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ウェラテヌス隆盛記  作者: 浅羽 信幸
第四十章
1645/1730

両将を取り付ける

 あと一週間。

 それを期限に考えた時、マシディリには無理に短期決戦に挑むつもりは毛頭なかった。


 じっくりと締めあげても良い。フラシがプラントゥム西南の港街の占拠を解きつつある状況ではあったが、マフソレイオの北上に関しても対話を重ねている状況に入ってきているのだ。


 つまるところ、フラシの王族を連れての行軍ではあるが、武力衝突にはならないようにとの確認が本格的に行われ始めているのである。恐らくはマフソレイオ自身が安定した統治をし続けられる程度の領域しか組み込まないためではあると思うが、同時にフラシに直接の物資支援をできるようにするためでもあるだろう。


(政争が中心にはなりますが)

 それは、フラシにいる親アレッシア派の者達がプラントゥムに出兵しやすくなったという話でもある。


 エリポスではティツィアーノが騎兵の招集に成功しつつあると言う話も聞けば、マシディリにとって優先順位は如何に手早くエリポスに渡るかになっても来ているのだ。


 それでもまだプラントゥムを動かないのは、切り上げるのに都合の良い場所を求めていたから。スィーパスを討てるのなら討っておくべきと言うのが、マシディリとアビィティロの共通の見解だからこそである。


 そして、それはティポウル・デ・ムダンに籠られては叶わない。


 籠りにくくなるような布石は打っていたが、冬の大地に加えて小さな川がある状況であれば、こちらから無理に攻め込むこともしない。春を待って良い。冬である以上短期決戦が望ましいのは事実であるが、元老院に残るアルモニアやファリチェの協力も有って支援体制は整いつつあるのだ。


 帰るのに丁度良い機会さえあれば、マシディリは帰還する。

 今の帰還は唐突な行動になりかねない。下手な噂を垂れられないようにするために、今も残っているだけだ。


 とは言っても、出来る限り布と薪を残しておく方が大事かもしれない。

 故に、陣も森の近くにしているのだ。


「マシディリ様」

 暖を取る場所として人気なのは炊事場。

 そこに一般兵と混じって雑談をしていたマシディリの下に、レグラーレが駆け込んできた。

 失礼、と話を切り上げ、兵の塊から離れる。


「スィーパスが前に出てきました」

 まずは、端的な一報。


「ティポウル・デ・ムダンを出て、その前の丘に囲まれた隘路に兵を配備しております。部隊の前面に柵などは今のところ設ける様子はありません」


「挑発ですか」


 かかって来い。


 強気な姿勢こそがプラントゥム諸部族を糾合出来た最大の要因なのだから、今も堅持して再びの糾合を試みているのか。あるいは、短期決戦しかできないほどに物資が枯渇しているのか。


 五万の大軍を率い続けていたのだ。

 しかも、有能な官吏は多くは無い。ほとんどがソリエンスと共にマシディリの方に来ている。


 スィーパスが物資を十分にため込み続けられる方が難しい。


「兵数は?」

「七千程」


 第七軍団は一万弱。

 フラシ騎兵が一千五百。


 シニストラはグランディ・ロッホ、フィロラードはディグ・ナラダス。ビユーディは船団の準備に入り、ヴィルフェットはこちらに残っているが船団の準備は始めている。アルムは一足先に半島に行く予定だ。


 それでも、累計すれば一万四千の兵力がある。


 これで戦いに応じないのでは、先までの戦果にも疑問を持たれかねまい。


 圧倒的劣勢の兵数差を覆してきたのに、自軍が二倍の兵力の時に動かないのでは、全てが無駄になる。当然それは兵も分かる理屈だ。戦いを望むのは、何よりもマシディリ側の兵となろう。


「レグラーレ。敵についての詳細を集めてください」

「かしこまりました」


 幼馴染の被庇護者が離れる。

 人ごみに入ったところで、消えるように姿が見えなくなった。


「最終決戦で打ち破り、籠城なり逃亡なりをしたところを第七軍団に任せる、と言う形かぁ。流石は兄上。持っているね」

 アグニッシモが口角を上げた。


「苦肉の策では無く誘い込んでいるのだとすれば、楽観視はしない方がよろしいでしょう」

 水を差すような言葉はスペンレセから。

 しかし、多くの高官が表情を引き締める発言である。


「分かってるって。それを含めて叩き潰すからさ」

 ぐ、とアグニッシモが拳を作りあげた。


 全軍の前進もその日から始まる。ただし、一日で踏破はしない。進みつつ、カンペドールとアスプレナスの外様二将に道の整備を託したのだ。


 無論、アレッシア式のきちんとしたモノでは無い。

 特に湿気が高くてなおかつ避けられない道では木々や枯草などをばらまき、その上に汚れた布を敷くと言った簡易的な処置。それでも、兵の足元の濡れ具合は十分に抑制された。


 進軍も縦一列では無い。

 横に並び、さらには広がる。兵の行軍で地面がぬかるむのを少しでも避けるためだ。


 そうして迎えた渡河では、リベラリス隊だけに橋を架けてもらう。

 橋を架けた後の彼らは全軍の中心で休息だ。少しでも風を避け、なおかつ温かい場所で。ゆっくりと休んでもらう。



「アスプレナス」


 野営の陣でまず出向くのは、トーハ族の氏族長の元。

 言葉を続けるより先に手を差し出し、握手をしっかりと交わす。


「単刀直入に言いましょう。私と君にとって本戦は次のティツィアーノとの戦いになります。私がアスプレナスに期待している働きは、此処での槍働きではありません。トーハ族内部の調略こそが最も期待しているところであり、それがために万が一は避けたいと思っています。


 アスプレナス。

 今回の配置は、後方。遊軍として備えていてください。


 先の渡河で多大な労苦を払ったリベラリス隊はさらに後方でこの陣地を守ることになります。カンペドールも後方に待機させるつもりですが、こちらは要望次第では前になるでしょう。


 構いませんね?」


 アスプレナスが舌で自身の頬の裏側をなぞるような動きを見せる。

 背筋は正されたまま。つま先も真っ直ぐにマシディリに向いている。膝も曲がっていない。


「アレッシアでは軍令には従うモノだろ。立場的に、その命令に否と言うことは無い。マシディリ様は信用してくれているとは分かっているが、他の奴らはこっちをトーハ族として見て裏切りかねないと思われているのも分かっているしな。


 まあ、疑われている事実ごと受け入れてやるよ。

 それが頭領ってもんだ。


 ただ、こっちも最強のマシディリ・ウェラテヌスと言う看板が必要だ。ティツィアーノに負けるのは良い。トーハ族もやられているしな。だが、スィーパスは駄目だ。

 勝てよ。必ず」


「ええ。アレッシアの神々と、何よりも父上と母上のご加護がありますから。私に従うのなら、必ずやアスプレナスにももたらされますよ」


「どうだろうな。俺は、それよりもアンタの加護の方が欲しいね」


 マシディリも口角を上げ、握手したままの状態でさらに強くアスプレナスの手を握りしめた。互いの肉刺(まめ)がしっかりと伝わる状態で、腕を上下させる。


 その後細かなやり取りをしたのちに、次はカンペドールのいる場所へ。


「カンペドール。プラントゥム諸部族兵団は、遊軍として本隊の後方に配置しようと思います。こちらからの指示は基本的に飛ばしませんが、偽装敗走からの再編、再突撃を成功させた部隊です。練度としても何も心配していませんよ」


「ありがとうございます」

 返事は少しだけぎこちないアレッシア語。

 言いながらもマシディリが上座に到着したことで、カンペドールが片膝を着いた。


 マシディリは鷹揚に手を横に振り、カンペドールの姿勢を戻させる。


「戦闘には参加してもしなくても構いません、と言えば、理由は分かりますか?」

 マシディリは、現地の言葉に切り替えた。


「マシディリ様が目指しているのはプラントゥムの完全統治。その場に、私や私と共に戦った者達は必要であり、マシディリ様の被庇護者である彼らを中核に据えたいから、でしょうか」

 カンペドールも応じて自身の部族の言語に戻している。


「その通りです。意図を理解してくれているのなら、何も言うことはありません。私が見る限り、カンペドールはソリエンスからの報告通りの方ですから。心配もしていませんよ」


「はっ」

 頼みます、とこちらは肩に手を置き。


 椅子を持ってこさせ、膝を着き合わせる形で座る。その後は、小さくやり取りを。戦場での動きもそうだが、プラントゥムの今後についてが最も時間を割いた。残していく第七軍団との指揮系統についてもしっかりと打ち合わせを行う。現地部族の誇りも尊重し、少しだけ複雑にはなるが完全にどちらかが上、どちらかが絶対に従う、と言う形にはしなかった。


 両将との話が終われば、早朝に高官を集結させる。


「さて」

 ふう、と白い息を吐きだす。


「今日の陣容の最終確認をしましょうか」

 アレッシアの高官の頭が、一斉に下げられた。

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