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第45話

 空が白み始めるころ、リクトはそっと音を立てずに小屋を出た。リクトはひとりだけでサイツクシへ向かう。


 サイツクシの中で最も大きな建物である酒場にやってきた。

 酒場はまだ閉店していないようで明かりがもれており、奥から喧騒が聞こえてくる。リクトはその中へと入っていく。

 中では酔い過ぎて自分を見失っている鉱夫と、それを宥める女性店員がいた。


「もう、止めたほうがいいですよ。お金もないんですから」

「うるせぇッ! おれは、まら、のめるって……ヒック」


 ふらふらと近づいてきた鉱夫がリクトにぶつかってきた。鉱夫はいちゃもんをつけようとしたのか、リクトを睨んできた。


 しかし、すぐに「ヒッ!」と悲鳴をあげると、顔を青ざめさせていた。同時に、女性店員も同じ反応を見せる。ざわついていた店内が静かになり、緊張が走った。


 リクトの素顔は、もうサイツクシ中に伝わっているらしかった。まわりの反応を無視しながら、目的の場所へ一直線に向かう。


 情報掲示板。以前、働く場所を探していた時に見ていたものだった。いくつもの貼られた紙を眺めながら、目的のものを見つけた。


『国家反逆罪 マナ工学研究者を名乗る女性 公開処刑を王都にて実施 予定日――』


 自らの目で確認を終えて、出口へと向かう。あいかわらず店内は静かで、視線はリクトに集まっていた。外へ出てもしばらくは静かだったが、距離が離れると、また、喧騒が戻っていった。


 その後、買い物を済ませて、ファストのいる小屋へと戻ってきた。

 寝ているファストを起こさないように、買ってきたものをテーブルの上に置いた。椅子に座って買ってきたものを確認する。道具を広げて作業を開始する。


「ん……」


 小さな呻きが聞こえた。視線を向けると、ファストが薄く目を開けた。まだ、目覚めが浅いのか、ぼんやりとして身体をもぞもぞとさせていた。


「おはよう。よく眠れたか?」

「うんん……」


 ここにやって来てからというもの、ファストは寝起きが悪くなった。まだ、マナが足りていない証拠だった。それでも、起きていられる時間は長くなっていた。


「気分は大丈夫か? 今、起こしてやる」

「んー、大丈夫」


 ファストを抱き起す。

 その身体は異様なほど軽く、本当に生きているか疑問をいだくくらいだった。

 彼女が起きても何でもない会話くらいしかできることはない。彼女はひとりで立つことすらできない。足などの各部を切り離されてしまった彼女は殆ど動けない。それでも、少しずつ慣らしていく必要があった。


「ファスト、今日は立ち上がってみるか?」

「立てるかな……」

「そろそろ治るころじゃないかな。練習してみようか」


 彼女は身体を動かしてベッドから立ち上がろうとしている。そんな彼女をフォローするように身体を支える。足をつけて踏ん張っているようで細かく震えている。だが、何とか立ち上がれたので、支える手を離してやる。


「よし、立てるようになったじゃないか」

「まだ、変な感じがする」


 リクトは切断した足を繋げた経験がないのでファストの言うことが適切かどうかはわからなかった。それでも、彼女が立ち上がったことはリクトにとっても嬉しい事だった。

 無理をしないようにと、ファストをベッドに横たえた。


「歩けるようになったら、リクトの言うサイツクシ町に行ってみたい」

「行くときはひとりで行くんだぞ」

「一緒がいい」

「それは、やめておいた方がいい」


 他愛もない話を続けた。いずれ、彼女は疲労のために横になった。ベッドの上でリクトを見上げてきた。


「また眠たくなったのか。ゆっくりと休むといい」

「うん。そうする」


 彼女は再び目をつぶった。


 ファストが眠ったのを確認してからリクトは準備を始める。

 今日買ってきた物品を広げて作業を始めた。それが終わるころには、辺りは暗くなっていた。最後に片づけを終え、革袋と紙をテーブルの上に置いた。それからリクトは小屋を出て行った。


 リクトはここまでやってきたマナ重機の元へ向かう。

 山の麓、岩肌が露出し、いくつもの岩が連なる場所。その隙間に青いマナ重機はあった。

 複数の岩によって囲まれてはいるが、野ざらしとなんら変わらない。操縦席に乗りこみ、各部が動くかどうかを確認する。


 まず、リクト一人で動かせるかどうかを試してみる。それは問題なかった。指、腕、上半身、照準、腰、足。順番にゆっくりと動かしていく。

 ここまで歩かせてきたせいか、足に若干の違和感があったが、支障はないと判断した。いざとなったら、捨てればいい。そう考えていた。


 リクトはマナ重機を立たせた。マナライフルを肩に引っ掛けて岩をよじ登る。地面に下りて、歩かせる。少しの揺れを伴ってマナ重機は歩いて行く。


 行き先はすでに決まっている。そこに向けて、出発した。

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