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第37話

 ファストの手を放す。右手を左手で押さえつけて震えを止めようとする。それでも、右手の震えは治まらない。奥歯を噛んで目をつぶって背をまげる。こうして耐えないと自分がどうにかなってしまいそうだった。


「結局、操縦席を狙えなかった……。今まで何にもマナ人間を殺してきたのにさ。直接手を下して、楽にしてやることが、できなかった」


 マナ重機の操縦席はリクトの嗚咽だけになっていた。


「サッドは、私たちの中で、一番遅く生まれたの。人生の大半が4人で一緒にいる時間だった。だから、耐えきれなったんだと思う。もう、4人揃うことができないことに。昔にはもう戻れないことに……」


 ファストはそう言った。

 彼女は再び通信機の電源を入れた。もう、サッドの声は聞こえない。誰の声も聞こえない。


「リクト、いつまでここにいるの? これからじゃないの。やるべきことは」


 その声にリクトは背筋を伸ばし、ファストの手に自分の手を添えた。


 正面からは、動きを止めた2号機、大破した3号機が見えた。直接顔を合わせる機会はなかったが、彼女たちはどんな表情をしていたのだろうか。最後にもう一度、顔を見ておきたかった。


 もう、2度と動かないそれを残したまま、ハジクシミへ向かってマナ重機を走らせる。


 随分と、時間が経ってしまった。足止めが目的ならば、これ以上ない成果であっただろう。まだ燃えている村へと向かうと、またマナ重機が見えてきた。今度は赤いマナ重機が3機。


「もう、これ以上、時間はかけられない」


 このまま突っ切っていくつもりだった。勢いをつけて先ほどの行き場のない怒りをぶつけた。

 先制して、マナライフルを撃ち、相手をけん制する。1対3。圧倒的に不利だが、ここを避けては通れない。

 近づくにつれて相手もマナライフルを撃ってくる。相手の照準は甘い。盾を前に構えれば、ほとんど防ぐことができる。

 相手は3機、どうしても意識が3方向にぶれてしまう。そのせいでこちらの射撃の精度も悪くなる。相手の盾に防がれて、なかなか決定打を与えることができない。


 距離を詰めて1機を確実に倒すようにする。まず、一番近いマナ重機を狙って射撃を繰り返す。

 相手が同じ量産機ならば、動きがパターン化されているのも同じである。操縦席に狙いを定めて1発弾丸を放った。その弾丸が突き進む先には、相手の操縦席。そのまま、真っ直ぐに、操縦席を貫いた。

 貫かれたマナ重機は動きを止めて、前のめりに倒れた。二度と起き上がることはできないだろう。


 すぐに、次の機体に狙いをつける。慎重に狙いをつけつつも、止まって的にならないように意識する。まだ距離はあったが、マナライフルを相手の操縦席に向けた。そして、引き金を引いた。かちと、音が鳴った。手ごたえがない。何度引き金を引いても、マナライフルから弾丸が射出されることはない。


「どうしたの?」

「故障か? 弾が出ない」


 動きが止まり、格好の的になるのを危惧して、盾を前に構えて距離を取ろうとした。だが、リクトは操縦桿を動かしてマナ重機を前方に走らせた。


「何をして……?」


 リクトは答えることはせずに突進を続ける。盾を前方に押し出し、機体を少し傾け弾を受ける面積を減らす。相手の射撃は盾で受け止め、かなり距離を詰めた。そこで、相手のマナ重機にマナライフルを投げつけた。


「しばらく、口を開けるな」


 勢いをつけたマナライフルは相手の虚を突いて少しの時間動きを止めた。

 さらに突進を続けて相手に接近すると、左手で持っている盾を使って体当たりを決行する。操縦席が派手に揺れたが、それを耐えきって相手を押し倒すことに成功した。


 リクトはマナ重機の右手を振り上げると、そのまま相手の操縦席に向けて振り下ろした。拳は操縦席を守る装甲を貫いて、乗っていたマナ人間を叩き潰した。相手のマナ重機と腕の間から、赤い血が流れ出した。リクトは気にするでもなく、拳を引き抜いた。


 もう1機を警戒してすぐに盾をかまえる。

 操縦席を潰されたマナ重機のすぐそばに、相手が使っていたマナライフルを見つけた。だが、量産機の行動パターンに、マナライフルを拾うというものは、存在しなかった。


 同じ戦法を取ろうと考えるが、相手も警戒しているようで接近するのが難しい。盾で相手の弾を受けるが目に見えて狙いが足に集中している。

 接近さえ阻めばいいと思ったのだろう。それは、存外有効な手段でリクトは釘づけにされて、身動きがとれない。


 相手の射撃全てを盾で防げるわけではない。じわじわと装甲を削られていく。唯一の装備であった盾も耐えきれなくなり、穴が開いてその効果が失われつつあった。

 ついに盾を貫いた弾丸がマナエンジンに到達する。マナエンジンは発火を始め、操縦席に火が入り込んでくる。もう、放棄するしかなかった。


 足で操縦席の扉を蹴破ると、ファストを抱えたままで、外へ飛び出した。


「逃げるぞ、ファスト!」


 抱えたまま、マナ重機から距離を取る。マナ重機は炎に包まれると、暴走したマナエンジンによって爆発する。その爆風がリクトたちを軽く弾き飛ばす。

 リクトはファストを抱えたまま、地面を何回か転がって、ようやく止まることができた。身体のあちこちを地面に擦りつけたが、厚手の服に着替えていたので、軽傷ですんだ。


「いくぞ!」


 彼女を抱きかかえたまま、駆け出そうとする。だが、彼女に抵抗されて、手を離してしまう。


「リクトだけで行って」

「ここに放っておけるわけがない。連れて行く」

「駄目! ハルカさんはどうなるの?」


 ハルカという名前に身体が動けなくなる。彼女だけなら助けられるのではないか、と思ってしまった。ファストを抱こうと伸ばした腕は、途中で止まり、引き戻った。


「ありがとう、ファスト」


 ファストに背を向けると、今も燃える村へと向かって駆け出した。後ろを一度でも振り返ると、二度と前に進めなくなる。だから、前方だけを見て足を動かす。


 1機だけ残ったマナ重機は人間に反応することなく、棒立ちのままだった。その脇を通り先を急ぐ。

 身体が重く、全身が痛い。今はそれを気にしている余裕はない。動かない足を必死に動かすが、もつれて転がってしまう。すぐに起き上がり、また、走り出す。


 村に近づいてくると、人間が4人集まっている。それのいずれもが、王国兵の装備一式を身につけている。赤いマナ重機を見つけた時点である程度は予測できたことだ。

 リクトは行き掛けの駄賃と言わんばかりに、彼らの中に込んでいく。急襲された兵士たちは驚き戸惑っており、隙だらけだった。適当に近くにいた兵士を2人ほどぶん殴ってから、村へ向かって走った。


 村は燃え上がり、動いているのは、逃げた家畜だけだった。近くに倒れていた人間に近づく。彼はハジクシミに帰ってきた時に話をした小太りした男性だった。

 胸に槍を突き刺した痕があり、辺りは血だまりになっていた。彼はもう助からないと、その場から立ち去った。

 リクトは大声を出して、生き残りを探す。誰かが返事をすることを期待していたが返事はない。ヘリマアウントで燃える森を体験したが、近くで家が燃え上がっておりこちらの方が熱くて息苦しい。

 長の二階建ての家屋。その近くにジョウが倒れていた。近づいて抱きかかえるが、すでに呼吸をしていなかった。虚空を見続ける瞳を瞼で蓋をしてやる。

 彼をその場に置き、リクトはさらに村の奥へと進む。


 目についた家の中も探して走ったが、ハルカの姿はまだ見ていない。

 焦る気持ちを抑えながら、村の中を彷徨う。彼女の家にも行ったが、見つけられなかった。ひとつの可能性を抱いて、足を動かした。


 自宅の前までやってきた。この辺りはまだ燃えていない。隣の建物と距離があるために、燃え移ることがなかったのだろう。慌てて扉を開けて中に入る。

 すぐ正面に、女性の遺体があった。首から上がなく全身に血が流れた跡があった。裸であることから、女性だと判別できた。その情報だけでは、誰かとは識別できなかった。

 嫌な予感でリクトは動けなくなる。

 荒い呼吸がさらに激しくなり、心臓は早鐘を打つ。

 叫び続けて乾いてしまった喉を鳴らす。全身の毛穴が開いて、嫌な汗が滲み出てくる。震える手足を抑えることができない。

 視線を上に向けると、テーブルの上から、涙を流したハルカの首と目が合った。


「あああああああああぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァァァ――!!」


 吼えた。慟哭した。喉が壊れても気付かないほど、大声をあげ叫んだ。

 地面に膝をつき、両手の拳を叩きつけた。何度も何度も手が潰れても気持ちはおさまらない。ただただ、感情を発散させた。


 また、何も守れなかった。

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