第47話
青いマナ重機を動かして建物の影から移動させる。
リクトは操縦席から上を見上げた。高台にある城の壁が見える。その全容を見ることはできない。ここから移動しなくては、目的を果たせない。リクトはレバーを押し倒した。
背の高い建物の隙間を沿って移動する。侵入者を処刑するためのマナ重機が、辺りをうろうろしている。その数は多く全てを把握するとはできない。王国も必死であることがうかがえた。公開処刑を妨害されたとあれば、教会からの糾弾を免れることはできないだろう。
マナ重機にマナライフルを構えさせる。こそこそと敵機を避けたとしても、これからやるべきことを考えれば数を減らしておいた方がいい。すぐ近くを通る赤いマナ重機に照準を合わせる。引き金を引いて、一発でコックピットを撃ちぬく。
銃声が王都に響き、青いマナ重機の存在を知らせた。身を隠すのをやめて、建物の隙間から飛び出した。
「いたぞ! 青いマナ重機だ!」
こちらを見つけた王国の兵士が叫ぶ。
兵士たちもリクトを探していたようで、呼び声に反応してこちらに寄ってくる。兵士のひとりが槍の切っ先をこちらに向けてくる。槍など紅鉄で覆われたマナ重機にはたいした脅威ではない。
それよりも、マナ重機にはりついてくる方がもっと脅威だ。数で押さえられ、操縦席の扉を開けられたらこちらがやられてしまう。
リクトはマナライフルの照準を兵士に合わせる。引き金を引いて射撃を行う。黒鉄を撃ちぬくほどの威力がある弾丸で、兵士は粉みじんになった。
寄ってくる兵士にマナライフルを向けると、兵士は勝手に動くのをやめる。相手はこのマナ重機に乗っているのが、従順なマナ人間であると思いこんでいる。
だから、いつでも射殺せるのだと、知らしめてやった。
こちらに近づいてくるマナ重機がある。
幸い1機だったので、建物に身を潜めながら応戦する。しゃがんで建物に背を向けた状態で、マナライフルだけを敵機に向ける。量産されているマナ重機ではできない挙動。それを駆使して戦いを有利に進めていく。
1機、また1機と相手をしていると、他のマナ重機が距離を詰めて包囲してくる。囲まれないように対処していても、味方のいない状態では限界があった。
完全に包囲される前に、王城に向けて一点突破をかける。最も層が厚い箇所ではあるが、ここのマナ重機さえ突破してしまえば、王城へと辿り着ける。
背を低くして建物を壁にしやすいように立ちまわる。できるだけ、敵マナ重機の操縦席を貫くように、マナライフルで射撃を行う。撃ちもらしは無視して進む。
前後左右から弾丸が襲い、全てをさばいていられない。ある程度の被弾を覚悟して王城へと続く道を駆けていく。
最後に立ち塞がった敵機の操縦席を貫くと、後は一直線に進むだけだった。
王城の城門、そこを2機のマナ重機が守っていた。目標を達成するには、1機のみの撃破でいい。
遮蔽物のない道をステップを踏みながら照準をつけられないように進む。1機の盾の隙間から、操縦席を狙えるチャンスがやって来る。マナライフルを射撃する。弾丸は思い通り操縦席を貫いて行動不能に追い込むことが出来た。
残るは前方にいる1機と、後方から追いかけてくる多数の敵機。
リクトはマナ重機をジャンプさせて、前方のマナ重機を踏みつけた。それを踏み台にして、大きくジャンプする。
高く飛び上がったマナ重機の左手を伸ばして、城の屋根につかまった。左腕を使って屋根の上に登ろうとする。だが、その状態は無防備に背中をさらしており、敵機からの射撃に対抗できない。
リクトを追ってきた赤いマナ重機たちは、青いマナ重機に照準を合わせて、射撃を行ってくる。回避方法がないため、被弾しながら屋根に登る。その最中、突如、照準機が乱れて使い物にならなくなった。頭部である照準が壊れたのだろう。リクトは急いでマナ重機を屋根に登らせた。
屋根に上って高所に立つことができた。敵機を射撃することができる位置だが、操縦席を射抜くことは角度的に難しい。照準が失われており、正確な射撃ができない。適当に弾丸をばらまきながら、目的地を目指す。
リクトはマナ重機を王城の屋根を走らせる。その最中にも敵機からの弾丸が飛来する。稀にすぐ横を通過するものもあった。リクトは、無暗に走らせているのではなく、目標のいる場所を目指していた。王城の中に、反応がある。見えてはいないが、感じることができる。奴はここにいるのだと。
目標のすぐそばまでやってきた。それは王城の壁を挟んだ向こう側にあった。壁にマナライフルの銃口をつけて、ゼロ距離で射撃する。強固な壁は粉砕されて、その内部を見ることができるようになった。
壁の穴の奥には、腰を抜かしている人間がいた。
それは、金の刺繍の入った青いローブを身につけた男性。ウェーブのかかった長い白い髪のカツラが床に転げ落ちており、短いアッシュブロンドの頭髪が見えていた。
求めていたその人物をマナ重機の左手で押さえつけて、身動きできないようにする。
「ひぃぃぃッ! 頼む! 助けてくれ! 命だけは助けてくれ!」
みっともなく命乞いをする人物は、マーリナス王国の王、クリオリス・デオ・マーリナスその人である。
涙と鼻水を流し、顔を歪め、たその人物からは、王としての威厳を全く感じない。こんな男に自分の人生が狂わされたかと思うと、腸が煮える思いがする。
「逃がさん! 貴様だけは!」
リクトは操縦席から外に出て、直接、男を見下ろした。
「た、助けて! 殺さないでくれ!」
「いい様だな! そうやって命乞いをする姿は、貴様にお似合いだ」
リクトの姿を見た男は仮面をじっと見つめてくる。自分を知っている相手に、何か思う所があるのかもしれない。
リクトは顔に手を当てると、被っている仮面を取り外した。
「この顔! 忘れたとは言わせんぞ!」
怒りに顔が歪んだ。皮を剥がされ、削ぎ落された顔は全く動いてはいなかった。ひとつだけ残った眼球が、怒りによってぎろりと男を睨みつける。
「ははっ、ははは……はーっはははは!」
「何がおかしい!」
男の様子が一変した。今までの無様な様子が、急に愉快な声をあげるように、喜んでいた。
「くくく……どうだ? この世に正義などありはしなかっただろう? 余のような悪党が今まで野放しにされ続けていたんだぞ?」
「な、何がいいたい」
男の顔が愉悦に歪んだ。
この男は悪人であり、罰を受けるべき人間だった。しかし、誰も彼を裁かなかった。こうして、リクトが押さえつけるまでは。
「わからないのか? 希望に満ちた目をした奴が、今は余に復讐という悪意に満ちた目を向けているのだ。悪意を殺すのが悪意とは、可笑しいとは思わんか? この世にはただ悪意があるのみ! 悪意が悪意を塗りつぶしていくのだよ!」
男の高笑いは止まらない。それが、リクトの癇に障る。追いつめているのは、リクトだったのだが、いつのまにか立場が入れ替わっている。男は自分の方が上だといわんばかりに言葉を発している。
「うるさい! 貴様は殺す! 絶対に殺す! 悪意だろうが、何だろうが、貴様を殺す! 他人の仇なんて言わない。ただ、自分が! 貴様を! 殺したがっているんだよ!」
「はははは! そうするがいい。それで気持ちは晴れるだろうさ! だが、その悪意は消えることはない! 他の誰かの悪意となるだけだ! はははは!」
リクトはすでに無くなった奥歯を噛み締めた。
「言われなくてもな!」
操縦席に座り、レバーに手を握りこむ。マナ重機の左手を強く握ってやった。男の悲鳴が聞こえてくる。さらに、力を入れる。かえるが潰れたような声をあげて、悲鳴は聞こえなくなった。
「この程度ではこの怒りはおさまらない! 粉微塵だ。その肉体、一片残らず吹き飛ばしてやる!」
リクトは自らが乗るマナ重機のマナライフルを動かして、マナエンジンがある箇所に狙いを定める。引き金を引くと、自機のマナエンジンが火を噴きはじめる。
何度も引き金を引いて、マナライフルを発射させる。
マナエンジンは暴走して、耐えられなくなった。そして、大爆発が起こる。激しい閃光は城の屋根をほとんど吹き飛ばし、壁も窓も何もかもを巻き込んで破壊していった。
爆発が終わると、マナ重機だった鉄塊が、半壊した城に潰れて残っているだけだった。




