表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/50

第24話

 リクト達がヘリマアウントの戦場に来てから5日が経過した。

 相変わらずの乱戦に、気の休まる時がなかった。環境も劣悪で戦況はまるで好転していない。

 試験部隊は苦戦するものの、少しずつではあるが、戦線を押し上げていた。その理由は、初日以外に、スカーレットハンドと出会っていないためである。


 燃える森の空は曇天で、森の中が薄暗く見える。いつ雨が降り出してもおかしくない。

 前線を押し上げたこともあり、戦場も多少変化があった。幾度ものマナ重機の爆発により、木が折れ折り重なっている。その分、空に伸びる木は少なくなっている。

 試験部隊は折れた木を踏みつけながら先を進む。


「! 速いマナ重機の反応、スカーレットハンド!」


 ファストが叫んだ。

 周囲に敵影はなく、どこから攻撃されるかわからない。全機は背中を合わせるようにして、襲撃にそなえる。いくら見晴らしがよくなったとはいえ、森の中であることは変わりない。相手からの攻撃でその位置を特定する必要がある。

 そんな中、マナライフルの発射されるマズルフラッシュが見えた。


「あたしに任せな!」


 2号機が先行して動いて、弾丸を盾で受ける。

 相手の位置を把握したところで、各機が動き出す。


「例の作戦で行く」


 リクトがそう言うと、全員がうなずいた。

 1号機を先行して動かした。今の攻撃から相手の動きを予測して、スカーレッドハンドの正面に出るように移動させる。

 その進んだ先では、予測通り敵機がこちらに向かって走ってくる。

 スカーレットハンドに照準を合わせて射撃スイッチを押し込む。柔軟な動きを見せる敵機は、横に飛び退くことで弾丸を回避してくる。相手はその姿勢のまマナライフルを発射してこちらを攻撃してきた。慎重に、冷静に、素早く盾を前方に押し出すと、弾丸を弾くことができた。

 狙いを定めて敵機に向けて射撃を繰り返す。スカーレットハンドは左右にステップを踏みながら、弾丸を回避して距離を詰めてくる。そして、1号機を無視するかのように、脇を通りすぎていく。

 1号機を反転させて、焦る気持ちでマナライフルを連射するが、スカーレットハンドは背後に目がついているかの如く、すべて回避していく。敵機から距離を離されないように後を追う。

 スカーレットハンドの動きは前に戦った時におおよそ見当がついていた。1機でこちらを囲むようにして攻撃、足止めを行う。普通のマナ重機であれば、その時点で撃破されてしまうだろう。

 だが、試験部隊は違う。リクトという司令塔がある。


「そっちに行ったぞ、作戦通りに頼む」


 リクトは通信機に向かって言った。

 リクトはスカーレットハンドを追っていくが、その差は離されるばかりで、追いつけない。それでも、追うのを止めない。

 森の奥から発射された弾丸がスカーレットハンドに向けて飛んでく。敵機は身体を低くすることで、それを回避していく。


「あー! 外したぁ!」


 サッドのキンキンとする声が通信機越しに聞こえる。

 先程の弾丸は前もって進路を予測していた3号機が遠距離より狙撃したものだった。森の中であり照準が難しい場面でもあったが、それを回避されてしまったのは、敵機の技能が優れていたからだろう。

 予想していなかったであろう一撃で、スカーレットハンドは軌道を修正せざるを得なくなった。その先に黄色の動く影があった。


「おっと、ここは通せないね!」


 スカーレットハンドの進行方向に立ち塞がるように、2号機が現れる。前もって振り上げていたポールハンマーを敵機に向かって振り下ろす。

 回避できない一撃だったはずだが、スカーレットハンドがさらに前進することで、ハンマーを避けた。

 相手は2号機に背を向けると一回転しながら、すぐ隣を通りすぎようとする。しかし、2号機は咄嗟に敵に対して体当たりを敢行するが、それはスカーレットハンドに回避されてしまった。それでも、軌道を大きく逸らすことに成功する。

 スカーレッドハンドはそのまま森の中へ消えていった。


「まだだ! さらに追いつめる。ファスト、あいつの進路を予測できないか」

「目標は、東に向かってる。だけど、この進路、また戻ってくる」


 ファストの言葉にリクトはうなずく。


「サッド、2号機に集まるぞ。そこで迎え撃つ」


 1号機が2号機に合流する頃に、3号機もこちらに向かってくる。

 試験部隊が集まるそこは、ファストの予想でスカーレットハンドが通過する場所だ。その予想は的中し、敵機がこちらに向かってくる。

 敵機に向けて1号機と3号機で射撃で応戦するも、敵機は木を上手く利用して攻撃を防いできた。

 一度、攻撃に失敗していることもあり、リクトは弾が当たらないことに焦りを感じる。その焦りが冷静さを奪っていく。

 そんな中、突然、近くで爆発が起こる。その閃光があった先を見ると、3号機のマナライフルが破壊されていた。スカーレッドハンドが直接狙ったのだろう。


「ごめん、隊長」

「大丈夫だ。ここは任せてくれ」


 リクトは1号機をスカーレッドハンドへ向かわせる。相手の弾丸は避けながら、無理なら盾で受けて距離を詰める。少しずつ距離を詰めるが、防戦一方で攻撃に転じることができない。

 運動性の違い。1対1ではその差が大きく感じられる。当たるはずの攻撃が当たらない。相手の攻撃は的確であることが余計そう感じさせる。

 3号機のマナライフルは失われた。2号機では射撃の援護は受けられない。リクトは意を決して、左手に持った盾を手放した。


「それは、自殺行為じゃ――」

「喋ると舌を噛む!」


 リクトは操縦桿を押し倒し、1号機を激しく動かす。

 重いより軽い方が動きやすい。スカーレッドハンドも同様に盾を装備していない。その差を少しでも埋める意図があった。盾を手放したことが功を奏して、回避した後に少し余裕ができた。

 互いが互いに射撃を回避して、弾丸の応酬が続く。

 木を盾替わりにして、弾丸を受けては、反撃にマナライフルを撃つ。それは、相手も同様だった。


 同じ戦いが繰り返される中、リクトは考える。何かがまだ足りない。決定打となる一手が必要だ。だが、それはどうやって作り出すか。その方法が思いつかない。

 よけいな思考が距離を誤らせて、1号機を木ぶつけてしまう。揺れる操縦席の中で必死に操縦桿を握り締める。こちらが姿勢を崩していると、スカーレッドハンドはマナライフルの銃口がこちらに向けてきた。分の悪い賭けだとは思いつつ、こちらも銃口を向ける。

 そこに、鈍く低い打撃音が聞こえると、両者の間に木が倒れてくる。その木の根元へ視線を向けると、ポールハンマーを振りぬいた2号機が見えた。


「次はあんたの番だ!」


 木が倒れた場所も絶妙で、スカーレッドハンドを押しつぶそうとしている。敵機は飛び退いてそれを回避しようするので、リクトはそこへ狙いをつける。飛び退いたスカーレッドハンドが着地する瞬間、動きが止まるその時を。

 着地の少し前、まだ動けない相手の足に意識を集中して射撃のスイッチを押す。そうして放ったマナライフルの弾丸は装甲を掠めるだけだった。

 もう一度、足が地面を踏む直前、もう一度射撃すると弾丸はスカーレッドハンドの左足を撃ちぬいた。

 バランスを崩して、倒れ行くスカーレッドハンドへ距離を詰めると、マナエンジンに照準を定める。何度も弾丸を撃ち込むと、敵機は炎上、爆破して、その破片を周囲にまき散らした。

 スカーレッドハンドの沈黙を確認したリクトはマナライフルを下ろす。


「間一髪だったな、隊長さん」

「ああ、助かったよ」


 センドの少し威張ったような声がリクトの耳に届く。実際に2号機の援護がリクトを救った。


「あーあ、私はいいとこなしだったなぁ」


 手ぶらな3号機もこちらに向かって歩いてくる。

 スカーレッドハンドという強敵を倒したことで、試験部隊が賑やかになる。少し気は抜けたが、その勝利に喜び、言葉を交わした。

 その代償もあり、2号機のポールハンマーの軸が曲がっていた。これでマナ重機をつぶすことは不可能ではないが、以前よりも難しくなっているだろう。

 3号機もマナライフルを失っている。戦力と呼べるのは実質1号機のみである。


「さて、ここは1度退却して出直そう。これ以上の戦闘は無理だ」


 リクトはそう宣言した。

 センドもサッドも返事はしなかったが、受け入れたようだった。


「待って!」


 少し気が抜けたころに、ファストの鬼気迫る声が耳に届いた。


「今から本陣からの通信を繋げる」


 そのすぐ後に、通信機のスピーカーから男性の声が聞こえてきた。


『我々マーリナス王国軍はエルキャベータ帝国に対して敗北宣言を行った。ヘリマアウントの戦いで我々は敗北した』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ