↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
97/167

第九十七話「進む者と止まる者」

 海沿いの道。


 波の音が、一定のリズムで響いている。


 二人は並んで歩いていた。


 だが。


 距離は、微妙に空いている。


 イリスは、


 常に一歩だけ後ろを歩いていた。


(……信用してない)


 自分でも分かっている。


 だが、


 どうしても近づけない。


 目の前の男は、


 あまりにも普通すぎた。


 この場所にいるべきじゃないほどに。


「で」


 ガイアスが口を開く。


「どこ行けばいいんだ?」


 いつも通りの調子。


 イリスは少しだけ眉をひそめる。


「……中央の中枢跡地よ」


「元首たちがいた場所」


「そこが一番、情報が残ってる」


 淡々と答える。


「なるほどな」


 それだけ。


 疑問も、恐れもない。


(……なんなのよ)


 内心で思う。


 しばらく歩く。


 沈黙。


 だが。


 その沈黙は、


 イリスには耐え難かった。


「……ねえ」


 思わず口を開く。


「本当に、知らないの?」


 ガイアスは前を見たまま答える。


「何をだ?」


 その一言で、


 再び現実に引き戻される。


「……全部よ」


 息を吐く。


 そして。


 話し始める。


「元首は、全員消えた」


 静かに。


「元帥も、全滅」


「艦隊も、消えた」


 一歩ずつ、


 言葉を置いていく。


「でも」


 視線を横に向ける。


「住民は、普通に生きてる」


 そこにある異常。


「分かる?」


 ガイアスは、少しだけ考える。


「……中枢だけ狙われてるってことか」


 即答だった。


 イリスは、少しだけ驚く。


「……そうよ」


「しかも」


 一拍。


「音もない」


「戦闘もない」


「抵抗もできない」


 足が止まる。


「気づいた時には、終わってる」


 その声は、


 少しだけ震えていた。


「……誰も、何もできなかった」


 沈黙。


 波の音だけが残る。


「……多分」


 絞り出すように言う。


「帝国よ」


 その瞬間。


 空気が、少しだけ変わる。


「……ヴァルター」


 その名を、


 口にする。


 怖かった。


 だが。


 言わなければならなかった。


 ガイアスは、


 一瞬だけ目を細める。


「……ああ」


 小さく頷く。


「生きてるなら、納得だな」


 その言葉に。


 イリスの思考が止まる。


「……は?」


 理解できない。


「何言ってるの」


 声が強くなる。


「納得って……!」


「みんな死んでるのよ!?」


 感情が、溢れる。


「一瞬で!」


「何もできずに!」


 呼吸が乱れる。


「怖くないの!?」


 叫ぶ。


「次は自分かもしれないのに!!」


 沈黙。


 ガイアスは、


 ゆっくりとイリスを見る。


 そして。


「怖えよ」


 あっさり言った。


 一拍。


「……え」


 イリスの声が、止まる。


「怖えに決まってるだろ」


 ガイアスは、普通に言う。


「死ぬのは、嫌だ」


 当たり前のように。


 だが。


 その後。


「でも」


 一歩、前に進む。


「それでも行く」


 迷いなく。


「止まったら終わりだろ」


 その言葉は、


 重くなかった。


 だが。


 確かに、強かった。


 イリスは、何も言えない。


 その考えは、


 自分とは違いすぎた。


 怖いから止まる。


 それが普通だ。


 だがこの男は、


 怖いまま、進む。


「……理解できない」


 正直に言う。


「いいんじゃねえか」


 ガイアスは笑う。


「無理に理解しなくていい」


 その言葉に。


 少しだけ、


 肩の力が抜けた。


 完全ではない。


 だが。


 ほんの少しだけ。


「……馬鹿ね」


 小さく呟く。


「よく言われる」


 即答だった。


 少しだけ、


 空気が緩む。


 再び歩き出す。


 今度は。


 距離が、


 少しだけ近かった。


 信頼ではない。


 安心でもない。


 だが。


 “完全な孤独ではなくなった”。


 それだけで、


 十分だった。


 波の音が続く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。