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第四十三話「蒼鷹と黒翼」

 空が、明らかに変わった。


 先ほどまでの混戦とは違う、張り詰めた重さが空一面に広がり、風の流れさえもどこか鈍く感じられる。


(……来たか)


 ヴェントラはいつも通りだ。怯えてはいない。ただ、戦いの“質”が変わったことを、本能で理解している。


「……クロノス」


 ガイアスが、わずかに声を落として言う。


「分かってる」


 視線の先。


 黒い影が、一直線にこちらへ向かってくる。その軌道には迷いがなく、ただ“狙う”という意志だけが乗っている。


 速い。


 だが――見える。


 黒鱗のワイバーン。その上に立つ男。


 ヴァルター。


 視線が交わる。


 一瞬だけだったはずなのに、その一瞬で、互いの距離も、力も、すべてが理解できてしまう。


(……来る)


 加速。


 風を裂く直線的な突撃。回避の余地を残さない、殺意そのものの軌道。


 俺は手綱を引く。


 ヴェントラが即座に反応し、空中で体勢を崩すようにして軌道を外す。


 すれ違う。


 その一瞬で、空気が斬り裂かれる。


「……相変わらずだな」


 息を吐きながら、低く呟く。


 ヴァルターは何も言わない。


 ただ、もう一度来る。


 次の一撃は、さらに速い。


 先ほどよりも深く、鋭く、逃げるだけでは追いつかれる速度。


「ガイアス、下がれ!」


「分かってる!」


 二手に分かれる。


 だが、追ってくるのは――俺。


(……やっぱりな)


 最初から決まっている。


 狙いは、“鍵”。


 距離が詰まる。


 今度は、逃げない。


 風牙槍を構える。


 腕に力を込める。


「――来いよ」


 衝突。


 金属同士がぶつかる鈍い音と同時に、火花が散る。


 重い。


 腕が軋むほどの圧。


 だが――受けきれる。


 その瞬間、雷を纏わせる。


「――っ!」


 雷撃(サンダー)を叩き込む。


 完全には通らない。だが、確かに“触れた”。


 ヴァルターの動きが、ほんのわずかに鈍る。


(通る……!)


 踏み込む。


 もう一歩、距離を詰める――


「――下がれ」


 低く、重い声。


 横から叩き込まれる衝撃。


 弾かれたのは――ヴァルター。


「……蒼鷹」


 その名を、ヴァルターが呟く。


 青白い翼が、視界を覆う。


 オルディウス。


「悪いな」


 オルディウスが、わずかに笑う。


「ここからは、俺の仕事だ そっちは任せたぞ」


「了解です」


 即答する。


 迷いはない。


 あの領域は、俺たちが踏み込んでいい場所じゃない。


 次の瞬間。


 二人の姿が、視界から消えた。


 いや――速すぎて、見えない。


 直後、空が爆ぜる。


 衝撃波が遅れて体を揺らし、耳鳴りのような音が遅れて届く。


「……なんだ、今の」


 ガイアスが、呆然と呟く。


 答えられる者はいない。


 空に、黒い雷が走る。


 直線ではない。空間そのものを歪めながら進む、不規則な閃光。


 ヴァルターの魔法。


 それを、オルディウスが風で逸らす。


 受け止めるのではなく、流れを変え、ねじ曲げ、消し飛ばす。


 そして、そのまま返す。


 圧縮された風刃が、空を切り裂く。


 ヴァルターが受ける。


 だが止まらない。


 踏み込む。


 距離が一瞬で詰まる。


 ワイバーン同士が噛み合う。


 牙がぶつかり、翼が打ち合い、体当たりで空間ごと押し潰す。


 同時に。


 剣と槍が交差する。


 連撃。


 止まらない。


 一撃ごとに、空が震える。


 速い。


 重い。


 隙がない。


(……無理だ)


 理解する。


 あの戦いは、“別物”だ。


 技術でも、魔法でもない。


 積み上げてきた“戦いそのもの”が違う。


 入れば、死ぬ。


「クロノス!」


 ガイアスの声で、現実に引き戻される。


 そうだ。


 俺たちの役割は、別にある。


「……飛行艇だ」


「行くぞ!」


 方向を切り替える。


 背を向ける。


 その一瞬だけ。


 最後に振り返る。


 オルディウスが踏み込む。


 風が一点に収束する。


 同時に。


 ヴァルターが黒い雷を解放する。


 二つの力が、正面からぶつかる。


 爆発。


 空が、裂ける。


 視界が白と黒に塗り潰される。


 ――そこまでだった。


「――行くぞ!!」


 叫ぶ。


 ヴェントラが一気に加速する。


 飛行艇へ。


 もう後ろは見ない。


 遠くの空で、何度も光が弾ける。


 遅れて届く衝撃が、あの戦いの激しさを物語っていた。


(……あれが、頂点か)


 息を吐く。


 だが。


 立ち止まる理由にはならない。


 俺たちは、俺たちの戦いをする。


 空は、まだ終わっていない。

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