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ウェラテヌス隆盛記  作者: 浅羽 信幸
第四十一章
1665/1726

願いを受けて、運命を Ⅲ

 ディファ・マルティーマからディティキは、さほど距離の無い場所にある。されど、炎を阻む海が広がっているのも事実だ。


 同時に、エリポス西岸の他都市、トラペザやアントンへの針路変更も言うほど難しくは無い。

 防衛側は三都市の守りを固めつつ、哨戒を徹底し、都市の近くで迎え撃たねばならなくなるのだ。それも、嵐の中で、である。


 一方で防衛側は補給も十分に受けられるといった利点もあった。攻め手は、そうもいかない。予め場所を伝えておくか、改めて連絡を送らなければ物資を送り込めないのだ。現地調達の方が現実的である。マシディリも当座の物資を船に積み、現地調達を主軸に後でパラティゾやボルビリに連絡を入れるつもりでいた。


 加えて、マシディリ側は近海でしか水夫の鍛錬が出来ていない。一方、ティツィアーノ側は半島への襲撃で熟練の水夫以外の水夫の鍛錬が出来ているだけではなく、船体の損耗にも繋がっている。その補修を直前まで出来るのも、防衛側の利点だ。


 かくして、船団同士がディティキ近海で会敵する。


 荒天に強そうな大型櫂船を多く配備し、後方に輸送船を始めとする多数の船を率いているマシディリ側。攻め手。


 一方で、守り手、ティツィアーノの船団は様々な種類がある。その多くは小型櫂船だ。しかし、立派な衝角はどの船にもついており、狙いは明々白々である。


 水夫の練度を活かした高速の突き攻撃。

 正面からくるのだから、誘い込んで敵船の横腹に衝角を突き立てて破壊する。海に投げ出された兵は基本的には無力だ。鎧を身に纏っていれば泳げず溺れていき、水夫も船と共に死んでいく。


 上陸前に、大打撃を。

 当然の戦法は、だからこそ強いのだ。


 奇をてらう作戦と言うのは、成功しているからこそ歴史に残る。それ以上に失敗した作戦は転がっており、時には「愚かだ」と馬鹿にされてきた行動が、逆転の可能性を託した奇手であってもおかしくは無いのである。


 故に、ティツィアーノ側の初手は荒波をかき分けた小型船団による突撃。

 練度と速度を活かし、爆ぜる波間を縫いながら突っ込んでくる。


 一方でマシディリ側の船にそこまでの機動力は無い。旋回しようとする船もいるが、それが全体的には隊列の乱れを生み、隙間に敵船を呼び込むことになる。


 陸のようには機動できない。

 そこへの衝突。

 大きな音をたて、マシディリ側の船に亀裂が走った。


 だが、敵船を完全に食い止める。


 練度の高い水夫だからこその的確な一撃を、貫かれながらも大型櫂船がしっかりと受け止めたのだ。


 ジュラメント様式。

 砂による自動補修を組み込んだ防御力が最大の壁。欠点は手入れにかかる時間と費用、そして水。


 マシディリの用意した特別船は、ジュラメント様式を応用して作り上げた船とは言え、一度きりだ。

 マルテレス反乱に際しマシディリが計画を発足させ、無駄な研究と思われようとも続けた成果は、この戦いでしか使えない。


 だが、この戦いでなら使える。

 この戦いでなら、預けられる。


 突撃してきた小型船に乗り込むのは、第三軍団。

 マシディリは、陸上での最強戦力を海上での最前線に配置していたのだ。


 賭けである。

 船が沈没すれば、マシディリは最強の軍団を失い、ティツィアーノは労せずに圧倒的優位をモノに出来るのだ。


 だが、元々待ち受ける側であるティツィアーノが有利なのは知っていたこと。

 軍団行動に補給は大事だが、マルテレスはそれでも補給を無視した行軍を行ってアレッシア軍を大破させた。同じだ。海上で最精鋭を使うことは危険の方が大きい。だが、その定石を無視した。


 もし負ければ、マシディリは屈指の愚か者。べルティーナやパラティゾは家門の勝利のためにマシディリに取り入った悪女と腫瘍。第三軍団は悲劇の集団と言われる賭けである。


 反対に、成功すればどうなるのか。

 マシディリは、全てでは無いものの熟練の水夫を取り戻すこともできるのである。船上と言う足のつく場では第三軍団に分があるのだ。


 そして、敵にマシディリ側の前衛が第三軍団であると判別する手段は無い。故に、今も突撃を繰り返し、乗っ取られ、小型櫂船を減らしていた。


「ルベルクス、エキュス、バゲータの小型船団を前に」


 全員、陸上に揚げる戦力だ。

 決して海用では無い。

 が、味方の救出や敵の捕虜確保の役目もある。


 同時に、マシディリは雨に打たれながら赤い光を打ち上げた。

 超長距離投石機起動の合図だ。


 主にマシディリが財の無駄と揶揄されながらも夢を追い求めて作り上げた巨大な船に積まれている、これまた父があまり戦場では役に立たないと断定した射程の長い投石機による攻撃だ。


 精度も高くは無い。

 積み荷としては無駄と言われかねない攻撃だ。


 だが、相手の行動は大分絞られる。

 あの大型櫂船を潰せ、か、攻撃を受けないように進め、となるのだ。


 即ち、前にいる第三軍団の乗った船の近くを通り攻撃を躊躇させながら後ろに来る。ただし、超長距離投石機をのせるような巨大な船は倒しにくい。


 ならば、どうする。

 ならば、後ろを狙う。


 輸送船を。第三軍団がいると敵が信じている船団を。そこに突撃し、少しでも減らすべき。


 しかし、敵船に乗るのも人間。水夫に死ねとは命じられるが、兵としては生きたいと言う意思も生まれる。怒声と縄。マシディリ側小型船の衝角による櫂の破壊。脱落する敵小型船団は少なくない。


 それでも、大勢の船が近づいてきた。

 彼らからも見えるように、マシディリは旗艦である七段櫂船の甲板に立ち、紫のペリースを雨風に遊ばせながら赤い光を剣に纏わせる。


「別に。私の海戦の目的は第三軍団の無事な輸送であり、快勝では無いのですが、ね」

 剣を上に掲げた。


「ハフモニ七百年の歴史、魅せてくださいね」

 赤い光を打ち上げる。


 ハフモニ船団。

 第二次ハフモニ戦争前までは、かろうじてではあるが海洋覇権国家の名をほしいままにしていた国の船団だ。


 第二次ハフモニ戦争では海洋覇権国家の名とは違い海戦はほとんど行われず、船も水夫も減ることは無かったのである。無論、当時の者達が戦闘可能な状態で残っている訳では無い。だが、造船技術も操船技術も失伝することなく受け継がれてきたのだ。


 その船団を率いるのは、ビユーディ。

 アスピデアウスの将来を担うと期待されていた武官が、勇猛に攻め立てる。


 優秀な高官であり、マシディリからしてみれば海で失っても構わない部隊。

 抜群の条件を満たした水軍だ。


 アレッシアの財を得て活躍の機会を作ることに成功した水軍が、エリポスの、ほぼ交易が中心となっていた船団に襲い掛かる。ウェラテヌスの熟練の水夫も敵にはいるが、先に突撃しており半数以上はエリポスの船団と思われる者達なのだ。その上、此処にきてのマシディリ側船団の集団連携。



 マールバラですら攻撃出来なかったディファ・マルティーマを攻撃したティツィアーノ。


 マシディリが攻めてこない間に防衛体制を作り続けていたという事実。


 マシディリ側とみられていたメガロバシラスと手を組み、ジャンドゥールと中立条約に近いモノを結び、カナロイアの王妃派閥とも結びつき始めたと言う外交的な成果。


 優勢であると兵も信じるには十分だっただろう。

 だからこそ、ティツィアーノは軍団を組織できたはずだ。


 故に、兵は緩む。

 船上であるがために、歴戦の高官の声が兵一人一人に届くことは無い。


 対して、マシディリ側が追い打ちに出した兵は、自国での戦力保有も制限され、許可なく戦闘行動を起こすことも禁じられたハフモニ兵。彼らの目の前にぶらさがるのは、他国による軍事的な軛を脱却できるかもしれないと言う餌。


「さようなら」

 つまらないと言う感情を隠さずに吐き捨て、マシディリは腰を下ろした。


 手応えが無い。

 ティツィアーノは此処にいない。


 そう思いながらもエリポスに上陸したマシディリは、久々の再開となった水夫たちに会うと、涙をこぼして再会を祝したのだった。

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