第百四十七話「交差する意志」
静寂が落ちた。
先ほどまでの歓声が。
嘘のように消えている。
中央の舞台。
向かい合う二人。
クロノス。
そして――
ガイアス。
風が、ゆっくりと流れる。
どちらも、動かない。
ただ。
互いを見ている。
「……遅かったな」
クロノスが、口を開く。
いつも通りの、ため口。
ガイアスは、軽く笑う。
「寄り道してた」
「空の下をな」
その言葉。
意味を知っているのは、ほんの一部。
クロノスの目が、わずかに開かれる。
「……まさか…」
ガイアスは、答えない。
ただ。
剣を抜く。
それが答えだった。
「……来いよ」
クロノスも、剣を構える。
その瞬間。
空気が、切り替わる。
――踏み込む。
同時。
剣と剣が、ぶつかる。
鈍い音。
重い。
互いに、引かない。
力だけではない。
技。
間合い。
読み。
すべてが、ぶつかっている。
観客席。
誰も、声を出さない。
理解している。
これは。
“別格”だと。
クロノスが、一歩引く。
すぐに踏み込む。
速い。
だが。
ガイアスは、受ける。
弾く。
返す。
剣が、何度も交わる。
火花が散る。
だが。
どちらも、致命には行かない。
分かっているからだ。
この戦いの意味を。
「……強くなったな」
クロノスが言う。
息を乱さず。
ガイアスが、笑う。
「お前もな」
短い会話。
だが。
すべてが込められている。
一瞬。
距離が空く。
互いに、構える。
次の一撃で。
決まる。
誰もが、そう感じた。
そして――
踏み込む。
ガイアスの一歩が、わずかに遅れる。
クロノスの剣が、先に届く。
首元。
止まる。
勝負あり。
沈黙。
そして。
爆発する歓声。
「おおおおおお!!」
観客が、総立ちになる。
誰もが理解した。
今の戦いが。
頂点だったと。
クロノスは、息を吐く。
「……終わりだな」
低く言う。
だが。
その目は、ガイアスから外さない。
「……なんでだ」
一言。
核心を突く。
「今の」
「外したな」
ガイアスは、否定しない。
ただ。
静かに笑う。
「バレたか」
軽く言う。
だが。
その目は、真剣だった。
「お前が行け」
その一言。
場の空気が、変わる。
「……鍵は、お前だ」
「選ばれるべきも、お前だ」
クロノスは、歯を食いしばる。
言い返そうとする。
だが。
言葉が出ない。
分かっているからだ。
「……俺は」
ガイアスが続ける。
「道を空けただけだ」
視線を、少しだけ後ろへ。
倒れている参加者たち。
すべて。
自分が排除した。
クロノスのために。
「……勝手に決めんな」
クロノスが言う。
小さく。
だが。
否定はしない。
できない。
ガイアスは、笑う。
「任せた」
それだけ言って。
剣を収める。
背を向ける。
その背中。
どこか、軽かった。
クロノスは、一人残る。
剣を握ったまま。
空を見上げる。
舞台の中心。
選ばれた位置。
そこに、立っている。




