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第百三十七話「届かなかった真実」

 帝国・研究施設。


 扉が、静かに閉じる。


 与えられた、わずかな休暇。


 外出許可。


 それは。


 “檻の中での自由”に過ぎない。


 それでも。


 リゼルは、歩いていた。


「……今しかない」


 小さく呟く。


 時間は、限られている。


 大会が始まれば。


 すべてが、手遅れになる。


 思い出す。


 王国の動き。


 戦後。


 諜報部の強化。


 帝国にも、必ず潜り込んでいるはず。


「……いるはずよ」


 確信ではない。


 だが。


 賭けるしかない。


 帝都・市街。


 人の流れ。


 商業施設。


 運送業者の拠点。


 情報が集まり、流れる場所。


 リゼルは、意識的に歩く。


 視線を散らしながら。


 “拾われる”ことを期待して。


 そして。


「……探しているのか?」


 背後から、声。


 振り返る。


 一人の男。


 地味な服装。


 目立たない。


 だが。


 目だけが、違う。


 リゼルは、わずかに息を止める。


「……あなた」


 男は、わずかに頷く。


「王国の者だ」


 その一言。


 安堵が、胸をよぎる。


 時間はない。


「聞いて」


 人目のつかない路地裏に移動した二人。


 リゼルは、すぐに口を開いた。


 早く。


 正確に。


 要点だけを。


「神は、この星の存在じゃない」


「別の星の知能体」


「約130年周期で接近する」


「鍵は“呼ぶため”の装置」


「降臨時に生命エネルギーを吸う」


 男は、無言で聞く。


「でも」


 リゼルの声が、わずかに震える。


「降臨した後は違う」


「この星にエネルギーが満ちる」


「だから」


「鍵が生きている必要はない」


 一瞬。


 言葉を詰まらせる。


 だが。


 続ける。


「……クロノス先輩は」


「“呼ばれた後”は、生きていなくても鍵は機能する」


 沈黙。


 男の目が、わずかに細まる。


「……つまり」


 男が、静かに言う。


「降臨前、帝国のエルンストが死んだ後も役割を果たしたように」


「降臨後はクロノスが亡骸になったとしても、願いは届けられると」


「そうよ」


 即答。


「ヴァルターは、神を殺すつもり」


「そのために全部集めてる」


 息が荒くなる。


「お願い」


 リゼルが言う。


「王国に伝えて 絶対に大会へクロノス先輩を来させてはいけないと」


「急いで」


「間に合わなくなる」


 男は、しばらく沈黙し。


 そして。


「……分かった」


 と答える。


「必ず伝えよう」


 その言葉。


 リゼルは、小さく頷く。


「……お願い」


 それだけを残して。


 背を向ける。


 研究施設へと、戻っていく。


 その背中は。


 わずかに軽くなっていた。


 だが。


 その翌日。


 帝国・指揮室。


 重い空気。


 ヴァルターが、立っていた。


 その前に。


 一人の男。


 報告をしている。


「……以上が、研究者リゼルの発言です」


 低く、淡々と。


 そして。


 その顔は。


 昨日の男だった。


 リゼルが“託した”相手。


 王国のスパイだと信じた男。


 ヴァルターは、静かに聞く。


 そして。


 わずかに、笑った。


「……なるほど」


「やはり、まだ隠していたか」


 低く、呟く。


「鍵は、呼び出し装置」


「降臨後は生死問わず、機能を果たせると」


 ゆっくりと整理する。


 そして。


 その目が、細くなる。


「つまり」


「クロノスは死んでも 亡骸さえあれば、神という生命に願いを聞いてもらえると…」


 確信。


 完全に、理解した。


「クロノスがエルンストにした仕打ち… 忘れてはおらんぞ…」


 わずかに目を開くヴァルター。


 その瞳は復讐に囚われていた。


 報告した男は、何も言わない。


 ただ、頭を下げている。


「……よくやった」


 ヴァルターが言う。


「王国の“振り”は、自然だった」


 その言葉。


 すべてが明らかになる。


 帝国は。


 最初から。


 “王国のスパイ役”を用意していた。


 リゼルのような人間が。


 必ず接触を試みると読んで。


 そして。


 情報を抜くために。


「……大会が、楽しみだな」


 ヴァルターが呟く。


 その声には。


 確信しかなかった。


 一方。


 何も知らないリゼルは。


 再び、机に向かっていた。


 “伝えた”と思っている。


 間に合うと、信じている。


 だが。


 その真実は。


 すでに。


 敵の手に渡っていた。

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