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第22話

 飛んできた銃弾を2号機の大きな盾が弾いた。

 瞬間、マナライフルを構えて、すぐに攻撃をできるようにする。だが、すぐに撃つことはできない。


「……これは、誤射だと思う。わかりづらいけど、この反応は友軍」


 試験部隊は構えをといた。この戦場は索敵が難しいのだと、ファストは語っていた。

 マナが濃い。

 木が燃えているのは、ただ引火しただけではない。マナ重機が炎上、または爆破するたびに、木にマナが付着する。木が燃えているように見えて、実はマナが燃えているだけというものもある。戦場に生えている木々が燃え続けるのは、これのためである。


「本陣にあるような大掛かりな地図があればわかる。だけど、マナ重機程度のものだと判別が難しい」


 自分は悪くないとファストは言わんばかりだ。

 乱戦に敵味方の区別が難しく、最悪の戦場であった。あの地獄かと思えたデリエルズヒルでの戦いをここは軽く凌駕していた。

 空気は薄く、気温は高い。視界は最悪で障害物が多い。乱戦になっており味方からの誤射もある。考えられる限りの悪条件がそろっている。

 相手から続けて射撃は行われない。ファストの言う通り、味方のようだった。リクトが警戒を解いたその時、ファストの叫ぶ声が聞こえてくる。。


「さっきの友軍の反応が消えた! 敵機がこっちに向かって――」


 ファストが言い終わる前に、再び銃弾が飛んでくる。方向は先ほどと同じ。すぐに盾を構えて弾丸を弾く。その銃撃はすぐに方向が変わっていった。

 今までとは様子が違っていた。囲まれて多方向から攻撃を受けたことはあったが、攻撃が移動するのははじめてだった。


「どうなってるんだい。囲まれているんじゃないのかい?」

「反応は1機だけ。相手が速い」


 次々に飛んでくる弾丸を盾で受けるので精一杯で、身動きがとれない。不規則な攻撃に耐えることも辛くなっていく。相手が見えないということもあり、焦りが募っていく。

 今度はどこから弾が飛んでくるのか、それを防ぐことができるのか、相手はどこにるのか。緊張から正確な判断力が奪われている。肺はさらなる空気をもとめ、多量の血液がリクトの体をめぐる。

 目を凝らして相手の動きをうかがう。

 木と木の間、その隙間を動く影を目がとらえる。それはちょうど、マナ重機と同じ大きさの影。敵機と考えて間違いない。影にマナライフルを向けて、動きを止めた。

 敵機の影に赤色が見えたからだ。


「ファスト、相手は本当に敵機なのか?」

「間違いない」


 友軍からの攻撃だという疑惑が頭から離れない。

 リクトは再び目をこらす。銃弾が飛来する方向。盾を構えながら正体をさぐる。

 また、木の間を動く影を見つける。今度は見逃さなかった。赤を帯びているが、間違いなく黒い装甲。一瞬だったが、それを捉えた。

 移動するマナ重機の軌道を先読みする。マナライフルを向けて引き金を引く。発射された弾丸が、頭部の照準の狙い通りに貫いた、はずだった。

 弾丸は命中することなく、敵機の後方を通りすぎていった。完全に読みが外れていた。リクトが予測するよりも、敵機は素早く木の間を通りすぎた。

 速い、と思う前に、敵機からの射撃が襲ってきた。


「こいつ、ただのマナ重機じゃない!

「そんなことは、わかってるよ! ぐるぐる動いてさっぱりわかんない」


 サッドが悲鳴をあげる。

 感覚器官が優れているように造られたサッドは、敵の動きを先に察知していた。しかし、気づいたから対策できるわけではない。敵機からの攻撃で、リクトたちは釘づけにされてしまう。

 この状況を打開したいリクトは1号機を一歩前に踏み出していた。


「おい、また突っ走るつもりかい!」

「他にいい手が思いつかない。サッドを守ってやってくれ」


 センドの制止を聞かず、1号機は木々の間に入っていった。

 相手は試験部隊を包囲するかのように、旋回して移動していることに、リクトは気づいていた。その軌道上に1号機を移動させえて、敵機の行く手を阻むつもりだった。

 予測通り、敵機の正面に立ちはだかることができた。

 敵機は黒い装甲に、両腕を赤く塗装している。マナライフルを右手に持ち、左手には盾をもっていない。外観は腕が赤い以外の違いは見受けられない。マナライフルを構えこちらに射撃を終えた後、まるで地上を滑るようにして、高速で1号機の脇を通りすぎた。

 1号機はとっさに上半身をひねった。運のいいことに、敵機の攻撃を防ぐことができた。

 先ほどの動きは、1号機だからできる姿勢であり、量産されている普通のマナ重機では不可能なものだった。もし、1号機でなければ、被弾し破壊されていたかもしれない。


「リクト!?」

「大丈夫、まだやられてない」


 リクトは頬を流れる汗を親指で拭う。激しく鼓動する心臓を静めるように、深呼吸する。

 1号機を反転させ、敵機の進む先を先回りさせる。まだ旋回するルートを通っているのなら、また正面に出られるはずである。

 再び敵機を正面に飛び出すことができた1号機は、すぐに照準をつけてマナライフルを発射させる。

 敵機は前に屈むような姿勢で、その弾丸を躱す。その動きは先読みして回避したものではなく、マナライフルが発射されてから反応したものだった。

 1号機はすぐにその場を飛び退く。そこに、敵機の攻撃が通り過ぎた。

 リクトはようやく、相手が自分より優れていることに気づく。今ではマナ人間の緩慢な攻撃を対処するだけでよかった。しかし、今回は違っていた。


「もしかして、人間が乗っているのか?」

「それは後で考えて、今は動かないと」


 リクトの思考が敵機へと切り替わる。

 射撃を繰り返し、手数を増やして対抗しようとする。だが、相手は森の中にもかかわらず、平地であるかのように滑らかに動く。それでいて、木を遮蔽物として、迫る弾丸を防いだ。

 敵機は1号機に狙いをつけたようで、攻撃を繰り出してくる。マナライフルの方向を注意深く観察し、その射線に入らないように距離を狭めてきた。


「――こんなところで!」


 追いつめられた焦りから狙いが定まらない。1号機のマナライフルがふらふらと揺れる。そのあいだにも、敵機は接近しながら、1号機を照準にあわせてくる。

 リクトはとっさに1号機に回避させようとするが、木にぶつかってしまい姿勢を崩す。

 慌ててレバーを操作して、倒れるという最悪の状況は避けられた。だが、今の姿勢では相手の照準から逃れることはできない。盾を構えようにも、左手を動かす余裕はない。

 後は、敵機のマナライフルからの射撃を受けるしかなかった。しかし、別のマナライフルの弾丸が1号機と敵機の間を通り抜ける。敵機はとっさにマナライフルを引き、進行方向を変えて1号機の隣を通りすぎた。


「隊長、無事?」


 サッドの声に、さきほどの射撃は3号機からのものだと、リクトは理解した。


「助かった」


 リクトは1号機の姿勢をなおすと、すぐさま反転して敵機が抜けていった方向に正面を向けた。


「勝手な先行はよくないぜ、隊長さん」


 鈍重な2号機が1号機のすぐそばまで来ていた。

 敵機を追っていたはずの1号機は、いつのまにかこの場所に押さえつけられていた。そのことを知ったリクトは舌打ちをしてしまった。


「冷静になって、まだ敵機は健在」


 ファストの声で、頭の熱が少し冷めた。

 3号機を挟むようにして、1号機は2号機の背に回る。そして、じっと敵機の攻撃を待つ。いつまでたっても、攻撃はやってこない。少し緊張がとけてきたとき、ファストの声が響いた。


「敵機に囲まれてる! さっきの攻撃はただの時間稼ぎ」


 それと同時に周囲から弾丸が撃ち込まれてくる。今度は1機によるものではない。周囲からの同時攻撃。まんまと相手の策に引っかかってしまった。

 リクトはどうすべきか、すぐに頭を回転させる。


「敵機の包囲に穴がないかわからないか?」

「南東方向は敵機の数がすくないけど……」


 ファストの言わんとしていることは、リクトも理解できた。ここより東は敵の勢力内。包囲の薄い場所を抜けるには、敵陣に近づく必要があるのだ。


「――手薄な方を突破する」


 また罠の可能性もあるが、リクトはそちらを選択する。ここでじっとしていても、ハチの巣にされるだけだ。少しでも突破する可能性がある方を選んだのだ。


「センドは先頭になって、突破してくれ、殿は僕がやる」


 2号機のは鈍重ではあるが、瞬発力は最も高い。包囲を突破するには適任である。それに、射撃武器がないと、敵機をけん制できない。盾を持つ1号機が必然的に殿に収まる。

 包囲から抜け出すのも重要だが、あの素早い敵機が紛れていることが、リクトにとっては脅威だった。今、狙われたら、間違いなく被弾する。この状況で被弾したら、助かる可能性はぐっと減る。


「ファスト! 動きの速い敵機はどこにいる?」

「敵が多くてわからない。でも、近くにいる」


 リクトはその言葉をうけて、周囲を観察する。飛来する銃弾の中に、発射地点が変わるものがあるはずだ。

 2号機のポールハンマーが敵機を吹き飛ばし、道を切り開く。3号機はその後ろから援護を行う。1号機は仲間に背にして、後ろ向きに歩いて行く。

 包囲から移動しようとすれば、あの手の赤い敵機が動くはずだと、リクトは観察を続ける。


「あれかッ!」


 銃弾の中で、奇妙な射線の弾丸があるのを見つける。方向はすぐ横。2機に挟まれた3号機を横から狙っていた。それを理解した瞬間に、1号機は動いていた。射撃は回避されるなら、違う方法で攻撃すればいい。

 射撃を繰り返しながら、一気に距離を詰める。1号機の射撃を回避して、敵機はすぐ脇をを通過しようとする。そこに盾を持ったままの左腕で殴りつけた。

 お互いが激しい衝撃で弾き合う。それでも、予定通りの攻撃をできた1号機の方が先に体勢を戻す。すぐに敵機に向かってマナライフルを撃ち込むが、命中することなく、回避されてしまう。それでも、一時的にだが敵機を遠ざけることに成功した。


「おい、隊長さん! 包囲をぶっ飛ばしてやったぞ、どうすればいい?」

「全力で進め! サッドも追い越すくらいの覚悟で進め!」


 背後の2機が遠ざかるのを確認する。ここにとどまっていれば、十分な時間が稼げる。リクトは自らを包囲の中に残した。



 1号機を全力で走らせていた。

 十分に敵機を引き付けた後は、全力で逃げるのみだった。あの手の赤い敵機に追われなかったのが幸いした。

 操縦席からこちらを待つ2号機と3号機が見える。しかし、その2機の姿が霞んで見えなくなる。リクトは目を腕でこすって目を凝らす。改善されず視界はぼやけたまま、さらにその像が崩れていく。

 レバーが重い。ペダルまで重い。眩暈がしてきた。

 これ以上、何かをすることができない。

 リクトはそのまま、意識を手放した。

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