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神様がおれ  作者: 新手
前編 事始め
3/25

第二話 天に太陽、地には穴、壁に耳あり以下略

 何か足りない。

 海と化した巨大な水たまりの塩分濃度を、大雑把に調整していたおれは首を傾げた。


 風神のおかげで波浪は起こるが、コントロールされた海域は静かなものだ。今のところ熱源が雷神の雷くらいしかないので、海水温が低すぎるのが気になるところ。

 創造神の力である程度どうにかなるが、海産物の世話ばっかしてても目やににまたツッコまれそうだし、何より自主性に任せた進化の驚きがないのはつまらない。


 やっぱ太陽作るかなぁ。


 太陽が無い世界というのも異世界らしくていいと思ったのだが、地球の記憶が強く残っているおれには太陽の暖かさの下に生き物は育つというイメージは捨てきれない。

 色々試してわかったことだが、この世界創造はおれのイメージにかなり左右されるのだ。

 創造神なんだからある意味当たり前なのだが、ある意味盲点だった。いまだ人間感覚が抜けていないというのも大きい。


 例えば防風ガラスと鉄塔。

 焦って感覚に任せた運用をしてしまったが、『雷を跳ね返す防風ガラス』をイメージすれば、それはそういうものとして存在できたはずなのだ。おれが(地球の)物理法則も曲げられる異世界の創造神なのだから。

 しかし「防風ガラスが落雷に耐えられるわけはない」という前世の常識によって、ただ作っただけでは『雷を跳ね返す防風ガラス』にはならない。雷で壊れないように注力する必要があるのだ。

 そしてその力はコントロールしようという考えが失せると、途端単なる防風ガラスになってしまう。


『一種の【神の加護】ってとこですね。なんでもありになるけど、見守る義務が生じるって感じですか。ずいぶん苦労性な創造神になっちゃいましたね』


 うるせーよ! 好きでこうなったんじゃねー!

 せっかく神様になっても、小市民みたいな有り様の自分が恨めしい。

 おれが宇宙の法則なのではなく、おれの中の一般常識が宇宙の法則だったよ……。

 この分だと間違って覚えていたりうろ覚えだったりしても、そのままのイメージで生まれそうだ。


 海水温の調整もこれと同じ理屈だろう。

 熱源がないのに水が冷えないのはおかしいという常識が捨てられないので、単体で常に変温する水というのが作りにくい。

 風神雷神みたいな自立する存在なら、創造神の想像範囲を超えたパワーを持つようだが、そういったものを作るのはまだ怖い。

 弱すぎても強すぎても思惑通りにいかない。難しいところである。


 しかし太陽か。

 平面世界だから自転も公転もしないし、既に昼も夜もあるんだよなぁ。

 役割がダブるのはちょっとなあ。


『いっそ、そういうものをゼロから作りましょう。元があるからイメージが引きずられるわけですから。平面世界も【そういうもの】なわけですし。無からの創造は難しいですけど、今回は暖めるものってテーマがありますしね』


 なるほど。頭いいな。

 さすがおれの目やに。


『他人が聞いたら、ほめてるのか何なのかわからないセリフですね』


 目やにのアドバイス通りに、太陽の代役を考えることにする。

 そうだな。

 昼や光はあるんだから、熱だけがあればいいわけで……。


 おれは巨大な海底火山っぽいものを南東の海域に設置した。

 これだけでは心許ないので、そこ一帯を火山山脈地帯にする。

 北と南の温度差で海流が出来たようだ。温度自体も問題ない。

 次に呪われた地アリゲータの西端に目を向け、そこに大穴を開けた。世界裏まで突き抜ける大穴だ。


 開けた部分の土岩はもったいないので、だいぶ伸びてきた裏世界コキュートスの氷にくっつけておく。裏世界にも氷以外の大地が出来て一石二鳥だ。

 そして大海底火山を噴火させ、噴出したものを穴に吸い込ませる。


 南東から西への長大なライン。噴き出すのは岩ではなく熱量そのもの。

 これは火球を吐く火山なのだ。

 海底火炎大山サンボーラーと名付けよう。巨大な火球は太陽球サンボールだ。

 噴火タイミングは夜明けと同時。太陽球はゆっくり空を巡って世界に熱を伝えていき、ちょうど日が落ちる頃に大穴へと消える。コキュートスへ落ちていく頃にはほぼ熱もなく、火球は宙に散っていく。

 大穴はアリゲータの虚ろと呼ぶか。


『結構いいのが出来ましたね。ネーミングセンスは独特ですが』


 別にいいじゃん! わかりやすいし!


『大丈夫ですよ。私は好きですから』


 お、おう。

 肯定されるとそれはそれで気恥ずかしい。だって適当だから。

 そういや名前っていうと、お互いの呼び名も適当だよな。


『私は目やにでいいですよ? だって事実ですから』


 そうは言ってもな。

 目やに目やにって悪口言ってるみたいだしなあ。

 う~ん。夜明けを告げる女神メアリーでどうだ。

 目やにとメアリー。語感似てるだろ?

 で、おれは創造神ジョージで。

 壁に耳あり、ジョージにメアリー。


『なんでも』


 なにその気のない返事。


『そんな事ないですよ。とても嬉しいです。親父ギャグ』


 目やに改めメアリーの声は、慈愛に満ちている。

 ならいいな。うん。

 創造神なだけに親父ギャグ。創造神なだけにな。

 これがホントのゴッドファーザーってか。

 はっはっは、バカじゃねーの。


 ついでに風神雷神の名前も決めよう。

 あいつらはそのままでいいか。風神のフージングと雷神のライジングだな。

 よし。そろそろ新しい神でもいっとくかー。


『じゃあ破壊神作りましょうか』


 いや作んねーし。いらねーし。

 こわいし。


『一柱くらいいてもいいと思うんですけどねー。色々責任押しつけたり出来ますから。神話にヒールは必要ですよ』


 生まれたら速攻で創造神殺されちゃったりするオチが見える。

 創造神ってさ、実のところ最高神のカマセだったりするじゃん? おれはそんなのゴメンだぜ。

 悪神は風神雷神が兼任してくれるので十分だ。


『なるほど、一理ありますね』


 だろ? その点おれは抜かりないのだ。

 ビビってるわけじゃないんですよ。ホントだよホント。

 ってことでメアリーの提案は却下する。


 おれはまだ手付かずのアリゲータ北側を見た。

 太陽球サンボールの恩恵薄いこの地は、風神雷神対策で作った(たまたま出来たともいう)世界一高い山のある険しい山脈地帯があるだけだ。

 ここに新たな神を作ってバランスを取ろうと思う。


 やっぱり北だから氷とか雪の神がいいな。

 風神雷神があんなだから、なるべくやさしいイメージで……。


 ………………。

 ……困ったな。

 冬とか寒さには厳しいイメージしかないぞ。

 やさしい。やさしさ。やさしさってなんだ。

 振り向いてくれることか。


『母親とかそういうイメージがいいんじゃないですかねぇ』


 母。母性か。なるほどな。

 さすがメアリー。


『……なんかそう呼ばれるの、慣れないですね』


 いずれ気持ち良くなる。


 さっそくおれは母親のイメージで雪の女神を作る。

 新雪を思わせる純白の肌。

 風神雷神がああだし、和装テイストを盛り込んで着物にするか。純白の衣装に映えるロングストレートの黒髪。

 やっぱ美形だよな。

 かわいいよりも美人系で。普段は格好良さも見える厳しめの表情だが、気の許した相手に見せる笑顔は母性に溢れていて……。


 風神雷神の二の舞にならないよう、細かく設定する。

 母親のイメージだけじゃなく、多分に趣味が入ったが気にしない。

 そして現れた雪の女神。

 それを目にした途端思う。


 雪女だこれ。


 くっ。どこで間違えた。

 やっぱ和装の女神って無理があったか。

 せめて巫女服にしとけば……いや、それじゃ母親のイメージにしづらいか。


 雪の女神だか雪女だかは、喜々として山々に雪化粧を施していく。

 その勢いは止まることを知らない。猛吹雪だ。

 このままでは風神雷神の二の舞である。


 そうだ、こども!

 とっさに思いついたおれは、雪女の子を作る。

 慌てすぎたせいで人の形にはならなかった。

 雪だるまになった。

 雪女はそれでも嬉しそうにこども雪だるまを抱え上げると、よしよしとあやしはじめる。

 吹雪は止み、雪女の表情は柔和にやわらぐ。

 結果オーライである。


『相変わらず慌てものの創造神ですね、ジョージは』


 一瞬なに言ってんだこいつ? と思ったが。

 ジョージはおれが考えたおれの名前だった。

 やはり強烈な違和感がある。


『いずれ気持ち良くなるそうですよ』


 そうだね。

 それ言ったのおれだね。ごめんなさい。


 雪女こと、雪の女神お雪。

 その子、梵天丸と名付ける。一件落着である。


 さて南の方にも手をつけるか。

 南と言えば、あつ~い南国だな。そしてきらめく海。ハワイアンビーチだ。

 東にある始まりの海ファーストシーを、もっと南にも広げて。南東方面には島々を作ろう。

 豊かなる海オーシャンビューの誕生だ。

 そして南の神だが……暑い地方だから火の神とかどうかと思ったけど。雷神とサンボールがあるから、火の神って別にいらないんだよなぁ。


『では海の神とかどうでしょう。雪の女神は実質山の神でもありますし』


 お、いいねえ。

 どうせなら人型の神から離れようか。

 そうだな。鯨とか鮫とかイルカとか……。

 いやタコかイカがいいな。反捕鯨団体とかが大変だからな。

 どうせならタコとイカ両方がいい。


 四本のタコの足、四本のイカの足と二本の食腕で計十本。

 動きは通常ゆったりしており、気性はおとなしい。タコのように振る舞うが、イカと同じ甲と耳を持ち、漏斗から水流を噴射することで素早い動きも可能とする。

 漏斗は二つあってそれぞれタコとイカの墨を吐く。

 これを同時に使用して水を噴き出すと、それは大渦潮になるのだ。


『結局、設定に凝って強くなっちゃうんですね』


 はっ。

 つい熱が入ってしまった。


 だ、大丈夫だよ。

 この南洋の海神、溟渤の覇王ロードオブオーシャンは海水と光を動力源とするから他者を害したりしないし。

 体表は黄金に輝き、足は透き通るようなプラチナというが、多くは深海にて過ごすためその姿を見るものは少ないんだよ!

 日光を食する短い間だけ海面に上がってくるため、それを見たものには航海の無事が神より祝福されるという幸運の神でもあるっての!


『それは素晴らしいですね』


 そうだろうそうだろう。

 ロードオブオーシャン、略してローシャンは誕生と同時に沈んでいき、海の底で眠りこける。

 今までの暴れん坊とはだいぶ違う。かわいいやつだ。

 次は西の神をつくろう。


 ここはアリゲータの虚ろがあるところだからな。

 生き物が迷い込んで穴に落ちたり、逆に穴から変なものが出てきたりしないよう番兵を作ろう。

 今までの自立した神とは違う、創造神に忠実な眷属。

 これは簡単だな。お利口さんな犬だ。


 一匹で大穴を番じゃ大変だしかわいそうだから、百八匹くらい欲しいな。

 種類も豊富にしよう。

 柴犬、コーギー、ボーダーコリー。秋田犬、シェパード、ドーベルマン。グレートピレニーズ、グレートデーン、チベタンマスティフ、シェットランドシープドッグ、バーニーズマウンテンドッグ、バイエリッシャーゲビルクスシュバイスフント。ダックスフンド、ミニチュアダックスフンド、カニンヘンダックスフンド、ロングヘアードカニンヘンダックスフンド、ポメラニアン、パピヨン。その他もろもろ。


 百八じゃ足りないな。

 リーダーはシベリアンハスキーかアラスカンクリーカイかで悩んだが、間をとってゴールデンレトリバーだな。

 賢く、忠誠心が高く、性格が穏和と犬の鏡のような犬だからな。


 そして誕生する、大量の犬。

 いや、犬神たちだ。

 おれに忠実なる眷属神は、ワンワンキャンキャン鳴きよる。


 うおおおおおおおおおおおおおぉ!

 かわえええええええええ!


 まだ子犬の犬神たちは、どれも幼く無垢である。


『穴の番とか、最早関係ないですね』


 メアリーのツッコミに答える余裕もない。

 たくさんの犬が遊んでの視線を送ってくるのだ。犬好きにはたまらない。

 番犬向きを選んでいたはずだが途中からおかしくなった。思えばローシャン辺りからテンションがおかしくなってる気がする。でもそれは仕方がないことなんだ。しかしそれは仕方がないことなんだ。

 それより、なんでおれにはこの犬神たちと戯れる身体がないんだ! 創造神だからか!

 そうだ、自分の身体を作れば!


『一応、受肉することも出来ますけど、肉体に縛られることで色々制約かかりますし。世界作りの中途なのでオススメできませんね。世界が崩壊してもいいならどうぞ』


 ……くっ。

 冷静な指摘に頭が冷える。頭とか存在してないけど慣用句的な意味で冷える。

 世界が滅んだら、犬と戯れることも出来ぬ。

 泣く泣くあきらめ、一匹ずつ名前を授けていく。

 そしてリーダー犬神マカロニにすべてを任せると、泣く泣く次の作業に取りかかることにする。


 んじゃ、そろそろ知的生命体に手を出す頃合いだな。

 人間を作って、ある程度の文化レベルの上昇を見たら、犬神たちと戯れる事にしよう。そうしよう。

 クゥーンと甘えるように鳴く眷属たちに、後ろ髪を引かれる思いで心に決める。


『おや』


 おや?


『ちょっと裏世界コキュートスの方を見てください。妙なことになっていますよ』


 ん?


 そういえば表側のアリゲータばかり注力して、すっかりコキュートス側は放置だったな。

 余った大地くっつけしかしてないはずだけど、何か面白い変化が……。


 あっ。


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