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第三十三話「その名を呼ぶ理由」

 リュミエル連邦からの打診は、突然だった。


 表向きは中立。


 だが実態は、どちらにも手を貸す国家。


 その内部から。


 “王国寄り”の一派が、密かに接触してきた。


「関係を、修復したい」


 それが、名目。


 だが。


(そんな都合のいい話があるか)


 罠の可能性は高い。


 それでも。


 女王は、受けた。


 理由は一つ。


 確かめるためだ。


 リュミエル連邦 首都にある城内の一室。


「……この書式、連邦の形態に合わせた方がいいのよね?」


 簡素な机。


 その前に座るのは。


 政務官の姿をした女。


 レグナ女王だ。


 女王の役割は影武者に任せている。


 クロノスは、その後ろに控えている。


「はい、その方が自然です」


 淡々と答える。


 いつもは命令する側。


 今は、指示を受ける側。


 だが。


「……こういうの、悪くないわね」


 レグナ女王が、書類をめくりながら呟く。


「新鮮だわ」


 小さく笑う。


 肩の力が抜けている。


 “女王”ではない顔。


(……楽しんでるな)


 クロノスは内心で呟く。


「そろそろ時間です」


「ええ、行きましょう」


 立ち上がる。


 一瞬で、空気が変わる。


 そして、顔の表情が変わった。


 連邦の会議室。


 円卓。


 向かいに、連邦代表。


 穏やかな笑顔。


 整った言葉。


「本日はお越しいただき、感謝いたします」


「こちらこそ」


 形式的なやり取り。


 その後。


「最近は硝石の流通が活発になっているようで」


 代表が続ける。


「各国とも、防衛意識が高まっているようです」


 柔らかい言い方。


 だが。


(売ってるのはお前らだろ)


 クロノスは、何も言わない。


 続けて。


「王国の特産品も、最近は人気だと聞きます」


「特にミナス産ワインは本当に上物ですね」


 笑顔。


 だが。


(牽制か)


 特産品の話はあくまでも、戦争とは無縁の印象操作。


 つまり。


「戦場の国ではない」と言いたい。


(……腹の探り合いだな)


 レグナ女王は、微笑みを崩さない。


「連邦の港湾も評判ですよ」


「物流の拠点として、非常に優秀だとか」


 一見、褒めている。


 だが。


(武器流通の中心だろ)


 遠回しに、突いている。


 空気は穏やか。


 だが。


 刃が見えないだけだ。


 その時。


 レグナ女王が、わずかに視線を送る。


 小さく。


「ここでは、“リア”で」


 低い声。


 愛称。


(……リア)


 一瞬、考える。


 距離が近い。


 だが、必要な距離だ。


「……分かりました、リア」


 少しだけぎこちなく言う。


 レグナは何も言わない。


 だが。


 わずかに口が柔らいでいた。


 会話は続く。


 穏やかに。


 滑らかに。


 だが。


(……ズレてる)


 言葉は正しい。


 でも。


 本音が見えない。


 その時。


 空気が変わる。


 わずかに。


(……来る)


 爆音。


 壁が崩れる。


 武装集団が突入。


 連邦の紋章。


 だが。


 正規ではない。


(過激派)


「対象を確保しろ!」


 狙いは明確。


「行きます!」


 クロノスが手を引く。


 走る。


 煙。


 混乱。


 護衛は分断。


 二人だけ。


「左です!」


 即断。


 通路へ。


 敵が来る。


 斬る。


 弾く。


 雷撃(サンダー)で沈める。


 だが。


 数が多い。


 囲まれる。


「このままだと――」


 レグナが前に出る。


「私が引きつける」


 迷いがない。


(違うだろ)


 反射的に叫ぶ。


「やめろ、レグナ!」


 ――止まる。


 一瞬。


 空気が凍る。


(……しまった)


 愛称じゃない。


 本当の名前。


 無意識だった。


 レグナは、一瞬だけ目を細める。


 だが、すぐ戻す。


「……なら、どうするの」


 対等な声。


「突破する」


 即答。


「ついてきて!」


 レグナが、わずかに笑う。


「命令?」


「提案です」


「なら、乗るわ」


 動く。


 二人で。


 出口目前。


 銃声。


 敵が倒れる。


「……遅いですね」


 カインだった。


「もう少し余裕かと思っていましたが」


 敬語だが軽い印象。


 懐かしい感じだ。


「助けに来ました」


 一拍。


「……半分は本当です」


 淡々と敵を処理する。


「連邦も一枚岩ではありません」


「ご理解いただけましたか」


「……ああ」


 短く返す。


 静寂。


 外へ出る。


 風。


 空気が軽い。


 レグナが、少しだけ息を整える。


 そして。


「……さっきの」


 こちらを見る。


 わずかな間。


 クロノスが口を開く。


「……すみません」


 だが。


 レグナが、遮る。


「いいの」


 静かに言う。


「気にしないわ」


 それだけ。


 でも。


 確かに。


 距離が変わった。


 役割ではなく。


 名前で繋がる距離へ。

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