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第二話「侵攻、そして指名」

 着地した瞬間、膝が笑った。


 地面に降りたはずなのに、まだ体が空に残っているみたいだった。


「……は……」


 息を整える暇もない。


 周囲はざわついたまま、誰も近づいてこない。


 その中心に、俺と――ヴェントラ。


 そして。


 白銀の装甲のワイバーンに乗った女王。


「早く降りんか!クロノス 女王の御前だぞ」


 駆け付けた教官に怒鳴られた。


 俺は慌てて地面に膝をつく。


「…申し訳ございません! それに無断であのワイバーンに――」


「いいえ」


 言葉を遮られる。


「むしろ、望んでいたわ」


「……え?」


 顔を上げる。


 女王は、まっすぐヴェントラを見ていた。


「その子に乗れる者が現れることを」


 沈黙が落ちる。


 意味が、分からない。


 ただ一つ分かるのは――


 これは偶然じゃない、ということだけだ。


「あなたが、陸軍から転属してきたクロノスね…」


 女王に自分の存在を知られていた。どこまで把握されているのかは分からないが。


「あなたは竜騎兵団がこの国で特別視されている理由を理解している?」


 陸軍から竜騎兵団に転属する際に教官と話した内容を思い出す。


「はっ! 空を自由に飛べる竜は戦闘面で有利に働くことは勿論のこと、高速運輸も可能にするため――」


「…間違ってはいない… ただ本質ではないわね」


 周りを見渡す。


 片膝を地面に付けている同期や教官達。同期は自分だったらこう答えるだろうと思考しているようだ。教官はいつもの強面ではなく、焦りが顔に出ていた。


「この国には、古くから一つの役目がある」


 女王の声は、淡々としていた。


「神を、この地に迎えること」


 ざわ、と空気が揺れた。


 聞いたことがない話じゃない。


 でもそれは、昔話の中の話だと思っていた。


「神の降臨は、災厄から国を守る」


  女王は続ける。


「だが同時に――」


 一瞬だけ、言葉が止まった。


「空を変える」


 嫌な予感が、背筋をなぞる。


 思わず、ヴェントラを見る。


 白色の翼が、静かにたたまれていた。


「神が降りれば、戦は終わる」


「……え?」


「だが同時に――空は、神のものになる。天気も、身体を撫でるあの風も、飛ぶことすら……すべて。そして、空を飛ぶ者はいなくなる。ワイバーンも含めて」


 言葉が理解できない。


 いや、理解したくなかった。


「だから、この国は長く迷ってきた」


 女王の目が、ほんのわずかに揺れる。


「神を呼ぶか、それとも空を守るか」


 喉が、乾く。


 視界の端で、誰かの顔が見えた。


 ――ウェナス。


 心配そうに、こっちを見ている。


 その隣には、ユークス。


 二人は、並んで立っていた。


 いつも通りの距離で。


(……ああ)


 なぜか、その光景が胸に刺さる。

 

 そのときだった。


 空を裂くような音が響く。


 一騎のワイバーンが、ほとんど滑空するように訓練場へ突っ込んできた。


「道を空けろ!」


 着地も荒い。


 騎兵は転がるように降りると、そのまま女王の前に膝をついた。


「陛下!」


 息も整えないまま、叫ぶ。


「沿岸防衛線、突破されました!ゼフィラ帝国のワイバーン部隊、領空内に侵入!」


 ざわめきが、一瞬で恐怖に変わる。


 誰もが言葉を失う中で。


「規模は」


 女王だけが、冷静だった。


「小隊規模……ですが、先行偵察ではありません。交戦意思あり!」


「……そう」


 短く息を吐く。


 迷いは、一切なかった。


「第一騎兵団を発進。第二は上空待機」


 振り返りもせずに命じる。


「迎撃するわ」


 その一言で、場が動いた。


 そして。


 女王の視線が、こちらに向く。


「……クロノス」


 心臓が跳ねた。


「あなたも来なさい」


 拒否なんて、できるはずがなかった。

 


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