第十七話「見えないズレ」
「敵補給部隊を確認」
「カインからの情報だ」
教官の声が、静かに響く。
(カインの情報か……)
(昨日の違和感)
(……気のせいならいいが)
「規模は小さい」
「だが、前線に物資が届けば戦況が変わる」
「カインって、あの伝令か?」
ガイアスが言う。
「そうだ」
「情報の精度は悪くない」
「だが――」
教官が一瞬だけ間を置く。
「鵜呑みにはするな」
「最終判断は現場で行え」
「了解」
カインから情報のあった現場へ急行する。
地上に、荷車。
護衛のワイバーン。
「……情報通りだな」
ガイアスが言う。
「数も一致してる」
だが。
(……違う)
胸の奥が、引っかかる。
何かが、ズレている。
「クロノス?」
「……待ってくれ」
視線を落とす。
荷の配置。
隊列。
動き。
(少なすぎる)
「……おかしい」
「何がだ?」
「護衛が少ない」
「これじゃ、防衛になってない」
一瞬、間が空く。
そのとき。
上空。
気配。
「――来るぞ!」
雲の中から、敵影。
「伏兵か!」
「散開!」
ヴェントラが加速する。
風牙槍を構える。
突っ込む。
一撃。
敵を貫く。
だが、数が多い。
「情報と違うぞ!」
ガイアスが叫ぶ。
「罠だ!」
ユークスが判断する。
「撤退――」
「待て!」
思わず叫ぶ。
一瞬、全員が止まる。
「地上は囮だ」
「本隊は、こっちだ!」
空を見る。
敵の配置。
動き。
守っている?。
(……何かを)
確証はない。
だが。
(いや…これはただの伏兵じゃない)
(これは――)
敵の配置を見る。
守っているんじゃない。
(探している……?)
動きが、一定じゃない。
散開している。
“何かを探るように”
(……まさか)
胸がざわつく。
(鍵……?)
確証はない。
だが。
俺と同じ“目的”の動きに見えた。
(敵も、動いている)
(探している)
(俺と同じものを)
空を見る。
まだ見えない。
だが確実に。
近づいている。
同じ動きをしているからこそ分かる。
隊列の穴が。
「ここを崩せば、全体が崩れる!」
一瞬の沈黙。
ユークスが頷く。
「……乗る」
「ガイアス!」
「おう!」
三方向。
同時に動く。
クロノスが先に位置を取る。
ガイアスが合わせる。
ユークスが締める。
連携。
噛み合う。
「行くぞ!」
雷撃を放つ。
直撃。
中心が崩れる。
敵の動きが乱れる。
「押し切れ!」
一気に叩く。
敵ワイバーン部隊は強襲が失敗したことを悟る。
そして、一斉に散り散りになって戦場から離脱した。
「……やるじゃねぇか」
ガイアスが笑う。
「気づいたの、お前だけだぞ」
「……違和感があっただけだ」
ユークスが静かに言う。
「それで十分だ」
「命を拾った」
短い言葉。
でも、重い。
空を見上げる。
(敵も、鍵を持っている)
さっきの配置。
守っていた何か。
(あれが……)
まだ分からない。
だが。
(近い)
確実に。
戦いは、ただの戦闘じゃない。
その奥にあるものへ、近づいている。
ヴェントラが、低く鳴いた。
風が、静かに流れる。
次にぶつかるとき。
それはきっと――
“鍵”同士だ。




