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第21話

 ヘリマアウント。

 マーリナス王国とエルキャベータ帝国が隣接する国境。

 険しい斜面に挟まれた山間で、2国間をつなぐ要所。戦略の要ともいわれる戦場である。

 暗い深い森の中にあり、いたるところから伸びる木々がマナ重機の行く手を阻む。

 木の背は高く、マナ重機程度の高さならを覆い隠せるほどだ。頑丈でもあり、マナ重機程度の体当たり程度では、揺らすことしかできない。

 長く激しい争いに、森からいくつもの火の手が上がっている。燃える木々の合間にマナライフルの弾丸が飛び交い、マナ重機の爆発が轟く。

 燃え盛る森は昼も夜もなく、赤い光で辺りを照らしている。ここはマナ重機さえ燃やす炎の地獄。今もまたひとつ、マナ重機が倒れていく。



 燃え朽ちた木を蹴散らしてカーゴが止まる。

 1号機は立ち上がり、荷台から降りる。辺りの木には火がついており、燃え上がっている。

 操縦席の中のリクトは呼吸を荒くしていた。酸素が薄く、辺りの火が気温を上げる。その過酷な環境に身体が耐えられない。


「マナ人間は空気を必要としない。熱にも強い。人間のリクトには辛いと思う」


 リクトは額に浮いた汗を手で拭う。首元のボタンを開けて、少しでも体温を下げようとするが、効果は薄い。レバーを握る手が汗で濡れる。それにかまうことなく、レバーを操作して1号機を動かす。


「確かに辛い。だけど、我慢できないことはない」


 そう言った瞬間、レバーを持つ手が滑る。操縦席ががくんと揺れた。ファストから無言の視線を向けられた。


「大丈夫かい、隊長さん」


 通信機から茶化すようなセンドの声が聞こえてくる。


「僕は大丈夫だ。辺りに警戒しつつ先に進もう。ファストは進路を教えてくれ」

「わかった。ここから東の戦線に向かえばいい」


 ファストが指す先は、燃える木が林立している。その木々によって視界の大半はふさがれている。その先で戦闘が行われているのかわからない。たまに聞こえるマナ重機の爆発音。それだけが、ここを戦場だと、知らしめていた。

 試験部隊は木の合間を通りながら、先に進む。先頭に2号機、後尾には1号機。近距離戦が苦手な3号機を守るように、陣形を組む。

 木をよけながら進む試験部隊に異変が起きる。


「! ここより北東、敵影が2つ!」


 まだ戦線に到着する前だというのに、敵機が近くにいるらしい。操縦席から報告のあった方を見るが、木々が邪魔をして、その姿を発見できない。

 マナライフルと盾を構えて敵襲にそなえる。ポールハンマーを構えた2号機が敵影に向かうように、一歩踏み出す。


「まて、相手を確認できていない!」

「こういうときは、先手必勝だろ!」


 2号機が敵機がいると思われる方向に飛び出した。はっきりとした場所もわからず動いた2号機のポールハンマーが、あたりに生えている木にぶつかり、激しく枝が揺れた。その音は大きく、周囲に広がる。

 途端、試験部隊は銃撃に見舞われる。


「くっ! ごめんよ」


 通信機からセンドの悔やむような、苦い言葉が聞こえる。

 2号機は盾を構えて銃撃を防ぐ。1号機も援護とばかりに、弾が飛んでくる方向へマナライフルを撃ち込む。だが、まったく手ごたえがない。一方的に攻撃されていることに、リクトは焦る。


「サッド、狙撃はできないか?」

「ちょっと、難しい。雑音が多すぎて、距離がはかれないよ。それに、射線が通っていないと、無理だよ」


 リクトは顔を歪める。言う前に気づきそうなことだったが、つい、サッドを頼ってしまった。森で行うはじめての戦いに、余裕がなくなっている。

 銃撃を行っていると、敵の弾が飛んでくる方向が変わったことに気づく。


「敵機の中の1機が、回り込んできている。気を付けて」


 前のデリエルズヒルでの戦いとは勝手が違う。あそこはなだらかな斜面で障害物が少なかった。遮蔽物だらけの戦闘に経験が足りていない。

 二手に分かれた敵機に、囲まれたような感覚に陥る。相手はこちらの位置を明確にわかっているのに対して、相手の位置を把握できずにいる。

 2号機のポールハンマーは使えない。3号機の狙撃もできない。3機で数が上回ってるにもかかわらず、実質攻撃できるのは、1号機のみだ。

 奥歯を噛み締めていたリクトが口を開ける。


「センドは盾でサッドを守ってくれ。僕が先行して敵を討つ」

「おい、またひとりで突っ走るのかよ!」

「敵機は少ない。ファストの先導で確実に仕留める。相手を1機にしてしまえば、センドだけでも叩けるはずだ」


 リクトは前の座席に座るファストに目を向ける。ファストも作戦を理解しているようで、計器類をみながらうなずいた。

 1号機は動き出す。最初の射撃とは違う方向から、来る弾丸に向かう。弾丸に向かえば、必然的に相手と出くわすはずである。盾でマナライフルの弾を受けながら進む。

 ファストから敵機までの距離を聞きながら、先に進むと、木に隠れるようにして射撃する黒いマナ重機が見えた。

 相手さえ見えればこちらのものだと、射線が通る位置に移動しようとする。そのとき、相手に気を取られていた1号機は木に接触してしまい。姿勢を崩してしまう。


「リクト!?」

「大丈夫だ!」


 マナライフルを強引に敵機に向けて射撃する。弱点へ狙いをつけることができないため、リクトは何度も引き金を引いて、射撃を繰り返す。その中でも数発はマナエンジンに当たっていた。過剰に弾丸を受けた敵機は火に包まれると、すぐに爆発した。その爆風で、1号機は吹き飛ばされ、背中から木にぶつかってしまう。

 操縦席内が激しく揺れるのを、力を入れて耐える。そんな中、前方のファストの様子を見る。彼女の身体はがくがくと揺れ動き、とても耐えられているように見えない。

 一時的な揺れがおさまり1号機は地面に落ちた。


「おい、ファスト、動くなよ、首がやられてるんじゃないか!」


 横倒しになった操縦席をリクトは乗り越えようとする。そんな焦るリクトとは裏腹に、ファストはゆっくりと身体を起こす。


「大丈夫。マナ人間は丈夫だから」


 顔をあげるファストが確認できた。

 リクトはつい忘れていた。彼女たちは、この程度では死なないということを。そのことを思い出し、顔をしかめた。


「爆発があったが、そっちは無事かい? こっちは叩き潰したんだけど」


 通信機から少し慌てたセンドの声が聞こえてきた。気持ちを切り替えるために、リクトは首を振ってから、返事をする。


「問題ない。すぐに戻るから、待っていてくれ」

「早く来てよね! 隊長がいないと、心細いんだから!」


 意外と平気そうなサッドの声が聞こえてくる。リクトはほっとして、息を吐いたあと、1号機を立ち上がらせる。それから、2号機たちと合流した。


「しかし、どういうこった? 前線までは距離があるんじゃないのかい?」

「……かなり酷い乱戦みたい。索敵すると、マナ重機がばらばらで、とても前線なんて呼べるところがない」


 ファストは計器から目を離すことなく言う。

 この状況に、リクトは口を閉ざしてしまう。前線がなければ、どこへ行けばいいのか、見当がつかない。ただ前進を続ければ、敵に包囲されることもあり得る。


「ファスト、本陣は何と言っている」

「……前進しろとしか言ってない」

「そんなー……こっちからは口出しできなんだよね。やってられないよ」


 サッドが弱音を吐く。その気持ちはリクトも同じだった。

 こちらに出される命令に、こちらから口を出すことはできない。なぜなら、本陣と繋がる通信は受信しかできない。マナ人間が人間に口を出すことは許されていない。だから、マナ人間は命令に従うだけ。


「どうするんだい、隊長さん」


 それを聞きたいのは、自分だとリクトは思うが、隊長は命令を出さなくてはならない。各個の意見に従うだけではいけない。


「……命令どおり、先に進む。ここでくすぶっていては、戦果をあげることはできない。試験部隊としての役割を果たす」


 そう言うと、リクトは1号機を動かす。まずは一歩踏み出した。それを見たセンドとサッドもマナ重機を動かしはじめる。方向は東。当初と変わることはない。

 陣形をもとに戻し、2号機を先頭にして進む。


「なあ、隊長さんよ。この戦場、あたしたち不利なんじゃないのかい?」


 今更だと、リクトは思う。

 特に3号機は役割が難しい。狙撃を止めて、普通に運用するべきだろう。逆に、防御が得意な2号機には頑張ってもらおう。リクトはそう思うしかできなかった。

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