表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウェラテヌス隆盛記  作者: 浅羽 信幸
第四十一章
1668/1731

エスピラの弟子 Ⅱ

 よく見る行動と言うことは、ティツィアーノも予測していなければならない行動だ。


 此処で第三軍団との野戦に応じれば、ティツィアーノとしては優勢な立場を捨てかねない行為にもなる。

 此処で応じなければ、ティツィアーノは第三軍団を恐れていると大々的に表明してしまう行動ともなる。


 しかも、戦闘の最中と成れば回避は難しい。


 応手。

 事前に目的が察知されたか、ティツィアーノが打ってきた手は蹴散らされてできた空間に新たに騎兵を差し込むことであった。


 無論、敵では無い。

 統率のとれた、乱れることの無い重装歩兵の群れを軽装騎兵は切り裂けないのだ。

 徒に敵騎兵の数は減り、ティツィアーノは撤退していく。アグニッシモらの追撃を防ぎながら、ゆるゆると。


 そう。

 ゆるゆると引いていくのだ。


(逃げた上に、自分達の武名の傷は最低限に抑えましたか)


 多分、アグニッシモを持ち上げたうえで戦果を言い触らすだろう。


 クーシフォスの父マルテレスの名も出し、徐々に子が親に追いついてきたと言いつつも自分達は防いだと言うはずだ。


 ウルティムスが率いるアレッシア式重装騎兵の戦果を話しつつ、自分もエスピラの弟子であるとでも言うかも知れない。


「コクウィウム様より伝令です。海上からの攻撃も激しく、第四軍団をそちらに差し向けることはできないかも知れません、とのことでした」


「海からの攻撃に対して反撃は不可能です。ええ。不可能なので、壁を築きましょうか。ディティキを覆う壁を」


 もちろん、ディティキを枯れ果てさせることは不可能だ。

 海からの補給が自由に出来てしまうのである。


 ただし、本当の狙いは敵の本隊。ディティキと言う補給地点があるからこそ騎兵を大量に動員した大軍が組めるのであって、目の前の補給地点と分断されればその限りではなくなるのだ。


 そして、どこかから補給を運ばなければいけなくなる。

 そうしてやってきた補給部隊を叩けば、マシディリ達も補給が可能となると言う寸法だ。


 敵の一手。

 内側に入ること。

 内側に入り、マシディリ達を妨害するように壁を建築し始めた。


 マシディリの次の手。

 壁の更なる建築。及び、敵の封じ込め。


 敵は騎兵が多い。つまり、馬が多いのだ。物資の消費量は圧倒的に敵が上である。この物資には、水も含まれるのだ。そして、海に面していると言うことは多いのは海水であり飲み水では無い。


 敵を壁の中に封じ込め、井戸を近くに掘って少しでも水を減らし、敵を渇かせる。

 そのための作戦だ。


 ティツィアーノの応手。さらなる壁の延長。


 しかし、無限に続くことは無い。

 敵の精鋭歩兵は第四軍団。しかし、欠けている。


 こちらは第三軍団に加え、第四軍団も二千名いる。しかも、他の兵もアレッシア人であり、アレッシアで訓練を積んで来た兵だ。


 簡易的な壁の作成速度では徐々にマシディリ達が上回り、遂には敵を海に面した一帯に閉じ込めることに成功したのである。



「父上、浮かない顔だね」

 ぐんべ、とラエテルが自身の指を使って目じりと口角を動かし、変な顔を作り上げた。


 マシディリも思わず笑みをこぼしてしまう。愛息は、予想通り、そして予想以上に兵からの評判が良く、長期戦が見えてきているにも関わらず兵の士気が高い要因の一つであった。


「糧食の手は断てず、物資も敵の方が上。しかしながら、水の手を断てた保証も無いから。と推察いたしましたが、どうでしょうか」


 セアデラが堂々と言う。

 マシディリのとっておきの伝令として動かすつもりでいたが、最近は伝令に留まらずそのまま前線の戦いに参加し、功も上げている末弟だ。


「その通りだよ、セアデラ。馬が多い以上向こうの方が維持費が高いはずだけど、こちらも制海権を失ったままだからね。エリポスが思ったよりも動いてこないのはプラントゥム遠征をすぐに終わらせた成果か、それとも何かを狙っているのか。そこも不気味だよ」


 目の前に籠っている敵軍の内、アレッシア人は二万程と推測される。

 十分な数だ。その上騎兵がいて、軽装歩兵やドーリス人傭兵が一部いる。


 ディティキ近郊から北東に移動した際のメガロバシラスとの国境部。此処にもメガロバシラス兵三千が守りを固めていた。トーハ族からの攻撃が無いモノと半ば確信しているような動きである。


 マシディリもアスプレナスをトーハ族に送りこみ、主導権を奪おうとしているが、ティツィアーノから見てもメガロバシラスに攻め込んでくる状況では無いと言うことだろう。


 そして、傭兵を始め、ドーリスは明らかに戦争体制を整え始めていた。アフロポリネイオも弁舌だけではなく、物資の蓄積も始めていると言う。


 が、積極的なのはほぼそこら辺だけ。

 後は兵の供出をしたことはあれども、都市の守りを完全に固めている訳では無い。かと言って、マシディリからの物資の提供依頼に応じている訳でも無かった。


 ディティキに近い平野の諸都市の言い訳としては、ティツィアーノ側の兵が近くにいるから。これは、事実である。三千程度のアレッシア兵が動いていると被庇護者から報告が上がっているのだ。


(どうしましょうかねえ)


 基本は守備。

 マシディリ側からゆっくり攻撃を仕掛け続けられるだけの物資は今は無いのだ。そのためには海上を回復させなければならないが、ビユーディとの連絡もままならず、連れてきた船団はほとんど残っていない。


 井戸を掘り続けたおかげで水は十分にあるが、食糧は質素に変えている。兵からの不満も少しずつではあるが出てきており、本格的に枯渇すれば第三軍団と第四軍団以外は切り捨てるしかなくなる可能性もあった。


 防ぐためには、やはり、食糧を始めとした物資が必要。



「攻めた方が良いんじゃないですか?」


 後日、物見に出かける直前のマシディリの前に現れたのは、オグルノだ。

 俺が先陣を切りますよ、と言っているが、言葉の割に殺意や気概が感じ取れない。


「相手の陣容を知るのが先ですよ」

「随分慎重なことで」

「ええ。だからこそ、貴方の勇猛さが戦場では必要なのです」


 返し、陣を巡る。

 広大な陣だ。

 所々で今日も戦闘が行われ、マシディリ側はほとんど投石で対抗している。


「水夫の脱走は仕方ないと割り切りますか」

 アビィティロ、ラエテル、アルビタのみとした高台で、マシディリは小さく言った。

 周囲には三人しかいないとはいえ、見張りの兵は下にいる。髭の剃り切れていない兵も多く居るのだ。


「え?」

 疑問の声は、ラエテルから。


 アビィティロは口にはしないが、致し方ありません、とでも言いたげにマシディリへの同意を瞳に灯していた。


「でも、父上は、水夫たちの帰還をあんなに喜んでいたのに?」


 水夫にも気を配るのは、良いことだ。

 ラエテルが彼らとも話しているのは、マシディリも知っている。その心は大事にしてほしいとも思っていた。


「そうだね。再び会えてうれしいのは事実だよ。大事にしたいさ。二度と奪われたくも無いしね」


 でもね、としっかり愛息と目を合わせる。

 雰囲気は、少しだけ冷やして。


「優先順位を考えた場合、今必要なのは水夫じゃない。物資を回すべきは戦う力のある者だ。そして、最終的には最精鋭部隊へ多くの物資を回すことになる。


 ラエテル。籠城戦で物資が枯渇してきた時に女子供や老人に物資を回す者は頭として失格だ。平時では良くても、有事の判断じゃない。順番はある。きれいごとだけじゃ無い。きれいごとしか言えない奴は、ただの臆病者だ。きれいごとを言っている間はまるで自分がこの世の正義かのように振舞えるからね。


 まあ、私も水夫を切り捨てるとなった際に何も思わない訳では無いよ。

 だから、長いこと集団の頭でいられる人は少なく、まともな思考であり続ける人はもっと少ないのさ」


「だから、脱走は構わない、と言ったのですね」

 ラエテルが小さく言う。

 目の悲しみは、どちらかと言えばマシディリへの同情にも見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ