23.言葉の全ては受け入れない
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「待て」
江ノ島君が声を上げた。
どうやら思わず上げてしまったらしい。江ノ島君は顔をしかめている。
でも、待てと言われなくても、ウチはその先を書くことはできなかった。
古崎さんが、先を続けることができなかったから。
古崎さんは、泣いていた。
必死に押し殺そうと、言葉を紡ごうとしてはいるけれど、全く功を奏していなかった。
止めどなく嗚咽がもれ、鼻をすすり、頬を伝って顎から滴り落ちるほどに、泣いていた。
拭っても拭っても、涙は次々と溢れ出ていた。
古崎さんは、全身で泣いていた。
でも、そんな古崎さんのことを、江ノ島君が目にすることはない。
ウチは、何も言わずに江ノ島君の顔を見た。
ウチ自身が今一体どんな顔になっているのか、わからない。
「………………」
江ノ島君は、何か言おうとして口を何度もぱくぱくさせるけど、どうにもなかなか言葉が見あたらない様子だった。
「……静香は」
ウチは江ノ島君の顔を見つめ続ける。江ノ島君は古崎さんの言葉に視線を落としたままだ。
「静香は、この場にいるんですか?」
「……どうしてですか?」
「文体が」
江ノ島君は、紙から視線を離さない。
「その文は、前々から準備してきたものには思えない」
「………………」
ウチは考えた。
確かに、その通り、古崎さんはここにいる。
途中から泣き出してしまった古崎さんの言葉は、嗚咽の混ざることによってさらにたどたどしくなって、ウチの代筆する言葉も合わせてゆっくりになった。
だけど、紙面に涙は表せない。
感情を表すことはできない。
だから客観的に見れば、ただウチの筆の運びが遅いだけになる。
それを、古崎さんが今この場にいて、リアルタイムに代筆しているのだろうかと思ったということは、江ノ島君は江ノ島君の中で生前の古崎さんをなぞっていたからなのかもしれない。
けれど。
でも。
この場に古崎さんがいると、そう答えてもいいのだろうか。
それがわかったところで、江ノ島君に、古崎さんに、ウチに、何ができるというのだろう。
筆談でもするか。
ウチを仲介にして。
でもいいのか?
それは、何かが違うんじゃないか?
何が?
迷う。
ウチは悩む。
一瞬だけ。
「いますよ」
ウチは答えた。
「古崎さんは、ここにいます」
エーカちゃんの提示した、ハートのジャックのカード。
エーカちゃんはそれについて、具体的な方策を示すことはなかった。
ただ簡潔に、こう言っていた。
『成り行きで』、と。
多分、こういうことなんだろう、とウチは思う。
さあ、『成り行き』の始まりだ。
「静香には……俺の声は聞こえてるんですか?」
「ええ」
「そうですか。それじゃあ」
江ノ島君は、紙面から目を逸らさない。
「静香」
頑なに、視線を上げない。
「俺はお前を忘れない」
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