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ウェラテヌス隆盛記  作者: 浅羽 信幸
第四十章
1629/1748

プラントゥム選道戦

 目的地。内陸港ドザモザ。


 都市に流れ込む川はフラシの西側とも繋がっている海へと流れつく。フラシ遠征中に南方諸部族と表した者達との交易を行える地点だ。

 第一次ハフモニ戦争後のグラム家が力を入れていた地点の一つでもある。鉱山を背にし、最も大量の銀を一日に運び出せる港なのだ。


 グランディ・ロッホに次いで大事な都市である。


 故に、ドザモザへ行きつく主要街道に軍団を進めるとスィーパスも応じるように軍団を動かしてきた。


 元より西側はスィーパスが逃げた場所。ビユーディやアルムが封鎖していた地点も残っていれば、待ち構えるのも容易なのだ。


 それが分かっているため、マシディリも途中で進路を南に変える。


 ある程度物資を回収し、木々の近くで風を避けながらの行軍だ。元から南に行くのが狙いとも見える動きにしてある。そして、南、海の傍を通って西に向かえば海上補給はもちろんのこと、最終的にはドザモザに至る川が流れている港を押さえることも想像させられるのだ。そこから海軍を使って川を遡上し、多量の物資で一気に圧し潰すことも可能である。


 だから、スィーパスも応じて軍団を動かす。

 北へ振った軍団を南へ。その上、先に西進していた利を活かしたいがために大軍を走らせながら。


 マシディリもスィーパスに希望を抱かせるように少し速度を落とした行軍を徹底した。無論、ただ遅らせるだけでは無い。ある程度の拠点構築を行うための行軍速度の低下である。グランディ・ロッホに集めた物資を分散し、西進した軍団に届けるための拠点にもするつもりだ。


「アスプレナス」

 将軍と付けなくて良い、と言われたのは、グランディ・ロッホ出立前。

「不快な気持ちにさせていたらすみません。何分、アレッシア人には馬乳酒は飲みなれていないモノでして」


 苦笑しながら、マシディリは木の皮をふやかした麦粥をアスプレナスの前に出した。マシディリの前にも同じ物があり、馬乳酒も置かれている。


「こちらこそ。木の皮や植物の根元を馬に優先的に回していただきありがとうございます。事実から生じる誹謗中傷もマシディリ様が事情説明に回ってくださっているとお聞きいたしました」


「貴重なモノをいただいていますから」


 馬乳酒を持ち上げ、乾杯する。

 ぐい、と飲み干した。マシディリは既に何度か飲んだ酒だ。木の皮や枯れ葉、濾した土で嵩増ししたパンより良い味である。


「諸部族騎兵の方が良かったと言う噂も聞いております」

 アスプレナスが言う。

 傷ついていない訳では無いだろうが、言いたいのは別のことだろう。


「何とでも批判できますし、何とでも言い繕えますよ。

 ただ、私はトーハ族の馬乳酒と集団戦法を選んだ。それだけです。

 現に、スィーパスは村を食らいつくしながらの行軍しかできていませんから」


 ソリエンスの策略である。


 大軍を維持するにはどうすれば良いのか。

 物資を全部用意できれば良いが、そんなことができる訳が無い。どんな軍団も、現地調達をしなければ生きていけないのだ。


 その現地調達に関しても今は冬。細い枝を切り刻んで汁に入れることもしてしまうほどの季節。


 大規模輸送ができる海上を失ったスィーパスは、ひたすらに近くの村々を食い尽くし、移動し続けるしか無いのである。当然、現地部族からの反感は強くなる。スィーパスは解放者などでは無い。敵だ。


 だからこそ、マシディリが討った後に統治もしやすくなる。


 それでも兵が集まるのは、スィーパスの下に居れば略奪の後ろ盾になるから。軍団の維持を名目に賊徒が自由気ままに振舞うのである。


 珍しい光景では無い。

 良くある話だ。

 そこに冬のわびしさが加わり、元来賊では無かった者も賊になっていくだけ。


 何よりも、それを抑えるための人員がスィーパスにはいない。正確には、インテケルンやオプティマを失った後に芽が出てくる余地はあったのだ。ただし、そこを埋めていったのがソリエンス。ソリエンスの周りに内政や調整ができる人が集まるのも自然な流れ。


 そして、その集団が丸まるマシディリの下に寝返った。

 いや、ソリエンスの言葉を使えば寝返りや裏切りでは無い。『表返り』。最初からマシディリの命令下にあり、マシディリ以外に従った訳では無いとのことである。


 であれば、スィーパスが軍団を纏める簡単な行動は武力に訴えること。

 現地部族を味方につけるには、自分に着けばどのような未来があるのかを喧伝すること。


 無論、スィーパスにそのような喧伝は無い。

 イエネーオスもやや苦手としているところだとは先のマルテレスとの戦いの中で理解している。


 方針がずれまくるのだ。


 何かを味方にするのなら諦めるべき存在や細心の注意が必要な存在を簡単に受け入れてしまう。今の軍団の中核もそう。賊徒を更生させるか取り締まらなければ財や立場のある者達はスィーパスを歓迎できない。ただ、武力惜しさに彼らに自由にさせ、忠誠欲しさに彼らの行動をスィーパスが正当化してしまっている。


 それで良いと吹き込み続けたのはソリエンスであり、ソリエンスがいない今でもその方針を取ってしまっているのがスィーパスの器量だと言えばそれまでであるのだが。


 忘れてはいけないのは、ソリエンスの器量があってこその作戦だったと言うこと。

 ソリエンスだから成し遂げられた策であり、ソリエンス自身も自分が弟であることすら強みとしたが故の作戦。スィーパスの行動を縛れているのは、ソリエンスの実力をスィーパスが認めていたから。


「斥候部隊として、情報と言う大事な場所を任せますね」

 アスプレナスに信頼を伝えて、食事会は終わりとなる。


 アスプレナスは交渉の苦手は露呈させていたが、軍事的な才が無い者では無い。これまでの配置から、自分達が未だ警戒されているのは理解しているはずだ。同時に、信用したがっているのも、マシディリが約束を守っているのも分かっているはずである。


(さて)

 トーハ族を特に疑っているのはスペンレセ。


 正確に言えば、何かあればと警戒を強めているだけであり、疑心がより強い者は他にもいる。シニストラを置いてきた理由に全く関係が無いかと言えば、違うとも言い切れないほどだ。


 でも、シニストラの本来の目的は全く違う。


 グランディ・ロッホの守備と構築した補給地点の守り。


 それを一任しつつ、本来であれば戦闘に参加させるつもりの薄かったテラノイズ降兵の扱いも任せるからこその人選である。



「では、作戦通りに動きます」

 その夜。

 ヴィルフェット、フィロラード、リベラリスが陣を離れる。


 向かう先はグランディ・ロッホ。そこでお留守番のような形になっていたビユーディ、アルムと合流し、船でペグーラへと向かうのだ。同時に、アグニッシモにも先行してもらう。


 港湾都市ペグーラ。

 それは、二つの街道が交わる場所。


 マシディリ達が行軍している南側の道と、山を挟んで並走しているスィーパスが通る北側の道。その交差点。

 同時に、先にスィーパスにペグーラを抑えられてしまえば、マシディリ達はドザモザに向かうことも西側にある港街に向かうこともできなくなる要地だ。


 当然、スィーパスも理解している。

 だから互いに良く斥候を放ちあって、マシディリはゆっくりと行軍した。兵の体力消耗を抑える狙いもある。


 そうしているうちに、ヴィルフェットからペグーラ確保の報がマシディリに届いた。スィーパスにも直に届くだろう。その前に、マシディリはトゥレ・デレ・モセスに入城した。


 ペグーラまで二十数キロ。北側を山に蓋される形の街。スィーパスがペグーラに向かえば、挟み撃ちに出来る絶好の位置だ。


 囮の効果としては、スィーパスから見た場合に各個撃破を狙える状況でもあること。どちらかを抑え、戦うことも選択するかもしれない状況であること。


(来てくれれば良いのですが)


 少数側が兵を分ける。

 普通に考えれば愚行だ。


 どうするかなと思いながら、マシディリは手紙を開き立体地図の前に座る。軍団もしばしの休憩。陣は土を少し掘る形で深くしており、周囲の上部には風よけのために気や枝を重ねている。振舞う酒も、少し多めだ。


「ご報告いたします!」

 そして、斥候が帰ってくる。

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