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第十六話「嘘が正しい戦場」

 呼び出しを受けたのは、夕方だった。


「クロノス、来い」


 案内されたのは、王城の一室。


 普段、俺が入るような場所じゃない。


(……会議室か)


 扉の前で止まる。


「入れ」


 中から声。


 扉を開ける。


 空気が違った。


 長机。


 その周りに並ぶ、軍の上層部。


 そして。


 奥に、レグナ女王。


 視線が、一斉に向く。


(……場違いだな)


「クロノス、前へ」


 言われるままに進む。


「今回呼んだ理由は分かる?」


「……いえ」


「“鍵”に関わるからよ」


 短く答える。


「そしてもう一つ」


 レグナ女王の視線が、わずかに鋭くなる。


「これからの戦争の話をする」


 空気が、さらに重くなる。


「ゼフィラ帝国は、攻勢を強めている」


「各地で戦闘が拡大」


「我が国単独では、いずれ押し切られる」


 ざわめき。


「では同盟を――」


「簡単ではない」


 別の声。


「各国の思惑がある」


「神の降臨を支持する国もあれば」


「否定する国もある」


「そして」


 レグナが口を開く。


「リュミエル連邦」


「……中立国家」


「ええ」


「だが」


「最も厄介な国でもある」


 わずかな沈黙。


「彼らは、情報で戦う」


「どちらにも与せず」


「どちらにも影響を与える」


(情報で戦う……)


 誰かが呟く。


「情報戦だと我々の諜報部は、後手に回ってるな… 早急に諜報部は対応を」


「虚偽情報をばらまく事は可能だ… そちらが火力重視ばかりしている間に我々諜報部はな――」


「主戦場は陸軍が抑えているんだ… ゼフィラ帝国を沿岸部まで接近させたのは諜報部の情報が遅かったからだろう」

 

「抑えているだと… 現状ゼフィラ帝国が優勢だぞ 兵士には我々アストレア王国が優勢だと言い聞かせているようだがね」


「現状の真実を逐一説明する訳ないだろう 兵士の士気を高めて将来勝つことさえ出来ればいいのだから」


 その言葉が、重く落ちた。


 気づけば、口を開いていた。


「それでいいんですか」


 視線が集まる。


「嘘を使って戦うのが」


 言ってから、少しだけ後悔する。


 だが。


 レグナは、目を逸らさない。


「必要よ」


 即答だった。


「この戦争は、本音だけでは勝てない」


「情報も、武器になる」


「それが、現実よ」


 静かな声。


 でも。


 迷いはない。


(……そうか)


 納得は、できない。


 でも。


 理解はできる。


 苛立った様子の軍幹部が話をリュミエル連邦へと戻す。


「リュミエル連邦は、依然として中立を維持しています」


「ですが」


 語気が強い。


「情報の流れは、確実に操作されています」


「つまり」


「我々の中にも“手”が入っている可能性がある」


「……スパイ、か」


 重い沈黙。


「現に、情報の精度に差が出ている」


「そこでだ」


 別の幹部が口を開く。


「情報の整理と分析を担っている者を、今回呼んでいる」


 視線が、扉へ向く。


「入れ」


 静かに扉が開く。


「失礼します」


 一人の男が入ってくる。


 無駄のない動き。


「伝令兼、情報支援を担当しております、カインと申します」


 丁寧に一礼する。


 その所作が、やけに整いすぎていた。


(……なんだ)


 自然すぎる。


 引っかかる。


「各戦線の情報をまとめております」


「今回の敵の動きも、いくつか傾向が見えています」


 落ち着いた声。


 だが。


(……何かが違う)


 理由は分からない。


 ただ、違和感だけが残る。


 軍部会議が終了し、俺は廊下に出る。


「クロノス殿、ですよね」


 振り向く。


 カインだった。


「……ああ」


「戦闘記録、拝見しております」


 軽く微笑む。


「連携の改善、進んでいるようで何よりです」


(……そこまで見てるのか)


「情報は、戦いを左右します」


「特に、“少しの違い”が」


 言葉を選ぶように言う。


「気づけるかどうかで」


 一瞬、目が合う。


 その視線。


 どこか、測られているような感覚。


「……そうか」


 短く返す。


「ええ」


「些細な違和感ほど、見落とされやすいですから」


 それだけ言って、去っていく。


(……違和感、か)


 妙に、言葉が残った。


 頭の中の靄が晴れないまま、俺は王城の中庭で少しだけ空を眺めていた。


「何かを感じ取ったようね」


 声が聞えた方を見ると、


レグナ女王だった。


「少し、いいかしら」


「……はい」


 二人きりになる。


「さっきの話」


「納得できない?」


「……はい」


「嘘は、嫌いです」


 正直に言う。


 レグナ女王は、静かに頷く。


「知っているわ」


「でも」


「嘘に慣れている者ほど」


「“違和感を流す”ようになるの」


「違和感を感じても」


「それを疑う前に、処理してしまう」


「都合のいい形で」


 少しの沈黙。


「だから」


「あなたのように、それを嫌う者は」


「小さなズレを、そのまま拾う」


 カインの言葉が重なる。


『些細な違和感ほど、見落とされやすい』


(……同じことを言っている)


「あなたには、それができる」


 まっすぐな視線。


「戦うだけじゃない役割がある」


「……見る側、ですか」


「ええ」


 わずかに微笑む。


「期待しているわ、クロノス」

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