第十八話「同じ空の下で」
風が、低く唸っている。
高度を上げる。
視界が開ける。
空は、どこまでも澄んでいた。
(……来ている)
まだ遠い。
だが、分かる。
“同じもの”が、この空にある。
もう一つの鍵。
「隊長、前方に敵影」
部下の声。
「数は少数」
「……予定通りだ」
短く答える。
敵は、誘導されている。
情報は、流してある。
リュミエル連邦を通じて。
そして。
その中には――
(王国の情報員がいる)
名は知らない。
だが、役割は明確だ。
“こちらに導くこと”。
「交戦しますか?」
「不要だ」
「配置を維持しろ」
「散開」
部隊が広がる。
護衛ではない。
探索だ。
空の流れを見る。
敵の動き。
その先。
(……近い)
微かに、反応がある。
曖昧な感覚。
だが、確実だ。
(いる)
同じものを持つ存在が。
この戦場に。
「隊長、敵、降下してきます」
「問題ない」
「予定通りだ」
敵は、罠に気づいていない。
だが。
(……一人だけ)
動きが違う。
わずかに。
配置を見る視線。
迷いではない。
“違和感を拾っている”動き。
(……あれか)
確証はない。
だが。
感覚が一致する。
(鍵)
心臓が、わずかに強く打つ。
その瞬間、ふと過去を思い出した。
あの男、ヴァルターは、多くを語らない。
だが。
必要なことは、必ず残す。
「エルンスト」
「お前に一つ、任務を与える」
低い声。
「鍵になれ」
それだけだった。
「……神を呼ぶため、ですか」
一応、確認する。
「違う」
即答だった。
「止めるためだ」
視線が向く。
鋭い。
「神は、空を支配する」
「一度でも降りれば、終わる」
「……では、なぜ鍵を」
「敵も持っているからだ」
短い言葉。
「持たぬ者は、止めることすらできん」
沈黙。
「……了解しました」
それ以上、聞く必要はなかった。
あの人は。
常に正しい。
だから、従う。
(止める)
それが任務だ。
神を。
そして。
その鍵を持つ者を。
「隊長、交戦距離に入ります」
「構わない」
「だが、深追いするな」
「目的は戦闘ではない」
「はい!」
部隊が動く。
だが。
俺の視線は、別にある。
(……見つける)
あの中にいる。
違和感を拾った者。
それが。
もう一つの鍵。
風が変わる。
一瞬だけ。
確かに。
繋がった。
(……お前か)
姿は見えない。
だが、分かる。
同じものを持つ存在。
空のどこかで。
同じように、こちらを探している。
敵のワイバーン部隊がこちらの伏兵に気づいて対応をした。
素早い。
そして、隊の穴を確実に貫いてきた。
あの男だ。
(気づかれたか…)
高度を上げる。
距離を取る。
今はまだ。
お前と戦う時ではない。
だが。
(いずれ)
必ず、交わる。
その時。
止める。
神も。
そして――
お前も。




