表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウェラテヌス隆盛記  作者: 浅羽 信幸
第四十章
1630/1747

狙いを隠すは道の中

「スィーパス軍、軍団を分けて北上を開始しました!」


 スィーパスにまだ求心力があるのか、とまずは疑う。


 忠誠心が無いと逃げ出すのが兵だ。大軍で運用するのも脱走者を減らすため。軍団を分ければそれだけ脱走者が増えるし、軍団を分けても脱走者が出ないがために作戦の幅が広いのがアレッシア軍の強み。


(兎も角)

 観察は継続しつつ、ペグーラ近郊での決戦案を破り捨てて次の手に移る。

 北上と言いつつも、スィーパス軍の動きは西へ向かうモノだ。


 マシディリ達がこのまま港を落としていくとしても、陸路を使うのであれば一度内陸に戻る必要が出てくる。このまま海岸を進めば、急峻な場所も出てくるのだ。海からの風と狭い土地によって軍団の行軍が難しい道である。


 故に、軍団を動かすにはディグ・ナラダスへ向かいたい。北上してドザモザに向かうにしても、ディグ・ナラダスが安全策。

 マールバラの弟であるポーンニーム・グラムが根拠地にしたこともある土地だ。食糧庫も整備されており、大量の水源もある。そこを真っ先に抑えることができれば、冬の中で枯渇していくのはマシディリ達になるだろう。


 東から至るための主要街道は一つ。

 山道を使えばほぼ南からであるがさらに二つ。しかし、兵数の多い方が迎え撃つのであれば、出入り口に兵を配置するだけで十分に有利をとれる場所だ。


 さらに言えばスィーパス軍は大軍である。

 通った道は、もう人が通れない道。根こそぎ奪いつくした道となる。山がちな地形が多いプラントゥムではなおさらだ。だからこそ、敵軍が通った道を使ったマルテレスの行軍がサルトゥーラやスペランツァへの最大の奇襲となったのである。


 そのことを知らないスィーパスでは無い。本人も従軍していたのに知らないと見るのは、ただの侮辱だ。略奪の徹底もその手段を防ぐための、ある意味で壁だとも考えた方が良いだろう。


 だからこそ、マシディリは北上しつつも東進した。

 スィーパスが通った道を横切る形である。流石に、辿ることは出来ない。辿っては軍団を維持できない。だが、横切る程度はできる。節約は、使う時のためにあるのだから。


 全体的には坂道。

 緩やかな上り坂も、物資を運べば予想以上の重労働となる。故に、マシディリは一日の行軍距離を控えめにした。


 それでも一度はスィーパスの斥候を撒き、敵軍の行軍をマシディリ達から逃げる形、ディグ・ナラダスへと向かう姿勢を維持させ続けることに成功した。


 ただし、敵は賊が多い。

 賊が多いと言うことは、抜け道の類を知っている者も多く、冬山の危険な場所もある程度踏破してくると言うこと。


 ディグ・ナラダスへと向かう山道の手前。その小さな盆地でスィーパス軍が集合しつつあると言う話を斥候が掴む。最も近い場所では主要街道と僅か三十キロしかない地点だ。


 応手。

 マシディリは、ヒブリット隊を最大の水源となる淡水湖付近へと向かわせた。同時に、ドザモザへの道では無くディグ・ナラダスへと向かう道をスペンレセに先導してもらう。布陣位置は湖と山地を結ぶ最も街道が狭くなる場所だ。


 街道をスペンレセに抑えてもらえば、コパガに山登りをしてもらい斜面を抑える。山地にはパライナ隊をばらまき、賊徒との小競り合いも起こした。


 トーハ族による兵の増加。そして、此処で合流することに成功したタルキウスの援軍もタルキウスと分かる形でスペンレセに合流してもらう。


 すわ会戦か。


 スィーパスの対応は、すぐに軍団を集め始めること。

 徴発のために散っていた部隊にすぐに招集がかけられたが、数は三万五千。減った数のほとんどが脱走だ。


 ただ、戦わない。

 そのためのカンペドールだ。


 彼の部族の勢力圏はドザモザ近く。西に進めば進むほど有利になり、スィーパスの下で内政を担当していたソリエンスは街道沿いに残されたハフモニの旧都市を使用可能な状態に変えている。守るのは、もちろん戦乱で疲弊していた現地住民。彼らに十分な風よけと野生動物に怯えなくて良い暮らしを与え、代わりに忠誠を得ていたのだ。


 即ち、スィーパスに物資を使われなければ高速機動を使えると言うこと。


 案内役はカンペドール。

 主力はアグニッシモ。補助としてリベラリス、ヴィルフェットの両名をつけ、マシディリは北部へと先行させた。


 ディグ・ナラダスへと向かう道が一本なのは、東から向かう時だけ。

 ドザモザ方面、つまり北北西からならば二本の道が追加される。


 ドザモザへ向かうのも囮。強欲なマシディリは全てを手に入れるためディグ・ナラダスをも手にしようとしている。


 そう判断するのも致し方ない。

 どうやら、スィーパスはヒュントと貧民兵をスペンレセらに対する守りとして残し、自らは精兵と賊徒を引き連れてディグ・ナラダスへ急行したようだ。


 最初にスィーパスが守りを固めたのは、北北西から入る二本の道の内、より街道が広く整備されている東側にある道。


 しかし、アグニッシモが姿を現したのは西側の道だ。


 どちらも途中に集落がある。アレッシアに守りを固められるのはスィーパスも望む展開では無い。故に、即座に攻め上ってきた。が、集落は住人も物資も既に退避済み。ソリエンスとカンペドールの事前の手筈とリベラリスの迅速な実行力によるモノだ。


 この時点で、スィーパスの兵は再び分散している。


 スペンレセらの、既にもぬけの殻に等しい陣を警戒しているヒュントと大勢の兵。

 北北西から伸びる道の内、東側の一本に殺到し警戒として残している兵。ディグ・ナラダスから動きたくないと駄々をこねた賊徒兵と彼らの監視の兵。


 そして、西側の道を北上した機動力重視の兵。


 機動力を重視する兵への餌は、アグニッシモ隊がわずか百五十程度しかいないと言う情報。対して敵兵は二千はいたらしい。


 挑発し、北上させ、決戦の地へと誘い込む。


 おびき出した敵兵と相対するのはアグニッシモとリベラリスが指揮するアレッシア正規兵千八百と現地部族兵八百の連合。ただし、防御陣地もあり万全の態勢。追加の援軍としてフィロラード、アルムも合流した。二人の兵数は合計千二百。ほぼ倍数となり、東側の街道からはヴィルフェットとトーハ族が様子を窺っている。


 だが、この殲滅戦は失敗に終わった。


 戦いは起こったが、形勢不利とみるとスィーパス軍はさっさと引いたのである。指揮していたのはイエネーオス。フィロラードとアルムの合流からほどなくしての撤退劇であり、アグニッシモの追撃すらしっかりとこらえながらアグニッシモ達が放棄した旧都市へと逃げ込んだとのことだ。


「余計な命令でしたね馬鹿め、と言ったところでしょうか」

 ソリエンスが言う。


「威勢が良いな! スペンレセがいれば、大げんかだ」

 ポタティエが野太い声で腹を揺らした。


 雪がはじけ飛んでいきそうな程の大声であるが、応対するソリエンスの声は雪よりも真っ直ぐに下りていく声。スペンレセ様がいれば言いません、との毅然としているが情けなくもある宣言だ。


「そうだね」

 苦笑し、マシディリは木の皮を丸める。


 正確にはヒュントとイエネーオスは先に討ち取っておきたい者達だ。アグニッシモに手加減をして欲しい者達では無い。


 ただ、マシディリが設けた制限の所為ということにしておいた。

 マシディリの傍にいるのはポタティエ、ユンバ、ソリエンス、ビユーディ、クーシフォス。


 相対しているのはドザモザ。守将はオプティマ・ヘルニウスの遺児。されど、出入りしている商人はソリエンスの顔なじみであり、カンペドールの勢力圏。


「援軍は来ませんよ」

 その呼びかけを続け、実際にドザモザに集まってくるのはマシディリ側の部隊ばかりとなる。


 まずはヒブリットとコパガ。次いでスペンレセとタルキウス騎兵。フィロラード。不機嫌なアグニッシモと少し疲れた様子のリベラリス。トーハ族を挟んだ後でカンペドールがその次にやってきて、最後はヴィルフェットとアルム。


 ただ、ドザモザは全員が集まる前に開城した。


 カンペドールがほぼ到着と同時に入城しており、ヴィルフェットとアルムは帰着とすら言える状況となる。オプティマの遺児には逃げられたが、マシディリはドザモザの機能はほぼそのまま手中に収めることができたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ