↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
89/167

第八十九話「静かな地、動く意志」

 アルカ・ドラグナ。


 朝。


 風は穏やかで、


 空は静かだった。


 誰も、空を見上げない。


 見ても、もう飛べないからだ。


 それでも。


 人々は生きていた。


 水を汲む者。


 畑を耕す者。


 子供と笑う者。


 そこには、戦場はない。


 ただ、“日常”があった。


「……悪くないな」


 ガイアスが呟く。


 木陰に腰を下ろし、


 その光景を見ている。


「最初はどうなるかと思いましたが」


 隣の男が言う。


「案外、落ち着いています」


「争いがないからな」


 短く答える。


「皆、疲れてる」


 それが全てだった。


 戦いに。


 失うことに。


 選ばされることに。


 だから、ここでは争わない。


 誰もが、それを暗黙で理解していた。


「……ガイアス」


 背後から声がする。


 振り返る。


 グラウスだった。


「来ていたのか」


「少し、話があってな」


 ガイアスは立ち上がる。


 二人は少し離れた場所へ移動する。


「……この場所は、どうだ」


 グラウスが問う。


「悪くない」


 即答。


「争いもない」


「強制もない」


 一拍。


「……生きやすい」


 グラウスは頷く。


「そうだ」


「だからこそ」


 視線を向ける。


「お前は、落ち着かんだろう」


 ガイアスは答えない。


 だが。


 否定もしない。


「……分かるか」


「分かるさ」


 グラウスは笑う。


「お前は“そっち側”だ」


「ここに残る人間じゃない」


 ガイアスは空を見る。


 何もない空。


 だが。


 そこに、確かにあったもの。


「……まだ終わってない」


 小さく呟く。


「何がだ」


「空だ」


 迷いなく言う。


「神に奪われたまま終わるつもりはない」

「戦争がない世界には賛成だけどな」


 その言葉に、


 グラウスは少しだけ目を細める。


「……危険な道だな」


「分かってる」


「それでも行くのか」


 一拍。


「行く」


 即答だった。


 その目には、


 迷いが一切ない。


「……そうか」


 グラウスはそれ以上言わない。


 止めることもしない。


「なら、行く前に一つ」


 静かに言う。


「情報だ」


 ガイアスが視線を向ける。


「海洋諸国連合」


 その名前に、


 わずかに空気が変わる。


「その中に一つ」


「“竜の記録”を持つ国がある」


 ガイアスの目が鋭くなる。


「……確かか」


「古い話だがな」


「だが」


「連中は海の底や島の遺跡を漁っている」


「その中に」


「ドラゴンに関する記録があると聞いた」


 沈黙。


 風が吹く。


「……場所は」


「南西の群島」


「連合の中でも独立色の強い国だ」


 ガイアスはゆっくりと頷く。


「……行く」


 それだけだった。


「だろうな」


 グラウスが苦笑する。


「止めても無駄か」


「止められると思うか?」


「思わん」


 二人とも、少しだけ笑う。


 短い沈黙。


「戻ってくる気はあるか」


 その問いに、


 ガイアスは少しだけ考える。


 そして。


「……分からない」


 正直に答える。


「だが」


「ここは残しておけ」


「いい場所だ」


 それが答えだった。


 グラウスは頷く。


「任せておけ」


 それで十分だった。


 ガイアスは歩き出す。


 止まらない。


 もう、決まっている。


(……ドラゴン)


(お前は、何を知ってる)


 空を見る。


 何もない。


 だが。


(俺は、行く)


 その先へ。


 アルカ・ドラグナは、静かに続く。


 戦いのない場所として。


 だが、その中から。


 一人の男が、


 再び“空”へ向かって動き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。