第百三十八話「小さな未来」
王国・王城庭園。
穏やかな風が、草を揺らしていた。
更に二年の歳月が経とうとしている。
戦争の気配は、もうない。
空も。
静かだった。
その中で。
小さな足音が響く。
「まってー!」
幼い声。
ヴェルン。
まだ幼いが、よく動く。
転びそうになりながらも、必死に走る。
「こっちだよ」
少し先で振り返る少女。
エリシア。
ユークスとウェナスの娘。
ヴェルンより、少し年上。
その仕草は、すでに“お姉さん”だった。
「ほら、手」
転びかけたヴェルンに、手を差し出す。
自然な動き。
迷いはない。
ヴェルンは、その手を掴む。
「……ありがと」
小さく言う。
エリシアは、少しだけ得意げに笑う。
「いいよ」
「ちゃんと見てないと危ないから」
その言葉。
どこか、大人びている。
少し離れた場所。
その様子を見ている四人。
クロノス。
レグナ。
ユークス。
ウェナス。
「……あいつ、完全に姉だな」
クロノスが笑う。
「だろ?」
ユークスが肩をすくめる。
「家でもあんな感じだ」
「勝手に面倒見始める」
ウェナスが、くすっと笑う。
「似たのかしらね」
「どっちに?」
「両方」
軽いやり取り。
穏やかな空気。
レグナは、その様子を見つめている。
優しい目。
そして。
そっと、自分のお腹に手を当てる。
気づいたクロノスが、視線を向ける。
「……大丈夫か?」
少しだけ、声を落とす。
「大丈夫」
レグナは、微笑む。
「この子も、元気よ」
その言葉。
未来が、増えていく。
クロノスは、少しだけ息を吐く。
「……賑やかになるな」
「ええ」
レグナは頷く。
「きっと」
視線は、子どもたちへ。
走る。
笑う。
転びそうになって。
支え合う。
その光景。
かつて、守ろうとしたもの。
そして。
今、確かに存在しているもの。
「……守ったな」
クロノスが、小さく呟く。
レグナは、少しだけ笑う。
「まだよ」
「これからも、守るの」
その言葉。
静かだが、強い。
遠くで。
ヴェルンが転ぶ。
「うわっ!」
「もう!」
エリシアが駆け寄る。
「だから言ったでしょ」
手を引く。
起こす。
その姿。
未来そのものだった。
風が吹く。
空は、静か。
だが。
その裏で。
世界は、確実に動いている。
誰も知らないまま。
この穏やかな時間が。
どれほど貴重なものかを。




