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第四十四話「爆ぜる空」

 飛行艇は、まだ落ちていない。


 黒い粉は確かに効いている。


 だが、それでも巨体は空にしがみつくように浮かび続け、なおも砲撃を続けていた。


「……しぶといな」


 ガイアスが舌打ちする。


 視線の先で、飛行艇の砲門が再び光る。


 次の瞬間。


 地上が、焼けた。


 閃光。


 遅れて、爆音。


 王国の陣地が、吹き飛ぶ。


「……くそっ」


 思わず歯を食いしばる。


 あれを、止めなければならない。


 だが。


 距離が足りない。


 粉も、もうない。


「……来るぞ」


 ガイアスが言う。


 その直後。


 別方向から、影が滑り込む。


 黒いワイバーン。


 その上の男。


 エルンスト。


「……また会ったな」


 低い声。


 視線が合う。


 あの時と同じ。


 だが、今は違う。


 距離が近い。


 逃げ場がない。


 エルンストが動く。


 一直線。


 クロノスではなく――飛行艇周辺へ。


「……守る気か」


 ガイアスが言う。


 理解する。


 こいつは、時間を稼ぐつもりだ。


 飛行艇が回復するまでの。


 再び、砲撃。


 地上が燃える。


 逃げ遅れた兵。


 崩れる陣形。


 その光景を。


 教国の飛竜部隊が、見ていた。


「……あれが」


 一人が呟く。


「……帝国の望む戦いか」


 答えはない。


 ただ。


 また一つ、爆発が起きる。


 地上が削れる。


 その瞬間。


「……もういい」


 低い声。


 別の兵が、手綱を強く握る。


「……見ているだけなど」


「……できるか」


 誰も、止めない。


 止められない。


「――誇り高きノクティア教国軍達よ 行くぞ」


 その声は、静かだった。


 だが。


 次の瞬間。


 一機が、飛び出す。


 一直線に。


 飛行艇へ。


「おい、待て――」


 声は届かない。


 加速。


 砲撃。


 だが、止まらない。


「神は……」


 その兵が、叫ぶ。


「……見ている!!」


 衝突。


 爆発。


 飛行艇の側面が、抉れる。


 一機。


 そして、もう一機。


 さらに。


 教国の飛竜部隊が、次々と飛行艇へ己ごと、突っ込んでいく。


「……おい」


 ガイアスが、言葉を失う。


 止まらない。


 誰も。


 止まらない。


(……これが)


 信仰。


 命よりも優先されるもの。


 理解できない。


 だが。


 目を逸らすことは、できなかった。


 彼らの捨て身の行動により、飛行艇の動きが、乱れる。


 姿勢が崩れる。


 砲撃が止まる。


「……今だ」


 ガイアスが言う。


 俺も、頷く。


 この瞬間しかない。


「ヴェントラ、行くぞ」


 加速。


 一直線。


 エルンストが、立ちはだかった。


「……来ると思っていた」


 静かに言う。


 逃げない。


 真正面から、来る。


 距離が詰まる。


 衝突。


 再び、刃がぶつかる。


 だが。


 先ほどとは違う。


 鍵が、反応するのが分かった。


 微かに。


 震える。


(……いる)


 俺の目の前。


 エルンスト。


 対の鍵が揃って震えている。


『対の鍵が揃った時、初めて我々は神を降臨させることができるの』


『二人の鍵が遺構に揃えば、神は願いを聞き入れる』


 俺はレグナの声を思い出す。


(こいつを遺構にさえ、連れていければ… 神が降臨する…)


 俺とヴェントラはエルンストに向かって突っ込む。


 奴を捕まえるために。


 右手に握りしめた風牙槍を奴のワイバーン目掛けて、突き放つ。


 エルンストも剣で対抗する。


 空で拮抗する。


 何度も。


 互角の戦いが続いた中。


 活路を開いたのは。


 ヴェントラだった。


 一心同体になっていた俺とヴェントラは、


 俺とエルンストが拮抗している中、


 エルンストのワイバーンの翼に後ろ脚で穴を空けた。


「ピュエーーーっ!!」


 エルンストのワイバーンが叫ぶ。


「――っ!?」


 高度を落とし、落下していくエルンスト。


 だが、


 巧みにワイバーンを操り、近くの飛行艇甲板に不時着をした。


 俺もヴェントラから飛び降り、甲板に降り立つ。


 目の前に。


 怪我をしたエルンスト。


 飛行艇には帝国兵達。


 ただ。


 目の前に全てを終わらせる鍵がいる。

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