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第45.5話

 ゆっくりと目を開く。

 徐々に眠りから覚めていく。部屋の中は暗い。ドアは閉じられ、窓は木片で塞がれていた。

 木製の壁の隙間から差し込む明かりが、太陽が昇っていることを知らせてくれる。


 ファストは周囲に視線を向けた。

 誰もいない。

 いつもなら、仮面を付けた人物が椅子に座ってこちらを見ているはずであった。

 ファストは上半身を起こした。違和感が拭えない首を動かして周囲を確認するが、やはり、誰もいない。床に倒れていることを危惧していたが、それは無用なことだった。


 しんと静まり返った室内。

 目を覚ませばいつも隣に彼がいて、話しかけてくれていた。こんなに静かだったのは初めてのことだった。


 ファストは彼が買い物に行っているために、ここにいないのだと判断した。ずっと小屋に引きこもっていられるはずがない。だから、彼は買い物に出かけている。



 しばらくしても、彼は姿を見せない。

 木製の壁から差し込む光は弱くなり、日が傾いてきたことを教えてくれる。急に不安になる。彼の身に何かが起こっているのではないだろうか。もし、そうなら、助けに行かなくてはいけない。


 ファストは身体を動かして、ベッドに座る姿勢になった。

 つい先日、立てるようになったばかりだが、小屋を出るには歩かなくてはならない。

 力を込めて立ち上がっる。糸で縫合されただけの足ががくがくと揺れる。痛みはない。ただ、力が入らない。それでも、踏ん張ることで、倒れることに耐えることが出来た。


 震える足を一歩、踏み出す。バランスが崩れて、倒れそうになる。咄嗟に、横にあるテーブルにもたれかかった。そこに、革袋と紙が置かれていることに気付いた。


 彼の私物なのかと思いながら、ファストは手を伸ばした。何か情報を得られるかもしれない。


 革袋の中を確認すると、細かく砕かれた木の実の殻。すぐに、マナの木の実の殻だと気づいた。

 彼がどこからか入手してきたものだ。ファストはそれを定期的に摂取していた。その量は多く、しばらくは食べ続けられそうだった。


 革袋の下にあった紙を手に取ってみる。

 それには、記号のようなものが羅列してあった。よく見れば、ガタガタではあるものの、文字であることがわかった。

 こんなところにあるということは、彼が書いたものに違いない。あの、ボルトで固定されたボロボロの指で懸命に書いたものだと想像できた。


 ファストはその内容を読み上げた。



 ファストへ


 この手紙を読んでいるということは、心配ごとがひとつ減った。君が気付かないのではないかと、不安だった。


 こうして文字を残したのは、君に感謝を伝えたかった。

 君と出会ったのはごく最近だった。最初はマナ人間だと侮っていた。人間より下だと決めつけていた。だけど、マナ重機の操縦を教えてもらったこと、身の回りの世話をしてくれたこと、それらが実は人間と大差がないということに気付かせてくれた。


 戦場でも君はずっと助けてくれた。

 どんな時でも見捨てずに一緒にいてくれた。ともに戦うということが自分に勇気を与えてくれていた。それだけに、君が酷い目に遭わせてしまったことが悔やまれた。


 試験部隊の隊長として無茶をした結果、君は傷つき、汚れてしまった。

 あの時、君を守れなかったことは後悔などという言葉では片づけられない。そんなことがあったのに、君は牢獄から救ってくれた。嬉しかった。


 君がひどい目に遭ったのは全て自分のせいだ。

 奴の狙いは自分だった。君はそれに巻き込まれただけだ。

 身体を刻まれて死んでいた君を自分勝手に蘇生させてしまった。そんなことをしたから、今、君は苦しんでいる。それを申し訳ないと思っている。


 これから、王都へ戻ろうと思っている。

 君を残していくのは心苦しかったが、自分勝手で苦しい目にあわせたくない。もう、これ以上、酷い目にあわせられない。勝手に蘇生させて勝手に置き去りにすることは悪いことだと解っている。


 それでも王都へ行くのは、命の恩人が処刑されることを知ったからだ。

 自分を救ってくれた人を見殺しにするような恩知らずなことはできない。彼女を助けに行くことを許してほしい。


 他にもやるべきことが別にある。

 これは、自分の手でやらなくてはならないことだ。誰かに任せられることじゃない。自分の手で決着をつけなければならない。


 全てが終わったら、またここに帰ってくる。

 帰るまで時間がかかるかもしれないが、きっと帰ってくる。探しにどこかへ行ってしまうのではないかと、心配している。


 ここで帰ってくるのを待ってして欲しい。帰る場所でいて欲しい。


リクトより



 ファストは手紙を抱きしめていた。声にはならない泣き声をあげていた。


「リクト……」


 背中を曲げて、さらに強く抱きしめる。


「リクトォォォォォーー!」


 胸からこみ上げる激情を抑え込むことが出来ない。心が欲するがままに、気持ちを表に出して、泣いていた。

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