第八十六話「王を断つ刃」
帝都、皇城。
夜。
だが――
静寂ではなかった。
金属音。
押し殺された叫び。
短く、鋭い衝突。
戦争ではない。
だが、確かに“戦い”だった。
城内通路。
「進め」
レオハルトが低く命じる。
過激派の兵たちが動く。
音を立てずに。
だが、確実に。
「第一警備線、突破」
「第二層、抵抗あり」
「構わない」
レオハルトは止まらない。
「排除しろ」
その言葉は、冷たい。
血が流れる。
だが、悲鳴は広がらない。
静かに、削っていく。
――だが。
「……来るぞ」
空気が変わる。
重い足音。
統制された気配。
現れたのは――
ロイヤルガード。
帝国最強の護衛部隊。
「侵入者確認」
「排除する」
一斉に動く。
――激突。
剣と剣がぶつかる。
火花が散る。
そして。
レオハルトの眉が、わずかに動く。
(……強い)
想定以上。
数では押している。
だが――
崩れない。
統制。
連携。
無駄のない動き。
「隊列維持!」
「崩すな!」
ロイヤルガードの指揮官が叫ぶ。
過激派が押し切れない。
「……時間がかかる」
レオハルトが呟いた、その時。
――ドン。
重い衝撃音。
通路の奥から、何かが“来る”。
兵たちが、無意識に道を開ける。
そして。
現れる。
ヴァルター。
左腕だけ。
右は失われたまま。
全身は機械に支えられている。
それでも。
圧倒的だった。
「……遅いな」
低く言う。
ロイヤルガードの視線が集まる。
「……あれが」
「ヴァルターか」
誰かが呟く。
「構えるな」
指揮官が言う。
「一斉に――」
言い切る前に。
ヴァルターが動く。
――速い。
異常な加速。
左腕だけの斬撃。
だが。
重い。
鋭い。
そして、正確。
ガードを崩す。
連携を断ち切る。
防御を意味のないものにする。
「……っ!」
ロイヤルガードが踏みとどまる。
だが。
押される。
「崩すな!」
指揮官が前に出る。
剣を振るう。
――受け止める。
ヴァルターの左腕が。
火花が散る。
「……貴様」
「強いな」
ヴァルターが言う。
「だが」
押し込む。
「足りない」
――斬撃。
指揮官の剣が弾かれる。
一瞬の隙。
その瞬間で、終わる。
倒れる。
残るガードたちも、崩れていく。
数分後。
静寂。
ロイヤルガードは、全滅していた。
レオハルトが、その光景を見る。
目は揺れない。
(……やはり)
(この人は、別格だ)
その確信だけが深まる。
「進む」
ヴァルターが言う。
「はっ」
扉の前。
重厚な扉。
帝国の中心。
ゆっくりと開く。
中には――
皇帝がいた。
逃げていない。
座ったまま。
「……来たか」
静かな声。
ヴァルターが進む。
「終わりだ」
短く言う。
「そうか」
皇帝は頷く。
「では、最後に聞こう」
ヴァルターの動きが止まる。
「お前は」
「空しか見ていない」
静かに。
「帝国全体はどうする」
「戦えない民はどうなる」
「それでも」
「変革だと言うのか」
沈黙。
レオハルトが、わずかに視線を上げる。
答えを待つ。
ヴァルターは――
一歩、前に出る。
「……知るか」
短く言う。
「守れなかった」
「救えなかった」
「それが現実だ」
一拍。
「だから」
「取り戻す」
「空を」
それだけだった。
皇帝の目が細くなる。
「……そうか」
小さく息を吐く。
「やはり、お前は“戦場の男”だ」
そして。
「国を動かす器ではない」
その言葉に、
レオハルトが反応する。
「無礼です」
だが。
ヴァルターは止めない。
ただ。
「それでいい」
と答える。
「俺は王じゃない」
「……刃だ」
一歩。
「必要なら」
「振るうだけだ」
そして。
剣が振られる。
――終わる。
帝国の時代が。
静かに。
だが確実に。
変わった。
血の上で。




