第百四十五話「選定の焔」
鐘の音が、鳴り響く。
低く。
重く。
だが。
どこか穏やかな響き。
中央の広場。
巨大な円形の舞台。
最初の戦士たちが、向かい合う。
王国。
連邦。
教国。
海洋諸国連合。
帝国。
各国の代表。
空気は張り詰めている。
だが。
“殺気”は、薄い。
それに気づいた者も、多い。
そして――
アルヴェリオが、手を上げる。
「――本大会は」
静かな声。
「“選定”であり、“淘汰”ではありません」
ざわめきが走る。
「命を奪うことは、禁じます」
「戦闘不能、または降伏をもって勝敗とする」
一瞬の沈黙。
そして。
安堵が、広がる。
観客席。
ユークスが息を吐く。
「……殺し合いじゃないのか」
ウェナスも、わずかに肩の力を抜く。
「前情報でも一応、言われてはいたけど」
「本当に良かった…」
だが、違和感はある。
それが、小さな棘のように残った。
――王国席。
レグナとクロノス。その間にはヴェルン。
オルディアスは王国で留守番だ。
レグナは、静かに頷く。
「……なるほどね」
「これなら」
一拍。
「あなたも出られる」
クロノスが、横目で見る。
「最初からそのつもりだっただろ?」
少しだけ、笑う。
レグナも、軽く笑う。
「まあね」
そして。
視線を前へ。
「鍵を殺す意味は、ない」
その言葉。
自然に出たものだった。
「裁定者を決めるだけなら」
「そして、鍵は片方は生きている必要があるもの」
クロノスは、静かに頷く。
「ああ…」
二人とも。
“安全”だと判断していた。
――帝国席。
ヴァルターは、わずかに口元を歪める。
「……甘い」
誰にも聞こえない声。
レオハルトが、視線を向ける。
「何か」
「いや」
ヴァルターは、視線を戻す。
「そのままでいい」
むしろ。
その誤認こそが、必要だった。
――中央。
「――始めよ」
アルヴェリオの声。
次の瞬間。
戦いが始まる。
剣が交わる。
魔法が弾ける。
だが。
止めは刺さない。
叩き伏せる。
押し切る。
意識を奪う。
一人が倒れる。
だが、生きている。
審判が、手を上げる。
「勝者、連邦!」
歓声。
初めて、場が少しだけ熱を帯びる。
“競技”としての空気。
恐怖は、薄れていく。
その様子を。
リゼルは、じっと見ていた。
「……違う」
小さく呟く。
この大会。
何かが、おかしい。
塔。
空。
微かに動く装置。
そして。
“命を奪わない”というルール。
「……都合が良すぎる」
誰のためのルールか。
まだ。
答えは出ていない。
――教団側。
アルヴェリオは、静かに見ていた。
争いはある。
だが。
死はない。
「……これでいい」
そう信じる。
その隣で。
カルディスが、わずかに笑う。
「ええ」
「実に“平和的”です」
その言葉。
どこか、歪んでいた。
――中央。
戦いは続く。
倒れる者。
残る者。
選別は、進む。
だが。
誰も、まだ気づいていない。
この“平和”が。
本当は何のために用意されたものか。




