第一話 天地創造から始まる神々の戦い
……と思ったんですけどね。
はい。輝きが失せても白い世界のままでした。
『あ、神様になれたみたいですね。おめでとうございます』
夜明けを告げる神こと、目やにの神の声が聞こえる。相変わらず姿は見えない。
これ、神様になった状態なの? さっきとなんも変わってないっていうか、なんであんたまだいるんだ。
『元々あなたの専属ですから。暇になったので来ちゃいました』
てへぺろっと舌でも出してそうな口調で言うが、姿が見えないのでわからない。
軽いな~。
『まあ、細かいことはいいじゃないですか。世界の作り方も知らないんでしょうし、色々教えますよ』
それはありがたいが……目やにの神が世界創造なんて知ってんのかいな。
『毎朝目やに作ってましたからね。一つとして同じ形の目やになしで』
そうか。いやなんだそれ。同レベルなのかよ。
『世界創造なんて難しく考える事はないんです。それの大きいバージョンなだけですよ』
マジかよ。
じゃあまずこの何も見えないのどうにかならんかな。
一面の真っ白じゃ、何から手をつけていいのかわからない。
『それはここが何もない無の世界だからですね。まずビッグバンでも起こしましょうか』
お、いいんですか? 起こしちゃいますよ大爆発。
と、冗談混じりにそう言ったら、真っ白な世界はおれを中心にしてバーンと音もなく黒く無限に広がった。
真っ黒になっただけじゃねえかと考えたら、すごい勢いで時間と空間が自分を通り過ぎていくのがわかるというよくわからない体験をし、気がつくと目の前には大地があった。
正確には真っ黒宇宙空間のままで目には見えないのだが、そうとわかるのだ。これが神の感覚だろうか。
おれは意識の手を伸ばして、ゆっくりと大地を探っていく。
それは大地というか、宇宙空間っぽいものに浮かぶ馬鹿でかい岩の固まりだった。だいたい地球の大きさの三分の一くらい。
世界誕生である。
こんなんでいいのかと思ったけれど、まあおれの世界だからおれが宇宙法則でいいのだろう。
とりあえずこの世界を呪われた地アリゲータと呼ぼう。
ワニの頭みたいな形だからアリゲータ。
あとはおれが作る世界だから、まあ呪われてるんだろう的な。
『ずいぶん自虐的ですね』
目やにのツッコミは無視して世界作りを進めるとする。
横に平べったく伸びてるから平面世界がいいかな。凹凸がない方を表にして、大気を作ろう。
大気、つまり風を司る神とか必要かな。
すると、どこからともなく緑の鬼が出てきた。
逆立った金髪からのぞく見事な一本角。虎柄のトランクスだけを身につけ、嬉しそうな顔した筋肉ムキムキのおっさん。担いだ大きな白い袋からはビュウビュウと風が吹き出し、呪われた地アリゲータに大気を送り込んでいる。
……なるほど風神だな。
おれの風神イメージはこれだから仕方ない。ついでに雷神も作っとくか。
世界には、まず風と雷があったとかそういう。
即座に雷神が生まれた。
焦げ茶色の長髪からは二本の角。黄色いハチマキをつけ、表情は風神に比べると少々厳しめ。白い肌には羽衣を身につけ、風神とおそろいの虎柄トランクス。リング状につながった太鼓を背負い、手に持ったバチでドンドン叩く。
風神が生み出した大気に太鼓が産んだ雷音が鳴り響き、同時に稲妻をバラまいていく腹筋の割れたねーちゃん。
……すいませんアレンジしました。
世界作りにおっさん二人だと絵面が濃すぎるので。
美形だけど筋肉質なせいで暑苦しさは変わらない気もするが、まあそれはそれ。
風神と雷神は見事なコンビネーションで大地に嵐をもたらし、雨雲を呼び寄せ大雨を降らせた。
真っ暗だった世界にも、空を切り裂く稲妻のおかげで光がもたらされる。
おお、なんか思いつきのわりにはそれっぽいんじゃねえ?
次は何をしようかなと考える。
海に原始生命でも放つか。それとも色々すっ飛ばして人間でもいいな。平面世界観だし。
とりあえず雨がやんだらだなーと、どんどん世界を覆っていく黒い雨雲を見やる。
雲の勢いは止まることを知らず、雨足はますます激しく強くなっていく。
風神は実に嬉しそうに笑い、雷神は仏頂面だがどことなく楽しそう。
……あいつら、どうやって止めるんだこれ?
ぼーっと見ていたら、世界は大洪水。
世界中が大嵐の中へ突入だ。一向に終わる気配がない。
『あ、ひとつ忠告すると、貴方はあくまで創造神ですからね。大雑把なものづくりしか出来ないというのを念頭に生み出した方がいいと思いますよ。一つ何かしただけで影響は計り知れないですから』
へ?
雨は世界を洗い流し、風神と雷神が満足するまで続いた。
▽
おい。あいつらまたやり始めたぞ……。
ただの休憩中だったのか、ビュウビュウドンドン風雷が吹き荒れ始める。風神雷神はまだまだ元気だった。
水浸しの世界に、とりあえずマグロとウナギを放流していたおれは眉をひそめた。
カニとエビも続いて育成したかったのに……。
『まあ、風神雷神さんは悪神でもありますからねー。奉られる場所もなく、止める人もいないなら本能のままにやってるんじゃないかと』
うぐ……。
なにか天敵でも作らないとバランス取れんな。
『だからって何かてきとうな神様作ってぶつけても、下手したら逆効果ってこともありますからね。別に私はなんでもいいですけど』
そうだよな。おまえはただの目やにの神様だし。
『がんばって創造神』
はい……。
高い山で隔離しようと試みたが、雨雲に乗って飛び回るこいつらには効果が薄い。
植林してみても吹き飛ばされる。宮沢賢治とか立花道雪でもダメだった。創るという行為と相手の妨害という行為は相性悪すぎた。
止める壊すという行為は破壊者の仕事。創造者はただ作るのみです。そこに王道はない(キリッ)とか目やにが言っているけれど、それを知ったところでどうにもならない。
イライラしてきたので山を噴火させてみるが、こいつらはむしろ喜ぶだけだった。
おい、なんだよこいつら。強すぎだろ。何となく作っただけなのに。
『シンプルイズベストってことですね』
くそったれ。
シンプルか。ならこれでどうだ。
おれは巨大な防風ガラスを作り上げた。
天を覆い尽くさんばかりの厚さ10000ミリ超のアクリルガラスが次々と空を飛び、風神雷神に襲いかかる。
異変に気づいた風神雷神は、果敢に防風ガラスと戦い始めるがそうはさせない。
この防風ガラスは雨風を防ぐぞ。絶縁体だから電気は通さない。
――ボッカーン。
大げさな音を立てて、雷の直撃を受けた部分が粉々に砕け散った。
さすがに分厚く作ってあるので穴は開かなかったが、何回か同じ所を狙われれば貫通は防げないだろう。
雷の熱エネルギーを忘れていた。電気を通さなくても破壊されたら意味ねーじゃん。
おれは慌ててそこら中に鉄塔を生み出し、避雷針代わりに雷の直撃をそらす。
そしてそのまま大地の東端まで追い出した。
何とかなったか……。
勝利の代償として防風ガラスと鉄塔とか、やけくそで脈絡のないものを大量生産してしまった。
これさあ、そもそも土壁でよかったじゃん。そうしたら、こんなあからさまな鉄パイプで出来た避雷塔とかいらんかったし。
だいたい防風ガラスってなんだよ。シンプルでも何でもねえよ。考えたやつ誰だよ。
おれだよ!
……まあ別におれの世界だからいいのだが、なるべく創世神話っぽい感じでいこうと思ったのになあ。
『それ、風神雷神の時点でだいぶ壊れてますよね。虎もいないのに虎柄パンツですし』
い、いいんだよあいつらは! 強いし!
おれが誤魔化しついでに大地に高低差をつけると、その東端から大海原が出来上がった。
防風ガラスで風雨量を調整して、風神雷神をそこに封じ込める。
水や雨雲はその地から生まれ、溢れた分は大地の終わりからそのまま滝のように落ちていく。平面世界だからな。
ここを始まりの海ファーストシーと呼ぼう。
陸から海を横断し、世界の果てまで連なる無数鉄塔は、東端の海を南北に分けているような感じになっている。これはこれで風情があるからいいか。海中に沈まないように、ここだけ海を浅くしておこう。
風神雷神の有り余った力は、封じても時折漏れてくる。
封じの結界こと防風ガラスを調整して、漏れる量をコントロール。
こうして世界に昼と夜、そして天候が出来た。
太陽がないけど、どうしようかな。
『あ』
あ?
『ある程度海水が世界から落下すると凍って固まってますね』
マジか。マジだ。
ほとんどは真っ暗な闇に散っているが、氷の大地っぽいのが下の方に出来上がってた。
修正するか一瞬悩むが、せっかくだからこのままにしとこう。
いずれ大きくなっていけば、もうひとつの世界――アリゲータとは別の裏世界と成るかもしれない。それはそれで面白い。
とりあえずコキュートスと名付け、放置することにする。
さて、世界が落ち着いたところでエビとカニを増やそう。
意志の強い存在のやっかいさは風神雷神で学んだからな。まずは環境を整えてから、徐々に増やしていこう。
あ、タコとイカも追加で。
昆布とわかめも増やそう。
『着々と海産物ばっか増やしてますね。でも神様だから食べられませんよ。食べる必要もないので』
はっ。
勢いのままやっていたが、そういや食えそうな生き物に偏ってるな。いかんいかん。
気分転換に陸にも目を向けよう。
とりあえず木を植えようか。
桜の木でいいな。
……結局好きなものばかり誕生させてる気がするが、おれの世界なのでいいよね?
『どうぞどうぞ』
目やにもこう言っていることだし、これでいいのだ。
そんな感じでおれは、おれの世界を次々に形作っていった。




