表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウェラテヌス隆盛記  作者: 浅羽 信幸
第四十一章
1673/1737

三思後行の手

(どう、しましょうか、ね)


 基本的に二人の配置は変えられない。


 相手はボダートとスキエンティだ。この時点で向かわせられる高官は限られる。その上でマシディリの戦略を理解し、線引きも出来て、敗戦しても味方の士気の低下を抑えられる人物。低下の抑制は、本人の軍団だけではなくマシディリのいる本隊に関しても。


 そうなると、ヴィルフェットとフィロラードが最適だ。

 敗戦も、ある程度マシディリの贔屓起用に依るためと言う言い訳も作れる上に、二人への同情論も出てくれば二人の求心力も下げずに済む。


 だが。

 そうも言い続けられない。


 まずはイパリオン騎兵。援軍として西からやってくる彼らは、このまま別動隊に着くのが自然の流れ。しかし、率いているのがプリッタタヴだ。まさか彼にヴィルフェットの下につけとはいきなりは言いにくい。


 プリッタタヴはイパリオンの頭目だ。


 対してヴィルフェットは軍団長ではあるが、軍団の指揮官の移譲順では低い。イパリオンがどう思うか、あるいは敵がどう噂を流すかなど火を見るより明らか。


 イパリオン騎兵は、マシディリの元まで来てもらうしかない。アスキルであれば、直接援軍としてつけられたのだが。この時点で、ボダートとスキエンティに対して『乱れ』を見せかねないのである。


 そして、第二の問題はヴィルフェットが軍団長であると言うことだ。


 ボダートとスキエンティは、諸都市から軽装歩兵を徴収できている。数を送ってもさほど意味は無いかもしれない。


 ならば、出せる援軍は第三軍団の高官。


 しかし、彼らの役職は書類の上ではヴィルフェットより低い。さりとて、ボダートとスキエンティに対抗するには彼らにも権限が必要だ。ともすれば、援軍の高官が指揮を執るぐらいの。


 ただ、そんなことは出来る訳が無い。彼らがたった一敗で信頼を失ったと軍団に見られれば、軍団からマシディリへの忠誠心も揺らぐのだ。

 ヴィルフェットとフィロラードへの信頼を示すためにも、生半可な人選で援軍を送ることはできない。


 ならば、打てる手は一つ。


 アビィティロの派遣だ。


 マシディリのいない戦場でマシディリの代わりを果たせる右腕。プラントゥム遠征中に数多の仕事を一人で捌いた超人。マシディリの相婿。


 アビィティロが誰の上に立とうが誰もが納得する。誰が見てもアビィティロの起用はヴィルフェットとフィロラードへの不信では無く、ボダートとスキエンティへの最大限の警戒と映るのである。加えて、アビィティロが到着次第、リベラリスに戻ってくるようにとも命令を飛ばした。


 同時に、夜を使って布陣も変える。


 防御陣地の弱点は海に面している北部と南部。この内、北部にはコクウィウムを派遣して敵の攻勢を南部に向けさせるのが狙いであった。オグルノの離反も攻撃箇所を限定させるため。数の利がある敵に対し、攻撃箇所を指定させて少しでも有利に立とうとする策だ。


 だが、アビィティロがいないのであればいざと言う時の戦力が大きく削られる。


 対応策として、北部に第三軍団の多くを派遣した。

 攻撃箇所と成るであろう南部寄りにはグロブスを配置。守ってもらっている間に北方から援軍が駆け付ける形であり、敵の攻撃を南部にさせるのも狙い。


(アビィティロの派遣までは、読むでしょうね)


 ティツィアーノの狙っていた機は、これだ。

 ただし、攻撃地点は違ったかもしれない。されど、オグルノを使うためには攻撃地点をオグルノの言う通りにしないといけないのだ。


 オグルノも、十分に有能な高官になりうるのだから。


(依然、質はこちらが上)


 りんご酒を一気に煽り、山羊の膀胱を叩きつけるように机に置く。


 すぐに警戒音が鳴り響いた。

 マシディリが出るより早く、レグラーレが天幕に飛び込んでくる。


「敵の攻撃が始まりました。一瞥しただけですが、老人女子供も混ざっているそうです」

「熟した、と言うことですか」

 血反吐を吐くように言葉を吐く。


 人手の嵩増し。

 野戦であれば意味が無い。しかし、出撃までに過程を経る防衛戦であり、数に劣る側が外側と言うより長大な壁に張り付いている今ならば大きな意味を持つ。


 兵の分散が必ず起こるのだ。


 そして、ティツィアーノが非戦闘員まで動員できたのは、内側に籠らされ続けた者達の不満があって。現状への打開の意識が、戦闘員と非戦闘員の垣根を越えて彼らを団結させる。


 そうして戦闘力の低い者達への対応にマシディリが時間を割かれている内に、攻撃の選択権を持つティツィアーノが攻撃地点を決めるのが狙いだろうか。


「最初の何地点かは誘導です」


 声を張り、伝令を飛ばすものの敵の攻撃は続いている状況だ。

 投石。手持ち式のスコルピオ。へろへろの矢。

 練度は低くとも、対処せざるを得ない攻撃である。薄くできる前線など無いのだ。


「北方、角の地帯に敵兵が現れました。タルキウスです。ケーラン・タルキウスとミラブルム・タルキウスが指揮官です!」


 兵が叫ぶ。

 既に光の連絡の時点で近くにいたマンティンディに迎撃指示を出していた。だが、これでアピスも割かねばならなくなる。

 よりにもよって防御が硬い場所、と言うのが、マシディリに多くの思考を強いてくる。きっと、狙い通りだ。


「いっそのこと、此処で攻めに転じて敵精鋭部隊を押し込むことを進言いたします」

 近くにいるルカンダニエが言う。


(そうすべきか)

 主導権を喪失したままは、避けたい。

 許諾の言葉を発した直後に、今度は目の前で光が上がった。すぐにルカンダニエへの命令を撤回し、待機を命じる。


「敵の大軍が訪れました。数五千はくだらないかと!」

「敵将、トクティソス。第四軍団の一部です!」


 第一報。第二報。

 トクティソスは能力が高いと言い切れる高官では無い。だが、経験豊富な第四軍団の軍団長補佐筆頭だ。ティツィアーノの意思を誰よりも理解し、伝達できる者である。


「第三列が先に前に出ます。ルカンダニエ、交代した後は任せます」


 その男を大軍と共に押し出してきた。

 即ち、此処も陽動だ。

 陽動だが、対処せざるを得ない。


 兵を鼓舞し、一気に柵まで近づく。

 あっても汚い言葉だけだった戦場が、今や地鳴りと汗を混ぜ合わせた大鍋と化していた。


「酷い物量だ」


 空を覆うような矢に投石、届く位置まで前に出ての投げ槍。兵の盾はどんどん使えなくなっていき、精兵がどんどん削られていく。だと言うのに、場違いなほどに弱い投石や矢も混ざるのだ。


 せっせと船で運び、ため込んでいた物資を惜しみなく投じているのだろう。


(どこかに本命の攻撃が来るはず)

 盾裏で、雨音よりも酷い音の連打を聞きながらマシディリは考える。


 それは、どこか、と。

 次の光は、此処より南方。グロブスのいるあたり。本当にグロブスの位置ならば、最も硬い場所だ。つまりは、オグルノの情報を元にした最後の陽動か。


「グロブス様の目の前にも五千の敵が現れました。指揮官は、マレウス。クイリッタ様を誅殺した連中です!」


「陽動か」

 舌を噛みながら、低く唸る。


 北から、南へ。陽動の動きは意識を下げていくモノ。

 ならば狙うは北部か。コクウィウムを叩き、第四軍団を糾合するのが狙いか。


「ウルティムス。北方へ。コクウィウムへの救援にも行ける位置で、マンティンディとアピスを支えてください」


 矢から隠れながら指示を飛ばす。

 すぐにアレッシア式重装騎兵を中心とした一団が動き始めた。


 ただし、最大の緊急事態を告げる黒い光は、最南端から。それを伝える挙動で、防御陣地を沿いながら北上してきた。


「ルカンダニエ!」

「お任せください!」

「第三軍団第三列下がれ。これより、南方に機動する。アグニッシモ、先行!」

「あい!」


 全体防御の統括として中央にソリエンスを残し、パライナとアピスも引き連れマシディリも南下。


 距離はある。

 だが、走り続けた。


 途中、マレウスとグロブスの戦いも先に確認に行かせる。被庇護者が言うには、問題ないとのことだ。マレウス側は無為に被害を出し続け、グロブス側の壁は健在。ただし、一日後には物量の差でどうなっているかは分からないとのこと。


(続けられるものか)

 卑怯な手で愛弟を奪った連中が、自分の被害を許容できるはずが無い。撤退するのはマレウスだ。


「南方に兵を差し向けられず、申し訳ございません」

 グロブスからの伝令も、同じ思いであると分かる言葉を持ってきた。


「問題ありませんよ」

 静かに言って返し、南方へ。


 赤い戦場は、既に内陸へと押し返されていた。高台から見える小さな点は恐らく船団。船に乗せ、一気に軍団を展開したのか。黒々とした雲海の如き敵兵は多方に満ちている。対して、こちらの軍団は右側を壁に任せつつ、前方と左側から迫る敵と戦いながらも何とか持ちこたえていた。中央で何度も立ち昇っているのは、アグニッシモの太く紅い光だ。


 敵は、二万か、それ以上か。

 対して手元にいる味方は戦闘中の者も含めて一万。


 やるは野戦。兵数の差がそのまま戦力差になってしまう残酷な戦い。そして、マシディリならやってくるとティツィアーノも読み切り、ティツィアーノもいるであろう頭同士の直接対決。


 不思議と、直感があった。

 ティツィアーノは此処にいると。


 此処に、互いに防御陣地を活かした戦いを展開すると言う前提は、とうに崩れ去っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ