第百四十六話「選ばれし者」
戦いは、続いていた。
中央の広場。
何度もぶつかり合い。
何度も倒れ。
そして。
残る者は、わずかになっていた。
石の上に立つ者。
数名。
それぞれが、強者。
観客の視線が、集中する。
終盤。
誰もが感じていた。
――次が、決まる瞬間だと。
その時。
空気が、変わった。
塔が、微かに光る。
風が、止む。
アルヴェリオが、ゆっくりと前に出る。
そして。
静かに、告げる。
「――これより」
「降臨者を、裁定する」
ざわめきが走る。
その言葉。
重い。
ただの勝者ではない。
“神に選ばれる者”。
その決定。
アルヴェリオは、続ける。
「候補者――」
一拍。
「クロノス・アストレア」
会場が、爆発する。
「おおおおお!!」
歓声。
どよめき。
誰もが知っている名。
神を降臨させた男。
王国の英雄。
そして――
“鍵”。
観客席。
クロノスは、静かに立っていた。
すでに。
覚悟はできている。
レグナが、横を見る。
「……行くのね」
クロノスは、軽く息を吐く。
「まあな」
少しだけ、笑う。
「呼ばれたし」
軽い口調。
だが。
その目は、鋭い。
レグナは、ほんの少しだけ近づく。
「……無理はしないで」
短い言葉。
だが。
すべてが込められている。
クロノスは、頷く。
「分かってる」
そして。
「すぐ終わらせる」
それだけ言って。
舞台へ降りる。
一歩。
また一歩。
静かに歩く。
中央へ。
残っていた戦士たちが、構える。
その目。
警戒。
恐れ。
そして。
覚悟。
クロノスは、剣を抜く。
「……来い」
短く言う。
次の瞬間。
一斉に襲いかかる。
魔法。
剣。
連携。
だが――
クロノスは、止まらない。
一人。
弾く。
もう一人。
叩き伏せる。
動きは、最小。
だが。
無駄がない。
次々と。
戦士たちが倒れていく。
歓声が、さらに大きくなる。
「すげえ……」
「これが……」
誰もが、理解する。
“格”が違うと。
クロノスの周辺にいた最後の一人が、崩れる。
そして、クロノスは、立っていた。
静かに。
その時。
再び。
空気が、変わる。
ざわめき。
視線が、流れる。
会場の外縁。
一人の男が、歩いてくる。
ゆっくりと。
だが。
その一歩ごとに、空気が重くなる。
クロノスの目が、細まる。
「……おい」
小さく呟く。
そして。
男が、顔を上げる。
視線が、交わる。
一瞬で、分かる。
「……ガイアス」
その名。
確かに。
再び、舞台に現れた。




