表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

45/70

第四十五話「堕ちた背中」

 鉄の匂いがする。


 熱と、油と、焦げた金属の匂いが混ざり合い、飛行艇の内部は空とはまるで別の場所になっていた。


 足場は傾いている。


 機体がまだ安定していない証拠だ。


「……来るぞ」


 エルンストが、短く言う。


 次の瞬間。


 扉が吹き飛ぶ。


 帝国兵。


 装備は重い。


 だが統制が取れている。


(……懐かしいな)


 一瞬だけ、そう思う。


 足運び。


 間合い。


 複数戦。


 空じゃない。


 地上の戦い。


 俺が一番、慣れていた陸軍の頃の戦場。


「下がってろ」


 短く部下の帝国兵に言う。


 エルンストは動かない。


「……一人でやるつもりか」


「お前を連れて帰るためだ」


 答えながら、踏み込む。


 最初の一人。


 懐に入る。


 斬る。


 次。


 銃口を逸らす。


 剣の束を敵の脇にぶつける。


 痙攣。


 崩れる。


 間を空けない。


 三人。


 同時。


 動きが遅い。


 読める。


 崩す。


 倒す。


「……なるほど」


 エルンストが呟く。


「空よりも、こちらが本領か」


 否定しない。


 事実だ。


 だが。


 帝国兵の数が増える。


 次々と入ってくる。


 囲まれる。


(……きりがない)


 息が上がる。


 集中力が削れていった。


 その中で。


 また、あの感覚。


 胸の奥が震える。


 エルンスト。


 間違いない。


 こいつが――対の鍵。


 その時。


 空気が変わる。


 戦いの音が、一瞬で消える。


「……」


 誰も動かない。


 帝国兵でさえ。


 振り返る。


 そこに、立っていた。


 ヴァルター。


 だが。


 右腕が、ない。


 肩口から先が、消えている。


 血が、止まっているのが逆に異様だった。


 全身、傷だらけ。


 満身創痍の状態。


 だが。


 立っている。


 それだけで、空気が変わる。


「……生きてたか」


 低く、呟く。


 視線は、俺。


 ではなく。


 エルンストへ。


「……任務は続行だ」


 短い。


 それだけ。


「……オルディウスは」


 思わず、口に出る。


 ヴァルターが、わずかに視線を動かす。


「……殺した」


 静かに言う。


 それだけで。


 全て、分かる。


(……負けたのか)


 あの人が。


 あの、蒼鷹が。


 胸の奥が、重くなる。


 だが。


 目の前は、止まらない。


 ヴァルターが、一歩ゆっくりと踏み出す。


 それだけで。


 空気が沈む。


 呼吸が、重い。


 右腕がなくても。


 関係ない。


 強い。


 圧倒的に。


(……無理だ)


 はっきりと分かる。


 今の俺じゃ、勝てない。


 逃げるか。


 だが。


 エルンストを、逃がすわけにはいかない。


 それでも、俺は。


 踏み込むことを選んだ。


 勝てなくても。


 止める。


 それだけだ。


「――それ以上は、やらせねぇよ」


 聞き慣れた声。


 横から衝撃。


 ヴァルターの動きが、一瞬止まる。


 視線が動く。


 そこにいたのは。


 ガイアス。


 息が荒い。


 傷だらけ。


 自身のワイバーンから飛び降りてきたのだろう。


 だが、笑っている。


 俺も笑みがこぼれる。


「……遅ぇんだよ、お前」


 俺は軽く言った。


 そして、ガイアスは言う。


「一人で全部やろうとすんな」


 その言葉で。


 少しだけ、張っていた力が抜ける。


 だが。


 戦いは、終わっていない。


 むしろ。


 ここからが、本番だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ