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第七十四話「祈りの行き先」

 ――ノクティア教国


 静かだった。


 かつて、戦の拠点だった場所。


 今は、瓦礫と灰に覆われている。


 その中に。


 膝をつく者たちがいた。


 武器は、ない。


 鎧も、ない。


 あるのは——


 祈りだけ。


「……神よ」


「我らに、導きを」


 何人も。


 何十人も。


 声を揃えて、祈っている。


 目を閉じ。


 空に向かって。


 彼らは、戦った。


 仲間を失い。


 血を流し。


 それでも、“神”を信じて戦った。


 だが——


 神は、完全には救わなかった。

 

 ただ大きな争いが止まっただけ。


 少なくとも。


 彼らの目には、そう見えた。


 それでも。


 信仰は、消えない。


 むしろ——


 強くなる。


 理由は、簡単だった。


 すでに、降臨したからだ。


 あの圧倒的な存在。


 あの光。


 あの“絶対”。


「……神は、正しい」


 誰かが、呟く。


 それは、疑いではない。


 確信だった。


「救われなかったのは……」


「我らが、未熟だったからだ」


 誰も、否定しない。


 できない。


 その考えが、一番“楽”だから。


 そして——


 一人の男が、前に出る。


 高位の神官。


 戦場を生き延びた者。


 だが、その目は。


 以前よりも、深く濁っていた。


「神は、示された」


 低く。


 だが、確かな声で言う。


「空は、神のものとなった」


「ならば——」


 一拍、置く。


「地上もまた、清められるべきだ」


 その言葉に。


 誰も、驚かない。


 むしろ——


 納得する。


 戦争は、消えた。


 だが。


 争いの“原因”は、まだ残っている。


 人。


 思想。


 欲望。


「神の世界に、不要なものは——」


「排除されねばならない」


 その瞬間。


 祈りが、変わる。


 ただの願いから。


 “意志”へと。


「……神のために」


「……我らが、正す」


 小さな声が、広がる。


 やがて。


 重なり。


 一つになる。


 武器は、ない。


 軍も、ない。


 だが。


 思想は、ある。


 そして、それは——


 最も消えない“力”だった。


 その動きは。


 すでに、広がり始めていた。


 そして同時に、世界には新たな変革が訪れていた。


 王国でもない。

 帝国でもない。

 教国でもない。

 連邦でも連合でもない。


 どの国にも属さない者たちが——


 集まり始めていた。


 戦争に従えなかった者。


 国の命令に疑問を持った者。


 すべてを失い、居場所をなくした者。


 彼らは、決めた。


 どの国にも属さないと。


 誰にも支配されないと。


 荒れた土地に、手を入れる。


 壊れた家を、直す。


 小さな畑を、耕す。


 自分たちの手で。


 生きる場所を、作り始めていた。


 戦争は、起きない。


 空は、神に管理されている。


 ならば。


 誰も、空から攻めてこない。


「……だったら」


「自分たちで、国を作ればいい」


 誰かの言葉に。


 誰もが、頷いた。


 だが。


 彼らは、神を選ばなかった。


 見てしまったからだ。


 神が、すべてを奪う姿を。


 彼らが見上げるのは——


 空ではなかった。


 あの、圧倒的な存在。


 すべてを無に帰した“もう一つの力”。


「……あれこそが、本当の自由だ」


 誰かが、呟く。


 神ではなく。


 国でもなく。


 ドラゴン。


 孤独に、誰にも従わず。


 空すらも恐れぬ存在。


 彼らは、祈らない。


 従わない。


 ただ、憧れる。


 目指す。


 あの存在のように。


 そして、彼らは、


 アルカ・ドラグナという難民達による独自の自由領を宣言した。


 世界は、三つに割れ始める。


 神に従う者。

 国に従う者。


 そして——


 どこにも従わない者。


 空は、静かに見ている。


 だが。


 その下で。


 人間たちは、再び選び始めていた。


 “どう生きるか”を。

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