第26話
燃える森の中、リクトは操縦席でじっと待っている。焦る気持ちを抑えて、ファストから応答を待っていた。撤退を決めたとはいえ、何の情報もなく森を進めはしない。
「リクト、囲まれてる。今は友軍と戦っているみたいだけど……。さっきのスカーレットハンドとの戦いで敵陣へ呼びこまれたみたい」
スカーレットハンドを撃破したものの、また、向こうの思惑にのってしまっていた。リクトは心の中で舌打ちをする。このままここに留まっていることはできない。敵機の動きを見極めつつ後退していきたい。
「……退路はここから、南西がいいと思う。敵機の反応はあるけど少ないし、一直線に本陣に向かえる。もう一つは西、多少迂回するけど、今は敵機がいないみたい」
そこでファストの声が止まる。隊長であるリクトに判断を委ねるということなのだろう。リクトはすぐに回答する。
「南西だ。今は友軍が戦っている最中だ。だが、みんな捨て身で戦っているから、状況はすぐに変化するだろう。一直線に行こう」
リクトの言葉に、通信機から肯定する答えが返ってくる。リクトはうなずくと、通信機に向けて話を始めた。
「……先頭はセンドに頼む。動きが遅い2号機に殿は向いていない」
「ああ、先頭は任せな。どんな相手も蹴散らしてやる」
「武器を持っていないサッドは2号機の後ろで自分の身を守れ。変な気は起こすなよ」
「うう……。なんだか、私ってお荷物になることが多いような……」
「ファスト、僕たちは2号機の援護に殿をつとめるぞ」
「サポートは任せてほしい」
役割を決めた試験部隊はすぐに南西へと向かう。
折れた樹木を踏み越えると、すぐに燃える木々の中に入っていく。
季節は冬に近いというのに、炎の熱で汗をかくほど暑い。火によって足元はよくみえるが、木々の影はマナ重機を隠すことはできる。どこから敵機の攻撃が来るのか、慎重になって先を進む。
木の影が揺らめくたびに、リクトはマナライフルの先端を向ける。そこにマナ重機がいないことがわかると、小さく息を吐く。緊張が続いて息苦しい。
他の木の影が揺らめく。今度こそ、黒いマナ重機が隠れていた。
3発ほどマナライフルを撃つと、敵がこちらへマナライフルをかまえる。そこに、2号機がポールハンマーを振りかざして、操縦席へ叩きこんだ。
ポールハンマーは曲がってはいるが、攻撃につかえないわけではないようだ。
敵機に気を配りながら、しばらく進むと、ファストが声を上げた。
「背後から敵が追ってきてる。動きから見て……友軍はいないと思う」
その声は苦しそうに聞こえた。
「前方からは?」
「今のところ、確認できない」
ならば、先に進むべきだと、リクトは判断した。
「センドとサッドはそのまま進んでくれ。背後は僕たちが守る」
今まで前を向いていた1号機を反転させる。2号機と3号機に背中を見せるようにして、後ろ歩きを始める。今までよりも移動するペースは落ちるが、2号機の移動と同程度だ。
後ろを警戒しながら、先に進む。今の進行スピードでは、敵機に追いつかれるのも時間の問題だ。それでも、今は一歩でも先に進む必要があった。
早々に敵機からの射撃がはじまる。まだ精度は高くないようで、弾丸が真横を通りすぎていく。リクトも反撃とばかりにマナライフルを発射するが、森に消えるだけで、手ごたえはない。
リクトは辛抱できずに、前に飛び出した。
「リクト!? 何を?」
「盾がない。こちらは弾を回避しないと、いい的になる。少し離れるだけだ。敵機を倒したらすぐ戻る」
1号機を隊列から離れさせる。そして、敵へ向かって走らせた。
「隊長! だめだよ! そっちに行ったら!」
「サッド、先に進むぞ!」
「だって……」
「隊長さんの思いを無駄にするわけにはいかないだろ」
センドとサッドの声がリクトの耳に届く。
木の影に隠れ、マナライフルを撃ち続ける。少しでもこちらへ注意を逸らすために射撃をやめない。次第にこちらに向かう弾の精度が上がってきている。相手は近い。
木の影を渡って敵との距離を縮める。敵機が見え次第、片っ端からマナライフルの弾を撃ち込んでいく。ステップで弾を回避して、次から次にターゲットを変えていく。
「まだ、敵機はこちらに向かってる。もう少し減らせば……」
突撃命令を受けた友軍は、きっともう生き残っていないのだろう。だから、1号機は敵機に囲まれている。
動きで敵を翻弄するしかできない。リクトは手を素早く動かして、操縦桿を操作していく。汗でレバーを握る手が滑りそうになる。それでも、正確に的確に1号機を操縦する。
もう、少し、そう思った時、ガキンという金属がへし折れる音が聞こえた。
次の瞬間、1号機は転倒し、激しく転がった。
「ど、どうしたの? リクト」
「足が……足がなくなってる」
操縦席から見える1号機の左足は膝から下がなかった。
マナライフルの弾が直撃したのか、激しい動きに1号機の足がついてこれなかったのか。どちらにしても、左足を失ったことに変わりはない。
1号機の手で身体を敵機の方に向ける。左手で操縦席を守りながら、右手でマナライフルを連射する。動けない1号機はただの的だった。
敵機からの弾丸が1号機の装甲に当たる。操縦席が上下左右に揺れる。それが何度も続くが、1号機はまだ動く。
リクトはマーズスの言葉を思い出す。操縦者とマナエンジンが弱点だと。逆にそれ以外なら、それなりに耐えてくれる。
機体の指がしびれるほど、マナライフルを撃ち続ける。1機でも多く敵機を足止めして、破壊して、他の2人を逃がす。それを心の支えにしてがむしゃらに撃ち続ける。
「悪いな、ファスト。付き合わせて」
「こうなるって、思ってた」
また、敵のマナライフルが装甲に当たる。と、右手に持っていたマナライフルが破壊され、攻撃をすることさえ封じられてしまう。
何もできなくなり、歯噛みしていると。操縦席に炎が立ちのぼりはじめた。
マナエンジンにマナライフルの弾丸が当たったのだと、咄嗟に理解できた。操縦席のベルトを外して、前に座るファストの隣へと飛び込む。そして、ファストののベルトも外した。
「これは、もう……」
「諦めるな。誰一人として欠けることは許さないと言ったはずだ」
操縦席の扉を足で蹴って強引に開く。そして、ファストを抱えようとした時、何かの凄まじい衝撃で2人は吹き飛ばされた。
マナエンジンの爆発。何度もマナライフルの弾を受けると、炎上、爆発する。それに、二人は巻き込まれたのだ。まるで、車輪に弾かれた小石のように、2つの影が宙に弾き飛ばされた。
爆発した1号機は黒く淀んだ空に黒煙を上げて、その役割を終えた。




