疲労の隠しきれない顔でエキュスが言う。


 海上からやってきた敵と最初に相対したのはエキュスの部隊。エキュス自身は内陸に居たのだが、踏ん張っている小隊の下に駆け付け、必死に士気を執り続けたとは聞いている。


「ラエテル」

「はい」


 後方、グロブスの下に置いてきた愛息は夜には伝令としてこちらに戻ってきていた。

 ただし、朝にはまた伝令としてグロブスの下に向かわせる予定である。


「アルカ・メサラとメリモア・フルウィトらの所に、私からの感謝を伝えに行ってもらえるかい? それから、クイリッタも君達のことを誇るだろう、ともね」


「任せて!」

 どん、と胸を叩き、愛息が駆けていく。


 軽やかな足取りだ。元気いっぱいである。今の疲れ切った軍団に於いて、非常に大事なことだ。体力も存分にあるらしい。本当に大事なことである。上に立つにあたっては、雰囲気が崩れないことも疲れを見せないことも、下の者を励ます行為になるのだ。


「オグルノは来ましたか?」

 麦粥を差し出しながら、尋ねる。


「二番手集団がオグルノだったと思われます」

 エキュスが恭しく受け取りながら答えた。

 口をつけるのを待ってから、マシディリもゆっくりと口を開く。


「敵の陣容はどのような感じでした?」


「上陸直後は、鎧もほとんど無い海賊のような者達でした。続いて騎兵とアレッシア式の歩兵が続き、この時点で海岸線の防御を放棄せざるを得なかったと聞いております。

 その次が、恐らくドーリス人を中心としたエリポス人の重装歩兵です。

 押し出す形で攻め込まれ、押されていくうちに敵の中心が軽装歩兵に変わりました」


「なるほど。統率の具合はどうでした?」


「統率の具合、ですか。


 そうですね。

 最初の兵は分かりませんが、苦労した話は聞きません。推定オグルノ隊はさほど見ることはありませんでしたが、勢いはあったのだと思われます。エリポス人重装歩兵部隊は見事でした。攻撃に逸る者達は次々と槍の餌食となり、幸か不幸か怯む者が増えたところで数に勝る相手と互角にやり合うことが出来たように思えます。マシディリ様が来るまで彼らが引くこともありませんでした。盾も、良く並んでいたと思います。


 最後の軽装歩兵は、周囲から襲ってきて。気が付けば乱戦となっておりました。最初から乱戦だったのかもしれません」


「なるほど」

 下唇のさらに下側を摘まむように指を動かす。

 そのまま、冷えた親指の側面を唇にくっつけた。


 しかし、目の前にいるのはアビィティロでもクイリッタでもティツィアーノでも無い。エキュス・テレンティウスだ。故に、考えをすぐに口まで持ってくる。



「ティツィアーノはエリポス人重装歩兵部隊を主軸として使いたかったけれど、彼らは自分達の損害を嫌がりつつも名誉を奪われることを望んでいませんでした。だからこそ、オグルノ隊が二番手。一番槍は功名を求める貧乏な者達、あるいは没落した者に。彼らも功績さえあれば良いので最初だけ。


 最後は、勝っているのなら積極的にティツィアーノに味方して、不利と見れば逃げ出すような数だけの輩。だからこそ、突撃で簡単に押し返せたのでしょう。途中で止まったのは、ティツィアーノの本隊が監督に出て来たから。


 こちらに仮初の勝利を与えて兵力劣勢でも勝てると過信を与えつつ、敵陣中でティツィアーノ直属隊の評価を上げる策。


 まあ、敵の実数がそこに居る人数よりも少ないと知れたのを、良いこととしましょうか」



 前哨戦だ。

 盾が穴だらけとなり、失明した者もいるエキュスに対しては言えないが、次の作戦に繋げるための戦いでしかない。大規模な陽動でもあったが、破壊できるのなら本命にするつもりでもあっただろう。


(ボダートとスキエンティと同じ戦い方ですね)


 ティツィアーノの策略か。

 ボダートやスキエンティが授けた策か。

 あるいは、意思の疎通がうまく行っているのか。


(厄介ですね)


 マシディリを始めとするウェラテヌス関係者がマレウスに対して強烈な怒りを抱くように。

 旧伝令部隊が『裏切り者』としてボダートとスキエンティに強烈な感情を抱いているのも。

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