第五十四話「降り注ぐもの」
最初の一発は。
音もなく、落ちた。
次の瞬間。
地面が、吹き飛ぶ。
轟音。
遅れて、空気が震える。
爆炎が、広がる。
そして。
止まらない。
次。
また次。
連続して、地上に叩きつけられる。
砲撃。
海からの。
「――伏せろ!!」
誰かが叫ぶ。
だが。
意味はない。
どこにいても、同じだ。
建物が崩れる。
地面が割れる。
炎が、広がる。
王国兵。
帝国兵。
教国兵。
区別なく、吹き飛ばされる。
戦場が。
消されていく。
「なんだこれは……!」
「海が……撃ってきている!?」
「味方じゃなかったのか!?」
叫びが、飛び交う。
だが。
答えは、ない。
あるのは。
ただの現実。
“敵が増えた”という事実だけ。
爆風の中を、走る。
瓦礫を蹴り上げ。
崩れ落ちる建物を避けながら。
視線は。
前。
エルンスト。
同じように、走っている。
後ろを振り返らない。
分かっている。
止まれば、死ぬ。
それは。
俺も同じ。
距離が、縮まる。
剣が、ぶつかる。
火花。
だが。
一瞬だけ。
すぐに、離れる。
戦っている。
だが。
戦っていない。
「……逃がさない」
息を切らしながら、言う。
その言葉に。
エルンストが、笑う。
「……この状況で、か」
周囲を、見る。
崩壊する街。
降り続ける砲撃。
「……正気じゃないな」
俺は、答える。
「……鍵を、持ち帰る」
それだけ。
それだけが。
今の自分の役割。
一瞬。
表情が、変わる。
そして。
小さく、息を吐く。
「……そうか」
納得したように。
呟く。
「……お前も、“それ”か」
その時。
すぐ近くに、砲弾が着弾する。
衝撃。
地面が、崩れる。
二人とも、体勢を崩す。
瓦礫が、降る。
その中で。
俺は、動いた。
手を伸ばす。
エルンストへ。
引き寄せるように。
一瞬。
エルンストは目を見開く。
理解が、遅れる。
「……なにを――」
「……死ぬぞ」
短く。
それだけ言う。
瓦礫が、直撃する。
だが。
二人とも、ギリギリで避ける。
距離は、近い。
だが。
剣は、向けたまま。
互いに。
敵のまま。
「……助けたつもりか」
エルンストが、低く言う。
「……違う」
クロノスは、即答する。
「……必要だからだ」
一瞬の沈黙。
そして。
エルンストが、笑う。
かすかに。
「……なるほどな」
剣を構え直す。
「……なら、簡単には捕まらんぞ」
二人は、再び走り出す。
戦いながら。
逃げながら。
崩壊する街の中を。
砲撃は、止まらない。
海から。
容赦なく。
地上を削り続ける。
この瞬間。
戦争は、変わった。
王国も。
帝国も。
教国も。
もはや。
主役ではない。
瓦礫の中を走る。
俺と。
エルンスト。
敵同士。
だが。
同じ“何か”を背負った者同士。
その距離は。
わずかに。
変わり始めていた。




