第46話
マナ重機を走らせ、2度、夜が明けて彼女の刑が執行される日になっていた。
遠くに王都を囲む城壁が見えてきた。この距離では時間に間に合うかわからない。リクトはレバーを押し出して、マナ重機のスピードを上げる。揺れは激しくなり、レバーから手を離したら、もう2度とつかむことができなくなりそうだった。
太陽が前上にきた頃、ようやく王都を守る巨大な門に接近することが出来た。
いつもは開いている門が、今にかぎって閉まっている。おそらく、公開処刑が行われるからだろう。門を塞ぐように赤いマナ重機が2機並んでいる。向こうがこちらに気がついてマナライフルを構え始める。それは、あまりに遅すぎた。
リクトはすでにマナライフルの照準を合わせていた。引き金を引くと弾丸が発射され、1機の操縦席を貫通させた。
残ったもう1機もすぐに照準を合わせて操縦席を撃ちぬいた。
マナ重機よりも行く手を阻む木製の門の方が問題だった。マナ重機が余裕でくぐれるほどの巨大な門は強固であり簡単には突破できない。時間をかければ、他のマナ重機がこちらに来るかもしれない。
リクトはマナ重機を走らせながら門に向けてマナライフルを連射する。1発で無理なら連続で当ててやればいい。照準は適当だが的が大きい。とにかく、銃撃で門を壊す方を優先する。
門居接近してぶつかるくらいの距離になったら、マナライフルを撃つのをやめて地面を蹴った。
勢いをつけたマナ重機の全重量を門にぶつけるためにもう片方の足を前に出して蹴破ろうとした。傷ついていた門は一部が砕けて門が開いた。
その隙間にマナ重機を滑らせて城壁内に突入する。マナ重機を着地させて地面にしかれていた石の道を豪快に吹き飛ばしてスピードを殺す。
マナ重機の操縦席から見た王都の姿はまったく変わっていない。最初、罪人として連れられてきた時と同じだ。ただ、警戒のためか、赤いマナ重機が数機配備されていた。
突撃してきたこちらに対応できていない今、一気に道を駆け抜ける。正門から続く道は王城へ繋がっている。その途中には広いスペースがあり、そこに人々が集まっている。その中心に、磔にされている人物を見つけた。
人を蹴散らし突進していく。
そのまま、処刑場まで駆けていくと、磔に使っている道具ごと左腕で持ち上げる。こちらに気付いたマナ重機が寄ってくるのを確認して、自身が隠れられる場所を探す。
そして、その場所に向けて、ジャンプした。途中の家は踏み潰し、目的地を目指して、一直線に飛び跳ねていった。
城の影になる背の高い建物の近くで青いマナ重機を止めた。マナ重機は座らせれば人間より少し背丈が高いくらいだったため、建物の隙間に姿を隠すのは容易だった。
辺りに人がいないことを確認してから磔にする木製の器具を地面に置いた。それから、操縦席を出たリクトは女性を開放する。
「ふう、助かった。えーと……貴様は、ラクトだったか?」
「いえ、リクトです」
女性は首と手首を振って身体の具合を確かめる。伸び放題になっていた髪は短く切られており、そこを何度も触っていた。問題はなかったのか数回うなずいた。
「そうだ、私が作り上げた人造マナ人間だったな。ひとりのようだが、あのマナ人間はどうした? もう死んだか?」
「いえ、別の場所で待ってもらっています」
女性は処刑されようとしていたことなど忘れたようにのんびりしている。先ほどまでのことなどまるでなかったかの様にふるまっている。
「まだ、マナ人間の研究をしてるのか? あなたは恩人だ。そういう事をして危険な目に遭わないで欲しい」
「マナ人間じゃない。マナの研究だ。あんなものに興味はない」
「何が違うんだ?」
「別物だ。……貴様はマナというものが何なのか知っているか?」
リクトは首を横に振る。人間には無くてマナ人間にある。その程度の理解しかない。マーズスもマナそのものを研究していたわけではなさそうだった。
「マナというものは、マナの木が生み出すエネルギーだ。もともと、この世界には存在しなかったものだ」
「そうなのか。昔からあるものだと思ってたよ」
リクトは女性が何を言いたいのかわからずに眉をひそめた。どうしてこんな話をしているのかわからない。彼女の中にあるこだわりに触れてしまったせいだろうか。
「古い文献で読んだことがある。マナの木の種、あれは天から降ってきたものだ。あれが世界にマナを与えたのだ」
「それがどうしたというんだ」
「もし、マナの種が落ちこなかったら、人間だけの真っ当な歴史が刻まれていたのだろう。まあ、もしもの話をしても仕方がない」
人間だけの歴史。そこにマナ人間の存在はなくマナ重機もない。人間同士が争う戦争があるのだろう。それこそ、もしもの話だった。
「私はな、無からマナを作り出せないかを研究している。もしそれができるなら今の世界は一変するだろう。誰でもマナエンジンが扱えるようになるのだ。研究が進めばさらに便利なものができるかもしれん。それは、文明の革命となる」
このように研究に没頭する姿をリクトは見た覚えがあった。それは、とても正視できるものではなかった。
「研究するもの、ほどほどにな。没頭しすぎて好きなものを嫌いになって狂った人間もいる」
「それは無理な話だ。マナの研究こそ命題であり、私の存在意義だ。狂おうが何になろうが、止めるつもりはない」
「じゃあ、せめて人目につかない場所でやってくれ」
「そうだな。そこは反省すべき点だ。どうもそういうことには疎くてな。次は気を付けよう」
まったく懲りていなかった。そこで、マーズスのことを思い出した。何をしでかしてもまったく省みない老人だったが、最後にその心のうちを話してくれたことを。
「なあ、マーズスとかいう禿げ上がった頭の老人が処刑されたか、知っているか?」
「私がそんなことを知っているとでも?」
「……」
「私が捕まった時に耳にしたことなんだが、『マナ人間の研究者を火刑に処すのは2人目だ』とか、なんとか」
リクトは女性に背を向けた。一方的に話を切りあげてマナ重機の操縦席に乗りこもうとする。そこに声をかけられる。
「もう帰るのか。マナ人間のところに行くのか?」
「いや、まだこの王都にはやるべきことが残っている」
「……そうか。無茶はするな」
女性は何を察したのかそう言ってきた。その後に言葉はなかったので、操縦席に入って座席に座った。それから、レバーに手をかける。
マナ重機を立ち上がらせると動かしはじめた。




