表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

54/70

第五十四話「降り注ぐもの」

 最初の一発は。


 音もなく、落ちた。


 次の瞬間。


 地面が、吹き飛ぶ。


 轟音。


 遅れて、空気が震える。


 爆炎が、広がる。


 そして。


 止まらない。


 次。


 また次。


 連続して、地上に叩きつけられる。


 砲撃。


 海からの。


「――伏せろ!!」


 誰かが叫ぶ。


 だが。


 意味はない。


 どこにいても、同じだ。


 建物が崩れる。


 地面が割れる。


 炎が、広がる。


 王国兵。


 帝国兵。


 教国兵。


 区別なく、吹き飛ばされる。


 戦場が。


 消されていく。


「なんだこれは……!」


「海が……撃ってきている!?」


「味方じゃなかったのか!?」


 叫びが、飛び交う。


 だが。


 答えは、ない。


 あるのは。


 ただの現実。


 “敵が増えた”という事実だけ。


 爆風の中を、走る。


 瓦礫を蹴り上げ。


 崩れ落ちる建物を避けながら。


 視線は。


 前。


 エルンスト。


 同じように、走っている。


 後ろを振り返らない。


 分かっている。


 止まれば、死ぬ。


 それは。


 俺も同じ。


 距離が、縮まる。


 剣が、ぶつかる。


 火花。


 だが。


 一瞬だけ。


 すぐに、離れる。


 戦っている。


 だが。


 戦っていない。


「……逃がさない」


 息を切らしながら、言う。


 その言葉に。


 エルンストが、笑う。


「……この状況で、か」


 周囲を、見る。


 崩壊する街。


 降り続ける砲撃。


「……正気じゃないな」


 俺は、答える。


「……鍵を、持ち帰る」


 それだけ。


 それだけが。


 今の自分の役割。


 一瞬。


 表情が、変わる。


 そして。


 小さく、息を吐く。


「……そうか」


 納得したように。


 呟く。


「……お前も、“それ”か」


 その時。


 すぐ近くに、砲弾が着弾する。


 衝撃。


 地面が、崩れる。


 二人とも、体勢を崩す。


 瓦礫が、降る。


 その中で。


 俺は、動いた。


 手を伸ばす。


 エルンストへ。


 引き寄せるように。


 一瞬。


 エルンストは目を見開く。


 理解が、遅れる。


「……なにを――」


「……死ぬぞ」


 短く。


 それだけ言う。


 瓦礫が、直撃する。


 だが。


 二人とも、ギリギリで避ける。


 距離は、近い。


 だが。


 剣は、向けたまま。


 互いに。


 敵のまま。


「……助けたつもりか」


 エルンストが、低く言う。


「……違う」


 クロノスは、即答する。


「……必要だからだ」


 一瞬の沈黙。


 そして。


 エルンストが、笑う。


 かすかに。


「……なるほどな」


 剣を構え直す。


「……なら、簡単には捕まらんぞ」


 二人は、再び走り出す。


 戦いながら。


 逃げながら。


 崩壊する街の中を。


 砲撃は、止まらない。


 海から。


 容赦なく。


 地上を削り続ける。


 この瞬間。


 戦争は、変わった。


 王国も。


 帝国も。


 教国も。


 もはや。


 主役ではない。


 瓦礫の中を走る。


 俺と。


 エルンスト。


 敵同士。


 だが。


 同じ“何か”を背負った者同士。


 その距離は。


 わずかに。


 変わり始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ