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第三十四話「揺れる均衡」

 帰還は、静かだった。


 歓声も。


 祝賀も。


 ない。


 ただ、日常が戻ってくる。


 それだけだった。


(……終わった、わけじゃない)


 城の廊下を歩く。


 足音が、やけに響く。


「……大変だったわね」


 横から声。


 視線をずらす。


 レグナが、すぐ隣にいた。


 自然な距離。


 あの連邦での一件以来。


 少しだけ。


 当たり前になった距離。


「……そうでもないです」


 軽く返す。


「強がり?」


 少しだけ、笑っている。


「事実です」


「ふふ」


 レグナが、小さく笑う。


「じゃあ、私が足を引っ張ってたってことかしら」


「それは否定しません」


 一瞬の間。


 そして。


「ひどいわね」


 でも。


 声は、どこか楽しそうだった。


 軽い。


 戦場では見せない空気。


 歩く。


 並んで。


 言葉は少ない。


 でも。


 沈黙が、苦じゃない。


 部屋に入る。


 机の上に、書類の山が。


「連邦からの対価よ」


 レグナが言う。


「今回の件の“詫び”」


 書類に目を通す。


 書類のリストには。連邦からの贈り物が。


 武器。


 弾薬。


 補給物資。


 大量に。


「……それにしても気前がいいですね」


「口封じ、でしょうね」


 レグナが淡々と言う。


「内部の問題を、外に出したくない」


「だから、こちらに貸しを作る」


 合理的だ。


 そして。


 信用はできない。


「使えますね」


 俺が言う。


「ええ、使うわ」


 即答。


「利用できるものは、全部使う」


 迷いはない。


 王の判断。


 だが。


 その横顔は。


 どこか、柔らかった。


 それから、俺とレグナは保管庫にいった。


 実際に連邦からの物資を見るために。


 自分達の目で物資を確認する。


 そして、


 物資の確認が終わった後。


 部屋には、俺とレグナ二人だけが残った。


「……本当にかなりの量でしたね」


 机の上に並ぶ書類を見ながら、俺は言う。


「ええ。連邦にしては、ずいぶん気前がいいわ」


 レグナは、淡々と書類をめくる。


 だが。


 これはただの“詫び”じゃない。


 俺は一枚の資料を手に取る。


「……一つ、報告があります」


 視線が向けられる。


「何かしら」


「カインから聞いた情報です」


 一拍。


「帝国は、飛行艇を実戦投入してきます」


 空気が、少しだけ変わる。


「……やはり、来るのね」


 驚きはない。


 分かっていた、という顔だった。


「対策はお考えですか」


 俺の問いに。


 レグナ女王は、別の資料を差し出す。


「あるわ」


 即答だった。


「これは、連邦から送られてきた物資の一部」


 物資の中身に目を通す。


「……粉末?」


「高熱反応を起こす特殊な物質よ」


「一定条件で、一気に温度を上げる」


 嫌な予感がした。


「……それを」


 レグナ女王が、静かに頷く。


「飛行艇のタービンに入れるの」


 一瞬で理解する。


「……オーバーヒートさせる、と」


「ええ」


「まあ、まだこの物資だけでは完成系ではないけどね」


 さらりと言う。


「空で止める」


 一拍。


「落とすわ」


 静かな声だった。


 だが。


 それが“戦争”だ。


「……運用は」


「ワイバーン部隊に散布させる」


「接近戦でね」


 迷いがない。


 すでに決まっている。


「……準備済み、ということですか」


 レグナ女王は、わずかに微笑む。


「ええ。飛行艇が出てくるなら、空で止めるしかないでしょう」


「量産体制を今は整えているわ 量産までに時間がかかるのが難点だけどね」


 一拍。


 そして、視線が少しだけ鋭くなる。


「……だから」


 俺は顔を上げる。


「もう一つ、手を打ってあるわ」


「それは…何でしょうか」


 短く問う。


 レグナ女王は、まっすぐにこちらを見る。


「元帥を呼び戻したわ」


 静かに告げる。


「……蒼鷹(そうよう)オルディウス」


 その名前に。


 空気が、わずかに張り詰める。


「……本気ですね」


 俺の言葉に。


 レグナ女王は、ほんの少しだけ笑った。


「最初から、そのつもりよ」


 その一言で。


 すべてが繋がる。


(……この人は)


(最初から、ここまで見ていたのか)


 そして。


 ふと。


 空気が、少しだけ緩む。


「……それにしても」


 レグナ女王が、ふと呟く。


「あなた、ああいう場でも落ち着いてるのね」


「慣れてるだけです」


「陸軍時代?」


「ええ」


 一瞬、沈黙。


 だが。


 重くはない。


「……頼りになるわね」


 ぽつりと。


 自然に出た言葉。


 クロノスは、少しだけ視線を外す。


「……どうも ありがとうございます」


 それだけ。


 でも。


 悪くない。


――ゼフィラ帝国


 帝国の工廠。


 巨大な構造物。


 鉄の塊。


 翼。


 人の技術。


 音が響く。


 機体が、ゆっくりと浮く。


 不安定。


 だが。


 確かに、空へ。


「……成功です!!」


 技術者が言う。


 その様子を見ている男。


 ヴァルター。


 目を細める。


「空は」


 低く呟く。


「我々、ゼフィラ帝国のものだ」


 その言葉は。


 確信だった。


――アストレア王城


 城の外。


 俺は空を見上げる。


 最近よく見上げている気がするが。


 変わらない空。


 だが。


 何かが変わり始めている。


 見えないところで。


 確実に。


(……次は、もっと激しくなる)


 戦いは、終わっていない。


 むしろ。


 ここからだ。


 そして。


 その中で。


 自分が、何を選ぶのか。


 まだ、答えはない。


 だが。


 時間は、待ってくれない。


 静かな空の下で。


 次の戦いが、近づいていた。

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